第八話 早乙女美羽
家の前で、朔弥がクロを呼び出す。
「クロ、◯◯中学までの地図を出してくれ。」
『検索中……。主、こちらが◯◯中学校までの案内図です。』
「道覚えないといけないし、ナビを使わず行くぞ。」
『分かりました。』
朔弥は、通学路の景色や看板を確認しつつ、画面の案内図の通りに歩く。
そして、家から十分ほどで中学校に到着した。
朔弥は校門の外から校舎を見ると、教室と思われる部屋には生徒の姿が見え、校庭では体育の授業が行われている。
「クロ、ここが中学校か。」
『左様です。主、何かわかりましたか?』
朔弥は、校門脇の壁に寄りかかる。
「いや、なんも。そもそも中に入れないからな。」
『主、これ以上ここにいても、意味はないのかもしれません。』
「移動するか、どうせだからこの辺散歩しようぜ。」
『了解しました。』
朔弥は、帰り道とは反対方向に歩き出した。
しばらく歩くと、路肩で自転車を眺めてる一人の少女の姿があった。
朔弥はクロに状況を説明する。
『トラブルでしょうか?近づいて確認してみましょう。』
「わかった。」
同世代くらいの女の子がペダルを回している。
朔弥は声を掛けた。
「どうした?」
少女は朔弥の声に驚くも、すぐ柔らかい表情に戻った。
「ちょっと用事があったから出掛けてたんだけど、帰り道で自転車のチェーンが外れちゃって……」
自転車のチェーンは完全に脱落してペダルは空回りしている。
「ちょっと待ってろ。」
朔弥は少女から離れ、クロを呼び出す。
「クロ、近くに自転車屋無いか?」
『検索中……。二百メートル先にあります。』
「わかった。」
朔弥は少女のところに戻る。
「今調べたら、近くに自転車屋があるから、そこ行くぞ。」
「ごめんなさい。ありがとう。」
美羽が自転車を押し、二人で歩き始めた。
朔弥が声を掛ける。
「帰り道って言ってたけど、家近いの?」
女の子は振り向きながら答える。
「いえ、もう少し距離があります。」
「そっか。」
たわいもない話をしてるうちに、自転車屋に到着した。
店主が出てくると、チェーンを見るなりささっと直す。
「五百円ね」
少女は財布を開くと、手持ちが足りない事に気付く。
「あ、お金足りない…。」
「しょうがねえな、ほら。」
朔弥は少女に五百円玉を渡す。
「え?いいの?」
「後で返せよな。」
少女は店主に五百円を渡した。
「まいどー。」
二人は自転車屋を後にする。
「ありがとうございます。私、早乙女美羽。」
「俺は桐谷…朔弥。」
「もう少ししたら家着くので、付いてきてもらってもいいですか?お金返したいし。」
「ああ、わかった。」
二人は歩き出した。
「桐谷君は家近いの?」
自分が来た道の方向を指差しながら答える。
「そこの中学校から十分くらいのとこだな。」
少女は首を傾げながら朔弥に問う。
「同じ小学校じゃないよね?見たことないもの。」
「三月に引っ越してくるんだ。四月から中学生、今日は通学路の下見。」
「今年入学?同じクラスになるかもね?」
「ん?同級?」
少女は笑顔で応える。
「私も四月から中学生だよ。」
「その時はよろしくな。早乙女さん。」
「よろしく〜。」
美羽はまた前を向いて歩き出した。
やがて、グレーの壁の家が視界に入ってくる。
「あっ、あそこだよ私の家。」
「着いたか。」
自転車を家の敷地に止め、美羽は自宅に入っていく。
(おかーさーん)
家の中から美羽の声が聞こえる。
それから少しして美羽は家から出てきた。
「はい、桐谷くん。」
美羽は朔弥の手のひらに、五百円を乗せる。
「おお。」
朔弥は受け取った五百円をポケットに突っ込んだ。
そのあと、母親も家から出てきて朔弥に一礼する。
「ありがとうございます。美羽がお世話になりました。」
「いえ。それでは。」
朔弥は軽く会釈してその場を去る。
「またね桐谷君、四月に学校で会おうねー。」
大きく手を振り見送る美羽。朔弥も振り返す。
スマホの画面を見ると、時計は昼前を表示していた。
「おっ、こんな時間か。クロ、そろそろ帰るか。」
『帰りましょう。今日も良い事をしましたね、主。』
腕組みしながら、しかめっつらになる朔弥。
「なんだよ聞いてたのか。」
『接続中だから聞こえますよ。』
「まぁ、いいや。」
入学前に一つ、楽しみが増えた朔弥だった。




