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第十話 本拠地移転

十数日経ち、朔弥の引っ越しが始まった。

部屋にある必要な荷物は、まとめて運送屋に運んでもらうことにした。

手荷物だけ抱え、家を出る。


克政も見送りに出てきていた。

「朔弥、達者でな。年末年始くらいは帰ってこい。」


「はい。」


使用人が声をかける。

「主様…泣いて…」


「バカか!俺が泣くわけないだろうが。」

克政は空を見上げた。

「すみません…」


朔弥も父を気にかける。

「父よ、近所なのですから大袈裟過ぎます。」


「う、うるさい!さっさと行ってしまえ!」


「何かありましたら連絡しますので、ご心配なく。」

朔弥は克政に一礼した。


車で数分走ると、桐谷家に着いた。

朔弥は使用人と共に、荷物を下ろして家に入れた。

そこへ運送屋のトラックも到着し、作業員が荷物の搬入を行う。


朔弥が使用人を呼び止めると、使用人は手を止め振り返る。

「なんでしょうか、若?」


「以前下見に来た時、隣の人から両親のことを聞かれたから、親の代わりとして紹介したいんだけど?」


「確かに。親がいないのは不自然ですね。私に任せてもらっても?」


「頼む。」


使用人と朔弥は隣の家に向かった。

インターホンを鳴らすと女性の声が聞こえてきた。


「隣に引っ越して来た桐谷です。ご挨拶に伺いました。」


『はーい、お待ちください。』


ドアが開くと、以前声をかけて来た隣人の姿があった。


「あらあの時の。こちらがお父様なの?」


使用人が和紙に包まれた箱を差し出す。


「以前、うちの子がお世話になったそうで、つまらないものですがお納めください。」


「あらあらあら、こんな立派なものありがとうございます。」

夫人は使用人から受け取った箱を、下駄箱の上に置いた。


「それと、頼み事って言うほどのことではないのですが、私ども夫婦は出張が多くてですね、この子をよく一人にしてしまうことがありまして。日頃から気にかけていただければありがたいのです。」


「そんなことお安いご用よ。何かあったら頼りなさい。」

使用人と朔弥は夫人に一礼をした。


「ありがとうございます。それでは失礼いたします。」


夫人がゆっくりと玄関のドアを閉めると、二人は家に戻り、朔弥は使用人にお礼を言う。


「ありがとう、助かったよ。」


「主様はこういうことも想定なさって、私をこちらに置いたのでしょう。」


「さすが父。」


「それと、入学式も私が、父兄として参加しますので。」


「わかった。」


一通り荷物の搬入も終わると、今度は使用人と制服の受け取りに車で向かった。

学生服取扱店で、仕立て終わった制服一式を受け取る。

使用人は学校から届いた入学案内を見ながら、必要なものを確認する。

「他にも必要なものがあるので、まとめて買いに行きましょう。」


「よろしく頼む。」

二人はショッピングモールに向かい、靴とワイシャツを数枚購入し、家路に着いた。


「着てみても?」


「はい。折角なので主様に写真を送りましょう。」

袋を破ると、金色のボタンが付いた、古風な黒い学生服が出てきた。朔弥が学生服に着替えると、使用人は朔弥を壁の方に誘導する。

「こちらに立ってもらいますか?」


朔弥は真っ新な白い壁の前に立った。

「こう、か?」

使用人は、朔弥にスマホのカメラを向ける。


「はい、なら撮りますよ。はい、ポーズ。」


2枚ほど撮り終えると、使用人は克政に写真を送った。朔弥は普段着に着替え、制服は自分の部屋のクローゼットに掛けた。


それから数日間、朔弥は使用人から家事の仕方を教えてもらう。

「よし、いいでしょう。これだけ出来れば生活は大丈夫だと思います。」


「すまない、助かった。」


「生活で困ったことがあったら、私にお申し付けください。すぐ伺いますので。」

使用人は一礼すると玄関に向かう。


「ああ、その時は頼む。」

使用人が家を出ると、部屋の中は静まり返る。朔弥はソファーの上に寝転んだ。

「ついに一人になったな、クロ。」


『主、大丈夫です。私もいます。』


「そうだな、頼むよ相棒。」


『お任せください、主。』

朔弥の中学校入学は、もう間も無くの事だった。

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