猫とヒーロー
怪物が、街を荒らしていく。
街の様子とは裏腹に、空は澄みわたり、吸い込まれそうなほど綺麗な青空だ。
私は、怪物に近づくため、走っていた。
体力だけはあるから、疲れてはいない。でも、得体のしれないものへの恐怖で、足が震える。心臓が喉から飛び出そうだ。必死に体に力を入れ、足を前に出す。
ビルが壊れて、残骸が頭上に振り注ぐ。小さな子どもが泣いている。親はどこにいるのだろう。
「逃げて!」
子どもを抱きかかえ、近くにある公園まで連れて行った。ここなら、ビルの側にいるよりは安全だ。
「えっと、あれ、どうやって倒すんだっけ?」
さっき話した方法を、猫と復習する。
「僕の力は、1人では使えない。誰かと融合して、その人に使ってもらわないといけない。」
「融合する方法は?」
「…」
急に、猫が俯いて黙ってしまった。
「? ねえ、早く教えて!」
時間がない。街が、壊される。
「…本当に、いいの?」
「何が?!」
「…僕の力は、1人にしか使えない。もし、今姉ちゃんと融合したら、他の人と融合することはできないんだ。これからきっと、こういうことは増えていく。そのたびに、姉ちゃんが戦うことになる。」
「いいよ」
即答した。
「…え?」
猫は、拍子抜けした様子で、間の抜けた声を出した。
考える必要はない。恐怖はもちろん、ある。でも、そんなこと関係ない。今、この状況をなんとかできるのは、私だけ。
それだけでもう、戦う理由は充分だった。
「教えて。あれと、戦う方法。」
猫は最初戸惑っていたようだが、やがて決心したように…ガブッ!
「イッタ!」
突然、私の手首を噛んだ。
「…!」
しっかり噛まれたはずなのに、血が出ない。そのかわりに、猫の額と同じ猫の目のようなマークが、痣のように手首に浮かび上がった。
「そのマークに触れば、融合が始まる。」
これで、助けられる…!
手首を触る。マークが黄金色に輝き、全身が光りに包まれた。
あっという間だった。真下に、猫の目のマークが広がる。猫も光りに包まれ、私の体のなかに溶け込んだ。
そして、光は消えた。
「…!」
全身を見渡し、顔を触ってみる。毛皮に包まれた軍服のようなワンピース。猫耳。鼻も猫みたいだ。ヒゲや尻尾も生えている。体も軽い。手には鍵爪が装着されている。
『これで、あいつと戦える!』
猫の声が、頭の中に響いた。
「よし!行こう!えっと…猫くん!」
『僕は、呂都丸!』
「行こう!呂都丸!」
これから、私達のヒーロー戦線が、始まる。先ほどまでの恐怖を超えて、この先へのワクワクが湧き上がってきていた。




