第十六話 初めてのデート
翌日の朝、
朔弥は学校の前で優介と会った。
「桐谷くん、昨日どうだったの?」
心配そうな表情で、優介が朔弥に問いかける。
「話ついた。もう手出してこないってよ。」
朔弥の答えを聞いたら、パッと優介の顔が明るくなった。
「桐谷くんてほんとすごいよね。」
「そうか?何もなかったよ。」
校舎の中に入ってすぐに、バタバタと背後から走る音が聞こえてくる。
「おっはよ。ねぇ、何の話?」
朔弥の肩を軽く叩き、美羽が声を掛けて来た。
「大したことじゃないけど、早乙女さんどうした?」
「桐谷くん、ちょっと来て。」
美羽が朔弥の袖を引っ張って、階段の下の空きスペースに入り、振り返った。
「今度の日曜、暇?」
「何で?」
「この前クロに聞いたんだ。ハンバーガー好きって。」
「確かに言ってたな。それが何?」
「もう!」
美羽が朔弥の耳元で囁く。
「美羽からデートのお誘いですよ。」
「ん?デートって何?」
「はぁー、もう桐谷くんったら……ハンバーガーを一緒に食べ行こって誘ってるのよ?」
「確かに、別なやつも食べてみたかったから、いいなそれ。」
「なら決まりね。」
そして、約束の日曜日
街には爽やかな風が舞い、木々には瑞々しい新緑が生い茂る。
朔弥はパーカーにジーンズのラフな格好で待ち合わせ場所にやって来た。
「なあ、クロ」
『どうしましたか、主?』
「デートって何すればいい?」
『男性が女性を、エスコートするのが礼儀と言われてます。』
朔弥はスマホを取り出し、エスコートについて調べ出した。
「コイツはむずいな。掛かるお金は男持ちなの?そんな無いよ俺。」
朔弥は頭を抱えた。
『主、割り勘という手もあります。相手と相談して決めるのも一つです。』
「そうか、そこは聞いてみよう。」
『後は、相手を思いやる心です。』
「思いやり?」
『主、これも経験です。頑張って下さい。』
「桐谷くーん。」
朔弥はイヤホンをポケットに入れる。
白いワンピースに麦わら帽子を被った美羽が、手を振りながら近づいて来る。
「ごめん待った?」
「いや、それより行こうぜ。」
二人は並んで歩き出す。
「桐谷くん、今日の美羽の格好どう?」
美羽は、朔弥の前で軽く一周回って見せた。
「……似合ってる。」
言われた美羽は、帽子を深く被り直した。
他愛もない雑談を交わしながら、ハンバーガー屋へ向かう。
店の前のメニューを見ていると、男が声をかけてきた。
「ねー君たち。」
朔弥が振り返ると、声を掛けてきた男が青ざめる。
「あっ……。」
以前、朔弥にケンカをふっかけて来た男だった。
「あ、先輩、この前はどうも。」
「やべ、用事思い出し……」
朔弥は、逃げようとする男の腕を掴む。
「俺たちこれから食べるんですけど、2人分奢ってくれませんか。」
「……はい。」
美羽が心配そうに朔弥の顔を覗き込んでくる。
「桐谷くん、誰なの?」
「この前ここに来た時に、お世話になった先輩。」
(もうここに来るのやめよう……。)
男はそう思った。
三人でレジに向かい、朔弥と美羽がそれぞれ注文し、男が金を払う。
「先輩も一緒にどうですか?」
「もう勘弁して下さい……。」
そう言うと男は店を出て行った。
二人で立って待っていると、朔弥が美羽に言う。
「席で待ってて、持って行くから。」
「うん、わかった。」
美羽は空いた席に座り朔弥を待つ。
(桐谷くんったら、気を遣ってるのかしら?)
少しすると朔弥がトレーを持ってやってくる。
「お待たせ。」
美羽も朔弥からトレーを受け取る。
「ありがとう。」
二人は向き合って食べ始めた。
少しして、美羽が話しかける。
「桐谷くんってさぁ、他に好きなことないの?趣味とか?」
朔弥も言われたことを考えてみる。
(何も思いつかない。)
「特にないけど、体動かすのは好きだよ。」
「わかった。今度、他にも行ってみよ。」
その後も美羽から質問される毎に、朔弥は美羽の表情をうかがいながら答えた。
「俺と話しても楽しくないだろ?こんな感じだし。」
美羽の表情が曇りだす。
「何でそんなこと言うの?」
「折角、早乙女さんから誘われたのに、何かしないといけないなと思っていたんだけど、わからなくて。」
そんな朔弥を見て美羽が笑いだす。
「ぷっ…なんか変だなって思ってた。気を遣ってくれてたんだね、ありがとう。」
「いや……」
朔弥は頭を掻きながら、少し目線を逸らした。
美羽も考えながら話す。
「やって欲しい事なら……。そう、次から私を美羽って呼んで?私も朔弥くんって呼ぶから。」
「そんなことでいいのか?わかった。」
朔弥がそれ以上何かしなくとも、美羽は朔弥との距離が縮まった気がして満足していた。




