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第五話 嬉しい気持ち、複雑な気持ち

しばらく歩くと、小さな子供が一人でうずくまっている。

近くに親の姿はない。


「目の前に小さな子がいるぞクロ。」


状況を話す朔弥。


『迷子の可能性がありますね。

子供の目線に合わせて声を掛けてみて下さい。』


朔弥は屈んで声をかける。


「おい、大丈夫か?」


すると子供の表情が曇り出す。


「お母さんとはぐれちゃった……。」


クロの言うとおり迷子のようだ。


「ど、どうする?」


『近くにインフォメーションセンターというところがありますので、そちらに案内しましょう。』


「案内してやるからついてきな。」


「うん……。」

朔弥が手を差し出すと、子供は少し迷いながらもその手を握る。

幼い子供と手を繋ぐのは初めてだった。

朔弥は力を込めないように加減をする。

子供は逆に朔弥の手をしっかりと握ってくる。

(不安だったのだろうか……。)


少し歩くとインフォメーションセンターの看板が見えてくる。その前では女性と職員が話をしている。


「あ!おかーさん!」


朔弥の手を振り解くと、母親らしき女性のもとへ走り出す子供。


「もう!どこ行ってたの!心配したじゃない。」


すると子供が朔弥を指差す。


「あのお兄ちゃんに連れてきてもらった。」


母親は何度もお辞儀をする。


「ありがとうございます。」


朔弥は照れた。


「いや、別に。通りかかっただけだから。」


「お兄ちゃんありがとね。」


手を振る子供。

それに合わせて朔弥も手を振りながらその場を後にした。


「じゃあな。」


インフォメーションセンターが見えなくなった頃、

ふと朔弥が口を開く。


「あの子供、喜んでたな。」


『主が親切にしたおかげです。』


自分の頬を指で掻く。

「良いことをするって気持ちがいいな。」


『それが嬉しいという気持ちかもしれません。』


朔弥は胸元に手を当てる。

「これが嬉しい気持ちか……。」


エスカレーターの前まで来た。

先に並んでいた客の動きを観察する。


「ああやって乗るのか。」


タイミングを合わせてステップに乗る。


「乗れた。帰りはエレベーターに乗るぞクロ。」


『わかりました、主。』


エスカレーターで二階に上がる。

ここは一階とは違い、フードコート、楽器店、ゲームセンター、映画館などが並ぶエリアだ。


「下と比べたら賑やかなとこだな。」


『休憩所も兼ねているエリアですね。』


映画館の前で立ち止まる。

若い人からお年寄りまで様々な人が並んでいる。

壁一面にはポスターが飾られ、

ポップコーンの甘い香りが漂う。

「ここが映画館か。テレビでしか観たことないな。」


『映画館は、一人でも利用できますが、デートや家族連れで訪れる方も多いですね。』


朔弥は腕組みをしながら考える。


「親父らは映画なんて見ないだろうし、俺が来るならデートか。」


『主にも相手がいれば、それも可能ですね。』


「今はいないからいいや。」


苦笑いしながら映画館を後にした。

帰りはエレベーターに乗り一階で降りる。


「変な気分になるから、あんまり乗りたくないな。

エレベーターって。」


『主は乗り慣れてないだけですよ。』


朔弥は重い足取りのまま、施設を後にした。


「これも修行か……」


屋敷に着くと門の前で使用人が立っている。


「若、旦那様が広間でお待ちです。」


首を傾げる朔弥。


「父が?なんだろ。」


父がいる広間へ向かう。


「ただいま帰りました。」


あぐらをかき、待つ克政の姿があった。


「待っていたぞ、朔弥。時間はかかったがな、まあいい。」


そう言うと、克政は鍵の束を朔弥に放り投げた。


「これは?」


「昨日話してた家の鍵だ。」


立ち上がる克政。

「お前にはこの桐生邸を出て行ってもらう。」


「ええ?」

突然の話に驚く朔弥だった。

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