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10/13

安土

本作はカクヨムにて総PV30万回、★2,000超えを記録した戦記のマルチ投稿作品です。

※カクヨム側の公開スケジュール(月水金更新)と歩調を合わせ、本作も【全45話・11月中旬の完全完結】に向けて、予約投稿にて一歩ずつ大切に配信してまいります。どうぞ安心してお楽しみください。

(本文のブラッシュアップにAIを一部利用して格調高く仕上げております)





いよいよ安土城の全容が目前に迫って来た。



まず目を引くのは幅広く一直線に天守へと伸びる大手道。



当時は敵襲に備え曲がりくねった、道幅の狭い通路が普通だったが、この大手道は安土城における信長の革新性を表すものの1つと言われている。



左馬助の操る馬は荒い息をあげながら安土城大手門の前を通過する。



安土城の大手門は雑多な野面積みの上に漆喰で塗られた白壁の高麗門で甍が眩しい。



そこからさらに安土山を半周、安土山の北東側で左馬助はようやく馬を静止させた。



歩みを止めるや馬はさかんに頭を振り、そのたびに水滴が飛ばされ宙を跳ねる。



左馬助は愛おしそうに馬の頭を撫でると地面に降りた。



俺も降りようとしたが、足の関節が固まって動かない。



なんとか左馬助に手伝ってもらって地面に降りたが、そのまま地面に座り込んでもう一歩も動けなくなった。



ここがどこかは分からないが、どうやらあの大手道を這って行かなくてもよくなったのは間違いない。




「動けぬのかえ?しようがないでよぉー」




左馬助はそういうと、門を抜けて曲輪の中に入り、しばらくして足軽四人と丸太を縄で括り付けた大きな戸板を持ってくると、その上に乗るようにと俺に言った。



どうやら即席の担架らしい。



俺がその戸板の上になんとか体を滑らせると、4人の足軽がそれを持ち上げる。



戸板の周りには太い縄が縦横に張られ、そこが持ち手代わりになっていた。



ここは安土城の何処なのか。



安土城には大手道の他に百々橋とどばし口と七曲り口、それに搦手口が存在する。



だが現代では、大手道以外は通行が禁止されているので、この道は知らなかった。



俺は担がれた状態で門を潜る。



この門も高麗門で、大手門に負けぬほど立派で美しい。



門を入った先には虎口はなく、土道の坂が曲がりくねりながら先へと続いている。



瀬田城から乗って来た馬も俺の戸板の後ろから左馬助に引かれてゆっくりとついてくる。



俺は坂道を戸板から滑り落ちないように懸命に縄に指を絡ませた。



しばらくすると突然石段が姿を現し、重厚な木の門が道を塞ぐ。



その門を通るとそこからは総石垣造りとなっており、石垣の上には黒漆を塗られた多門櫓が辺りを威圧する。



道幅も急に狭くなり、俺を担いだ戸板も何度も向きを細かく変えて進んで行く。



また途中に門があり方向を変えさせられる。



どうやらこの辺り全体が枡形虎口となっているようだ。



多門櫓の鉄砲狭間がいかめしい。石落としも彼方此方に設けられ、裏口とはいえ安土城の堅牢さが窺える。



そこを過ぎればようやく天守が間近に見える。



日はすでに西に沈み、淡墨を流したような仄かな明るさだけが天守を浮かび上がらせる。



そこから更に右に左に折れ曲がった道を行く。



途中にはまたもや櫓門が何度も行く手を塞ぎ、そのたびに直角近く向きを変える事を強いられる。



俺はまたもや胃から酸っぱいものが込み上るのを感じていた。



その後、黒い鉄板の張られた門の裏を通り抜け、二の門と三の門を抜けて本丸へ。



ここでやっと道が平坦になる。



本丸御殿の横を通って天守への門を通り、天守の真ん前で俺の乗った戸板は地面に降ろされた。



いつの間にいなくなっていたのか左馬助が本丸から走って来て、




「ようやく着き申したの、しばし待つがやで」




そう言い残し天守の中へと消えた。



俺は一人戸板の上に仰向きになって空を見つめていた。



すでに天に日の光はなく、代わって満天の星空が視界を埋めている。



綺麗だ………本当に綺麗だ………。



俺はしばし星空に見惚れていた。




◆◇◆




同時刻:京鳥羽




「右府と秋田城介、共に討ち損じたるか!」




光秀の怒号が唾と共に飛ぶ。



万が一………いや万々が一にもあってはならぬ事だった。




「申し訳次第も御座りません……この上は某腹搔き切ってお詫び致しまする………」




「たわけ」




光秀は脇差に手をやる内蔵助に扇子を投げつけ止めさせた。




「何奴だ?誰が知らせた?」




「はっ、本能寺の僧が申すには、亥の下刻頃、風貌風体妖しき男が現れた由。その者は森乱を通じて右府殿とまみえ、右府殿が本能寺を出立したのが子の上刻頃と聞き及びまして御座りまする」




「其奴、何者であるか?!」




「しかとは分かり申さず」




むむむ………光秀は呻くと斎藤利三が返した扇子をへし折った。



信長信忠親子を討てなかった以上は止むを得ない。




「右府の動静は如何に?」




「はっ、右府殿は秋田城介と合流後、瀬田唐橋を焼き落とし、安土に落ち延びられたものと相見え候」



ならばあの信長のこと、必ずや捲土重来を期すに違いない。



そうなれば京都にいては後手を踏む。



とりわけ坂本城が孤立する事態は避けたい。




「内蔵助、これより軍勢を率いて膳所に布陣致せ!坂本城との連絡を密と致し、東海道を封鎖!商人一人たりとて西に通すではないぞ!私は夜明けと共に禁裏に参内し、信長信忠討滅を言上致す。相分かったか、信長信忠親子は討ち果たされたのじゃ。兵らにもその旨を徹底し、京より西にはその風説を流布せよ!」




「ははっ!」



 


内蔵助が陣中を出ていくのを光秀は暗い目で見送った。




◆◇◆




同時刻:山城国宇治田原




家康は土豪山口玄蕃の館で眠れぬ夜を過ごしていた。



部屋の襖の向こうには平八郎が宿直をしている。



全ては………全てはあの男の謀叛がきっかけだった。



同日堺に投宿していた家康は、上方を立つ前に暇乞いをしようと京に向かった矢先、河内飯盛山で変報を知った。



その後錯乱したものの、すぐに逃避行を決め、木津川を渡りこの館で今は体を休めていた。



明智十兵衛………彼奴だけは許さぬぞ!



家康は爪を噛みながらそう心に決めた。




◆◇◆




再び同時刻:安土




小田切新一郎は戸板の上でいつの間にか寝入っていた。



信長・光秀・秀吉・勝家・家康が入り乱れる夢を見ながら………。





第一部 逃避編 完





―――――――――――――――――――――――




今まで読んで頂いた方々に感謝申し上げます!




ようやく第一部完まで来ることが出来ました。




次回からは第二部【深謀編】編がスタートします。






補足:内蔵助は斎藤利三。平八郎は本田忠勝です。



次回からは第二部【深謀編】編がスタートします。



補足:内蔵助は斎藤利三。平八郎は本田忠勝です。

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