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脳なき猫、翼を広げて世界を包む!〜ヒーロー生活始めます〜  作者: 桜庭木陰
第2章 赤い翼編

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恐怖

「…怖いの?」

私は驚いて、呂都丸に聞き返した。

体は相変わらず動かない。

ヘビはじっとこちらを見ている。

『天音羽、何があった?』

優がゆっくりと喋る。少し押し殺したような声で。

「呂都丸が怖がってる。私も動けない。」

ヘビは動かない。細長い舌だけが、チョロチョロと揺れている。

『…もしかしたら』

少し間があった後、イヤホンから優の声が聞こえた。

『アミメニシキヘビかカーペットパイソンか…』

「なんて?」

謎の単語がたくさん出てきて、私は思わず聞き返した。

『猫などの小動物を食べたことのある大きなヘビかもしれない』

「それじゃあ…猫の天敵?」

『あぁ…そうかもしれない』

「どうしよう…」

ヘビはなぜか、まだ動かない。何を考えているのかわからない。ただじっとこちらを見ている。

いや、そもそも心があるのだろうか。

そこかしこから聞こえていた声援が、心配や不安の声に変わっていく。

早くなんとかしないと。でももう、笑顔をつくる余裕もない。

私は大丈夫でも、呂都丸はだいぶキツいのかもしれない。

私の気持ちとは裏腹に、心臓は落ち着きなく脈打ち、冷や汗はとめどなく滴り落ちる。

体の震えも抑えることができない。

『天音羽、一度引け。そいつから離れた方がいい。もし今攻撃されたら…』

「うん…でも、足が動かなくて…」

全く体が言うことを聞かない。

ー動物になった実験体が人と融合した場合、意識は実験体のものになり、融合した人は体を実験体に貸すだけになるー

フェリスの言葉を思い出す。

この体の中にいるのは、私だけじゃない…呂都丸もいる。

そんなことを、私は今さら実感した。

『ごめん、姉ちゃん…』

呂都丸が震えた声を上げる。

「大丈夫、大丈夫だよ」

私の体にこれだけ呂都丸の気持ちが表れてるなら、私の気持ちも呂都丸に通じているかもしれない。

私が、焦るわけにはいかない。

「呂都丸、一度下がろう。一歩ずつ、足を動かすよ。できる?」

『うん…』

私は一度深呼吸をし、ゆっくりと右足を持ち上げた。

ズリ…

コンクリートを引きずる音がし、ヘビが一歩こちらに近づく。

『姉ちゃん…!』

呂都丸が悲鳴に近い声を出す。

どうするか…。

そうだ。フェリスがいる…!

目の前のヘビで頭がいっぱいだったが、フェリスに手助けしてもらえれば…!

そう思い、私はフェリスを探す。

フェリスはヘビの頭上を旋回し、様子を伺っている。

そのとき、私の視線の先を追ったのか、ヘビも自分の頭上を見上げた。

ヘビの金色の目が、フェリスを捉える。

瞬間、ヘビの体が大きく膨らんだ。

その背中から、長い触手のようなものが飛び出す。

「…何?!」

私は驚き叫んだが、裏返った声しか出なかった。

とっさに身構える。

だが、私には何も向かってこなかった。

ヘビから出た何かは一斉に、真っすぐフェリスへと向かっていく。

触手のようなものの先端が2つに分かれる。

その間から太陽に照らされ、何かが光った。

「…牙?」

あれは、触手じゃない。

数多の金色の目が光り、フェリス一点に集中していく。

「…たくさんのヘビ」

多すぎる。あんなの一気に受けたら…!

「フェリスさん…!」

私は呟き、フェリスを見上げる。

動くことはできない。

ただ、その先を見守ることしか。

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