第十五話 引き際
春日大和が口を開く。
「桐谷朔弥についてだと?お前何もんだよ。」
「僕は、桐谷と同じクラスの宮園といいます。そっちに行っても?」
大和は椅子を引く。
「こっち来て座れ。」
貴文は案内されるまま、大和の向かいに座る。
「で、その桐谷がどうしたって?」
机に手を付き、懇願する貴文。
「桐谷を泣かして欲しいんです。」
貴文の対面にいる大和は、机で肩肘をつく。
「はぁ?なんか恨みでもあんの?」
「深い恨みはありませんが、気に食わないんです。僕の手では無理なので助力を頂ければと。」
「ふーん、こっちも連れをやられて、ムカついてはいたが…。」
「なら!」
大和は貴文の顔の前に手を伸ばし、制止させる。
「でもなぁ、人を動かすのってこれがいるんだよ、わかるか?」
伸ばした手で輪っかを作り、貴文に要求する。
「ここに。」
貴文は封筒を大和に差し出す。
大和が封を開いて数えると、そこには十万円が入っていた。
「お前、話が早いな!気に入った。」
「ありがとうございます。」
貴文が深々と頭を下げると、大和が肩を組んできた。
「いつやるよ?」
「明日の放課後、近くの橋の下はどうでしょう?」
大和は貴文から離れると机に座り、指をポキポキと鳴らす。
「どうやって呼び出す?」
手下達が手を挙げる。
「うちらが行きますよ。」
「いいだろう、明日が楽しみだな。」
翌日の昼休み。
「おい、中野。」
優介が振り向くと、一昨日の二年が立っていた。
「あ、あ……。」
「今日はお前に用はねぇ。桐谷は?」
「桐谷くん?ええと教室にいたかな。」
「お前、呼んで来い。」
「わ、わかった。」
優介は走って教室に戻ると、朔弥はイヤホンをして机に伏せていた。
「桐谷くん、桐谷くん。」
目をこすりながら目を覚ます。
「ん……中野くん、どした?」
「この前の二年が呼んでるよ?」
「なに?懲りねえなぁ。どこ?」
優介が指さした方向に二年の姿があった。
朔弥は手招きしてる二年の方へ歩き出す。
「何の用?」
「放課後、ツラ貸せ。大和さんが呼んでる。」
「大和?誰それ?」
「いいから、近くの橋の下まで来い、わかったな。」
そう言うと二年は去って行った。
後から優介がやってくる。
「やばいよ桐谷くん!大和って言ったら二年をシメてる人だよ。」
「んー。まあ、行ってみたらわかるだろ。」
朔弥は鼻歌を歌いながら去って行く。
「桐谷くーん……。」
優介はその姿を目で追うしかなかった。
放課後の河川敷。
朔弥と大和は向かい合って立っていた。
離れたところから大和の手下が、ニヤニヤしながら見ていた。
「お前が桐谷か?」
「ああ、あんたが大和さんだっけ?」
「お前に恨みはないんだが、勝負しようじゃねぇか。」
「まぁ、いいけど。」
橋の下を吹き抜ける風が髪を揺らす。
「かかってこい」
大和が手招きをする。
すかさず朔弥が大和の懐に飛び込み、顔目掛けて一撃を入れようとしたが、大和が攻撃を受け止めた。
感心したかのように朔弥が頷く。
「へぇー、今の止めるんだ…。」
大和は余裕の表情を浮かべる。
「思ったより大したことねぇな、お前。」
「じゃあ今度は、これを止めてみてよ。」
朔弥は構えを変え、目つきを一段と鋭くする。
大和は朔弥の異常性を察知した、
一歩、二歩と後退りする
朔弥の威圧感と異様な雰囲気にたじろいだ大和は、朔弥がかかってくる前に手を振って制止した。
「やめだ、やめ。俺の負けでいい。」
朔弥は構えを解き、首を傾ける。
「ん?なんだよ。」
大和は自分の指で頬をなぞる。
「お前、向こう側の人間だな、俺には分かる。」
朔弥は両手を上げ、とぼける仕草をする。
「人を化け物みたいに言うな。」
「化け物だよお前は。悍ましい目付きしやがって。俺らはもうお前らには手を出さねぇから、お前らも手を出すな。」
「他の二年が来ても一緒だぞ。俺は友達を守るからな。」
「他のやつにも言っておく、信用しろ。」
「わかったよ。」
後日、
大和は貴文を呼び出した。
「これは返すわ。俺らじゃ、あいつには何もできねぇ。」
大和は続けて、教室にいる同級生にも伝えた。
「桐谷朔弥には手を出すな。お前ら死ぬぞ。」
そう言うと教室は静まり返る。
貴文は受け取った封筒を雑にポケットに突っ込み、顔を真っ赤にして教室を出て行った。
「くそっ!腰抜けの二年め。それなら三年だ!」
貴文は足早に校舎を後にした。




