ヘビと鳥
多数のヘビがフェリスへ近づいていく。
「どうしよう…」
まさか、急にあんなものが出てくるなんて、思わなかった。
このヘビ、今までは何も本気じゃなかったんだ。
私は、焦りで拳を握りしめた。
このままだと、フェリスが危ない。
私に何か、できることは…。
『天音羽、今のうちにヘビから離れろ。』
このまま…?フェリスだけ置いて?
「でも…!」
『今できることはない。一度引け』
優は諭すように落ち着いた声を出す。
「…わかった」
呂都丸も限界に近い。私だけが動こうとしてはだめだ。
私はヘビから離れながら、フェリスの方を見上げる。
「…多いな」
フェリスが何か呟く。
「まぁ、大した支障はないが」
フェリスはそう呟き…翼を畳んだ。
「フェリスさん…!?」
フェリスはゆっくりと落ちていく。
大量のヘビに呑み込まれていく。
体が、見えなくなっていく。
「だめ…!」
私は、必死に足を前に向け、走り出した。
『待て!天音…』
優が警告を言い終わらないうちに、大量のヘビの中腹部分が真っ二つに分かれた。
「…あれ?」
私は目を見開き、何が起こったのかヘビを見つめた。
真っ二つに分かれたヘビたちの間から、一際金色の目を光らせ、フェリスの姿が見えてきた。
一度畳んだはずの翼を、再び広げている。
だがヘビは瞬く間に元の姿へと戻り、またフェリスへ襲いかかる。
『フェリスもこれ以上は…』
優が少し諦めたような声を出す。
だがそこからは、あっという間だった。
フェリスはそこから一度も、ヘビに触れさせなかった。
四方八方から襲いかかるヘビに、いつ揃えたのか、上空に並べた矢を放ち、全て落とす。
当のフェリスは矢を2本まとめて弓にかけ、多数のヘビを出した最も大きなヘビに照準を合わせ…金色の2つ目を一発で射抜いた。
ドロっとヘビの体は崩れ、全て消えていった。
「同じ手は喰らわない」
フェリスが最後に、小さくそう言った。
「…え」
『…は?』
私と優は同時に声を漏らす。
その場にいた誰もが、息を呑み、そのまま飛び去っていくフェリスに釘付けになっていた。
…ただ、1人を除いて。
✽✽✽
「…あれ?」
天音羽たちが小さく声を漏らしたのと同時に、桃李も目を見開き、この現状を驚いていた。
「…上手くいきませんでしたね」
亜胡忌も驚き、モニターを凝視する。
「…おかしいな。僕の見立てでは、これで余裕だと…」
桃李はしばらく顎に指を当てて考え込んでいたが、だんだんと口角を上げ、楽しそうに笑い出した。
「アッハハハ!」
椅子から飛び退き、腹を抱えて笑い出す。床をコロコロと転げ回って。
白衣に付けた試験管が、耐えきれずにヒビをつける。
「…やめてください。床汚いですよ」
亜胡忌は嫌そうに顔をしかめ、桃李をたしなめる。
「だって面白いでしょ!何これ最高!」
桃李は床にあぐらをかき、デスクの上のモニターを見上げる。
「何でもないような顔して、全部倒しちゃったよ!僕の準備した毒なんて、一度も喰らわなかった!」
「あぁ、ヘビの牙に毒を仕込んだんでしたっけ。」
「いや〜、一応頑張って用意したんだよ?いろんなもの調合して、フェリスを確実に殺せるようにしたのに…」
桃李は金色の目をらんらんと光らせる。
「全部水の泡にされた!最高の気分だ!」
「楽しそうですね。もっと怒るとこじゃないですか?」
「何に怒るの?僕は嬉しいんだよ」
桃李は、口を横に大きく広げ、金色の目を三日月のように細める。
「ほら見て!このフェリスの動き!一度翼を畳んでヘビの真ん中から斬りつける!翼ってこんな働きもできたんだね。面白〜い」
亜胡忌もモニターを観る。確かに、翼で斬りつけるとは思わなかった。
それに、上空で動きながらの射撃。
安定しない中であそこまで正確に射抜けるものなのか。
「フェリスは僕が思った以上に、いい研究対象だったみたいだ」
桃李はそう呟くと、急に、試験管を手に持ち、中の液体をモニターにぶっかけた。
モニターは、煙を上げる。
「あぁ〜大切なモニターを…」
亜胡忌がため息をつきながら、テキパキとモニターを処理する。
「亜胡忌、今の映像のデータは?」
「保存し忘れていました。」
「よし、じゃあ仕方ないね」
「はい、仕方ないですね」
桃李は満足げにうなずいた。
大切なデータが消えたにも関わらず、2人は落ち着いた表情だ。
そもそも、データを残すつもりはなかったかのように。
「クルオル様にはどう説明を?」
「ん〜…まぁテキトーに言えば許してくれるでしょ。そもそもカメラ仕込んでたこと伝えてないし」
そう言うと、桃李は踵を返し、部屋を出ていった。
「全く…後処理が大変ですね。」
亜胡忌はため息をつきながらモニターの残骸を片付け始める。
「…僕はフェリスより、こっちが気になりますけどね~」
茶色い目をスッと細め、何かを考え込む。
「みんな、フェリスに気を取られすぎですよ」
今回の件ではっきりとわかった。
脅威は、フェリスだけではない。




