第九話 なんで?
美羽と別れてしばらく歩いた朔弥だったが、ファーストフード店の前で立ち止まり、ポケットから取り出した五百円を見て呟く。
「ハンバーガー食べたことないんだよな。」
『主、お昼を食べて帰るなら、その前に家に連絡を入れましょう。』
「ああそうだな。」
使用人に昼食を食べて帰ることをメールで送った。
看板の前で財布に五百円を戻すと、後ろから声が聞こえる。
「ねえねえ、そこの君?」
振り返る朔弥の前には、高校生くらいの男三人組が立っていた。
「え?」
「君お金持ってるね。お兄さん達に貸してくれないかな?」
「なんで?」
「生意気だな、お前ちょっと来いよ。」
朔弥は、両脇を固められ店舗脇の路地に連れて行かれる。
「ほら出しな。」
不良は手をヒラヒラさせ要求する。
応じるつもりもない朔弥は、不良の手を払いのけた。
「このクソガキが!」
不良が朔弥の脇腹付近を狙って蹴りを出す。
「おっそ。」
蹴りを払い除けると、体勢を崩した相手の顔面に、そのまま正拳突きを入れる。
突き飛ばされた相手は倒れ、その場で意識を失った。
「ええー!」
連れの不良が驚く。
朔弥は構えを解かない。
「まだやる?お兄さん達?」
「このガキつえぇ…」
二人はのびた連れを担いで逃げていった。
朔弥は不思議そうにその姿を眺めている。
「何だったんだあれ?」
『主、喧嘩のようなやり取りに聞こえましたが、何かありましたか?』
朔弥は振り返り、店舗に向かう。
「さあ?そんなことよりハンバーガー!もう腹減ったよ俺は。」
朔弥は店内に入りカウンターで、ランチセットを注文する。
「五百円になります。」
財布から五百円を取り出し、店員に渡す。
「ありがとうございます。この札をテーブルに置いてお待ちください。」
朔弥が席に着くと、まもなくトレーを持った店員がやってくる。
「お待たせしました。ランチセットです。」
トレーに乗ったハンバーガーとポテトとドリンクのセットだ。
「これがハンバーガーセット。」
朔弥は包み紙を剥がし、一口食べる。
「うまっ。」
ぺろっとハンバーガーを食べ終えると、今度はポテトを食べながらドリンクを飲む。
「クロは食べれないから残念だな。」
『そんな事はありません。主が食事を楽しんでいる様子が窺えます。』
「俺、食事を楽しんでるのか。早乙女さんとも来たいなこういうとこ。」
『同級生と来ても、きっと楽しいですよ。』
「クロ、それいいな。みんなで来よう。」
朔弥は食べ終わったトレーを持って立ち上がる。
「どうすんだこれ?」
店員が駆け寄ってきてトレーを預かる。
「ありがとうございました。またお越しください。」
「どうも。」
朔弥はファーストフード店を後にし、桐生邸へ向かった。
桐生邸に着くと縁側に父の姿があった。
「ただいま戻りました。」
克政はあぐらをかいて、爪を切っている。
「おう、朔弥。どうだった。」
朔弥は照れた様子で話す。
「同じ中学の同級生になる子に会いました。」
「なんだもうお前、女の子と友達になったのか?」
朔弥は俯き返事をする。
「さあ、どうなんでしょう?よくわかりません。」
「なんだ?そのどん臭え話は。お前は全く……。」
克政は下を向いた。
「後、ハンバーガー屋の前で絡まれました。」
克政はピクッと反応を見せ、爪切りを止めて朔弥の方を向く。
「ほほぅ、でどうなった?」
「相手を一人倒したら逃げて行きました。」
克政は顎をさする。
「それは災難だったな。」
「いえ、俺はたいした……」
克政は首を横に振り、返事をする。
「お前じゃねぇ、相手の方だ。」
「え?」
克政は上機嫌に話し出す。
「バカなやつよ。朔弥に喧嘩を売るとはな。」
「父よ。何か楽しそうですね。」
克政は急に腕を組み、落ち着きがない。
「わからんか?喧嘩には華がある。」
「華ですか?」
「お前にもじきにわかるだろう。」
「はぁ…?それでは。」
お辞儀をしてその場を後にした。
「また後でな。」
その後、夕食はいつも通り二人で食べ、朔弥は疲れたのか、部屋のベッドで寝た。




