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第三話 極道の跡取りですが、お断りします。

「家から出る……父はどう思うだろうか。」


『主、たとえ暴力団の父だとしても悲しむと思います。』


悲しむという文字を見て少し胸が痛んだが、朔弥には分からなかった。

「父が悲しむとは一体何?」


『家を出るという主の考えに反対することだと思います。』


既に朔弥の気持ちは固まっていた。

「そうであっても俺は家を出たい。」


『なら一度、父と話してみることです。』


(今夜にでも話してみるか)

夕食の席、使用人が食事の準備をしている。準備ができると父と二人で食卓を囲む。


克政はおもむろに朔弥を見ながら、

嬉しそうに今朝の出来事を語り始めた。

「それにしても強くなったな朔弥。」


「いえ、父には敵いません。」


「はぁーはっはっは!

分からんぞ?俺でも今のお前には負けるかもな。それにしてもお前が中学に入学か、将来の會長も安泰だな。」


持っていたお椀と箸を置き、立ち上がる朔弥。


「どうした朔弥?」


小刻みに震える拳を握り込む。

「父よ。家督は継ぎません。」


父も箸とお椀をテーブルに置く。

「なんだと?」


「家を出て、暴力団ではなく、普通に暮らしてみたいのです。」


「堅気ということか。」


「それも違います。縁を切るとかそういう話ではありません。」


「そうか……なら外に出て満足した結果を得て戻って来い。その時また話してやる。」


握っていた拳が緩む。

「宜しいのですか?」


「まぁな。俺だって早々にくたばったりせんわ。それにお前の小学生の時間を奪っていたのは事実だからな、そのくらいの猶予はくれてやるわ。」


固かった表情も緩くなる。

「ありがとうございます。父よ。」


「そうなったら家が必要だな……おい!」

付き人が小走りで近寄ってくる。


「この間借金のカタに取り上げた家あったろ?どうなってる?」


資料を持ち出し指でなぞるように確認をしている。

「はい。売却するため桐生の名義に変えたばかりです。」


「なら売却はなしだ。朔弥を住まわせる。」


「はい。直ちに段取りを。」

そう言うと奥に下がっていった。


「父よ、家を出るとして苗字は桐生のままの方がいいですか?」


克政は片肘をつき頬杖をしながら、もう片手はテーブルを指先で叩く。

「いや、ここらじゃ桐生會を知らない者はいない。苗字は変える。そうだな桐谷はどうだ?」


座ったまま前のめりで父の話を聞く。

「桐谷朔弥、悪くないです。」


叩いていた指が止まる。

「なら決まりだな。苗字の変更はこちらでやっておく、待っていろ。」


「はい、ありがとうございます。」


朔弥の一人暮らしが間もなく始まる。

自分の部屋へ戻ってからも、なぜか明日のことばかり考えていた。布団に入って目を閉じても、これから始まる新しい生活が頭から離れない。

いつもならすぐに眠れるはずなのに、その日はなかなか寝付けなかった。

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