第十三話 美羽とクロ
入学式から数日が経ち、朔弥の周りには多くの友人が集まるようになった。
そんな日の昼休み。
「ねえ、桐谷くんサッカーしに行こうよ。」
「ん?サッカー?そういえば、この間の体育でやったな。」
「行こうよー。」
「わかった、わかった。」
そこに美羽もやってくる。
「桐谷くんが、サッカーしに行くなら見にいこー。」
美羽は友達の手を引いて、朔弥達と外へ向かった。
運動場では、多くの生徒がそれぞれ遊んでいる。
朔弥のグループも男子は運動場に、女子は近くの木陰から観戦する側に分かれた。
女子グループのところに、朔弥がやってくる。
「ごめん、早乙女さん。俺のスマホとイヤホン持っててくれる?」
朔弥が美羽の手のひらにスマホとイヤホンを置くと、美羽はイヤホンを見て首を傾げた。
「イヤホン?何に使ってるの?」
「ああ、スマホの中にAIが入ってて、そいつと喋れるんだよ。」
「ええー!何それ、楽しそー。私も喋れる?」
「いいよ、喋っても。」
朔弥は操作方法を伝える。
「わかった、怪我、気をつけてね。」
「ああ。」
朔弥は男子達の元に戻り、サッカーを始めた。
美羽はイヤホンを耳につけるとスマホに向かって語りかける。
「もし…もし…?」
『はい。どちら様でしょう?』
「桐谷くんの友達の早乙女…美羽っていいます。あなたは?」
『私は主からクロと呼ばれてます。』
少し間を空け、美羽が話しかける。
「ねえ、クロ。桐谷くんのこと教えて?」
『どのような事でしょうか?』
「んー。好きなもの…とか?」
『主は以前、初めて食べたハンバーガーを気に入っておりました。』
「ハンバーガーね、わかった。あと……好きな子…とかいるの?」
『プライベートな質問は、個人の情報となるのでお答えできません。』
「えー。クロのけちー。」
一方、朔弥達が出ていった後のクラスの中には、貴文のグループと数人の生徒が残っていた。
貴文が口を開く。
「桐谷はどんな感じだ?」
友人達が答える。
「どうって……この間の体育も、みんなより動いてたよね。」
「運動は得意なのかも。」
貴文は窓枠に寄りかかり、運動場で遊んでるクラスメイトを眺める。
「僕は、走るの得意じゃないからな。」
窓枠に繋がった手すりを握ると、その手に力が入る。
「くっそー。アイツがいると美羽に近づけない。」
隣で友人も腕を組み、外を眺める。
「最近ずっと一緒だからね…」
貴文は手すりを一度強く叩いた。
「特に気に食わないのは、桐谷からじゃなく、美羽から寄っていくからな。何で僕じゃなく桐谷なんだよ!いつか恥かかせてやる。」
「あんまりそういうの、やらない方がいいんじゃない?」
「う、うるさい!」
貴文は友人を軽く手で押しのけ、爪をかじりながら教室から出ていった。
運動場では、サッカーに夢中になっている男子達のところへ女生徒がやってきて、昼休みが終わりそうだと知らせた。
「え?もうそんな時間?」
「ほら見なよ。」
周りの生徒も校舎に戻っていく。
「なら俺達も戻らないとな。」
一人の男子がみんなに声をかけた。
朔弥の元に美羽が走ってくる。
「はい。スマホとイヤホン。」
朔弥は美羽にスマホとイヤホンを渡されると、スマホはポケットにしまい、イヤホンは耳に装着した。
「サンキュー。」
美羽は女生徒達の元に戻っていく。
朔弥は美羽が離れたところでクロに聞いた。
「なあ、クロ。早乙女さんと何か話したのか?」
『主がこの前食べたハンバーガーの話はしました。』
朔弥は腕を組んで、以前のことを思い出す。
「ハンバーガー?ああ、確かに美味かったしな。他には?」
『プライベートな質問だったのでお断りしました。』
「プライベート?何聞かれたんだ?」
『そこも早乙女さんのプライベートな話なので。』
「なんだよそれ。
それはそうと、みんなとするサッカーって楽しいな。」
『主、また一つ楽しみが増えましたね。』
「そうだな、またみんなでやりたいな。」
朔弥はイヤホンを外し、ポケットに戻した。




