準備
「優、私思うんだよね。」
「何をだ。」
「うーん…あれ、なんて言おうとしたんだっけ?」
「…は?」
速攻で話そうとしたことを忘れてしまった。
「…ごめん。」
「…まぁ、思い出してから話したらいい。」
少し気まずい空気が流れる。
…優には申し訳ないけど、こういうときってあるよね。仕方ない。
「まぁ、たぶんそれほど大事な話ではなかったと思うから」
「そうか。なら思い出さなくてもいい。」
「…辛辣だな〜」
「天音羽の変な話を全部拾っていたら、時間がいくらあっても足りないからな。」
「そんなに言わなくても良くない?」
「姉ちゃん、映画の話…」
「うん?映画?」
呂都丸が、いそいそと会話に入ってきた。
先程まで呂都丸が遊んでいた音の鳴るボールは、優の足元に転がっている。
…さては、優が怖くて取れないんだな?
「ちょっと失礼」
「どうした…わっ」
私が優の足元に近づいた瞬間、優はヒュッと後ろに引き下がった。
「ボール取ろうとしただけだよ」
「……あぁ、悪い、気づかなかった。」
優はだいぶ間を置いたあと、少し目をそらして謝った。
「?」
「ありがとう姉ちゃん。…それで、映画の話は?」
「??」
映画の話とは…?
「ほら、電話来てたじゃん。あの眼鏡のおじさんから」
「……あ。」
そうだ思い出した。今日はそれを話すために優を呼んだのだ。
「優、この前の私をモデルにした映画なんだけど、また呼ばれてさ。もう一回動きを確認してほしいんだって。」
「あぁ、そうか。いつ行くんだ?」
「えっと…」
「明日でしょ?」
呂都丸が助言を入れてくれる。
「あぁ、そうそう!」
私はブンブンと首を縦に振った。
「呂都丸の方が覚えてるな。しっかりしろ天音羽」
優が呆れたように肩をすくめる。
「えへへ〜。覚えといてくれてありがとう!呂都丸!」
私はよしよしと呂都丸の頭を撫で回した。
呂都丸は嬉しそうに、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「天音羽、何か俺に言うことはないか?」
「え?」
…なんか、優の後ろに炎が見える。
私と呂都丸は危険を察知し、ヒュッと縮こまった。
「もっとそういう重要なことは早く言え。なんの対策もできないだろ。」
長い髪から覗く優の目が…怖い。
「ごめん!でも大丈夫だよ!前スタジオ行ったときは、いい人ばかりだったから!」
「…うわべだけかもしれないだろ。」
「優、すぐ疑うのはよくないぞ!」
「天音羽はもっと人の裏を…いや、やっぱりいい。」
優は途中で首を横に振り、何かを考えるように顎に指を当てた。
「…とにかく、スタジオまで行くルートは今日中に送る。帰りは…今からルートを作るのは間に合わないな…」
ぶつぶつと呟いた後、スッと顔を上げた。
「帰りは、迎えに行く」
少し、沈黙があった。
「…へ?」
私の口から間の抜けた声が出る。
「いいの…?」
今まで優は、絶対ロトとの関わりがバレないようにと気にしていたのに…。
「いろいろ話したいこともあるしな。」
「話したいこと…?」
「あぁ。」
まぁよくわからないけど、いろいろ考えてくれてることがあるのだろう。
「優がいてくれたら心強いよ!」
「僕も!」
呂都丸も声を上げる。
「…とにかく、正体がバレそうなことは絶対しないように気を付けろ。」
優は、そっぽを向いてそう言った。
✽✽✽
「何かわかりました〜?」
「…いや、なかなか好ましい結果は出ていない。」
「え〜。遅くないですか〜?」
桃李は、つまらなそうにあくびをした。
「仕方ないだろう。あれから何代目だと思ってるんだ。」
榊は、指で額を押さえながら長いため息を吐いた。
「え〜でもそのせいで、ずっと実験体あばれさせてないじゃないですか〜」
桃李はそう言いながら、口をとがらせた。
「早くフェリスと戦わせたいのに〜」
「まぁもうしばらく待て。何か研究成果が出てからの方が、フェリスも殺りやすいだろう。」
「うーん…あ、そうだ。」
桃李は何かをひらめいたように、キラキラとした目で榊を見つめた。
「な、なんだ…」
「僕を、その研究チームに入れてくださいよ〜」
「何を言ってるんだ…。私たちのような末端の研究員が入れるわけがないだろう…。」
榊は、また大きなため息をついた。
それとは反対に、桃李は楽しそうに試験管をカチャカチャと鳴らす。
「いいじゃないですか〜。きっと僕が入ったほうがいろいろ見つかりますよ〜。」
桃李は金色の目を光らせ、楽しそうに笑った。
「せっかくの楽しみを、上に独り占めはさせないよ。」




