運動
「ねぇ、大丈夫?」
「大丈夫!あともう少し…」
私は、眉をひそめて、呂都丸を見つめた。
呂都丸は、ソファの下に頭を突っ込んでいる。
「あった!」
呂都丸が叫んだ。
「ほんと?!」
「はい!これ!」
呂都丸が、ソファの下からズリズリと手のひらサイズのダンベルを引き出した。
「おおー!ありがとう呂都丸!!」
「これほんと重いよ…」
私は、呂都丸が出してくれたダンベルに頬ずりをする。
「でも、なんでダンベルがソファの下に…?」
呂都丸が不思議そうに私を見上げた。
「いや〜、優みたいに効率よくいろいろやってみようと思ってね。」
「…?」
「全身の筋肉つけるために、ダンベルぶん回しながらソーラン節踊ってたの!」
「…??」
呂都丸は、さらにきょとんとした顔をする。
「…ソーラン節って…?」
あぁそうか。ずっと施設にいた呂都丸は、ソーラン節を知らない…。
「教えて進ぜよう!ソーラン節の素晴らしさを!!」
私は、どこからともなく、青いハッピと白くて長いはちまきを出し、ビシッと身に付けた。
「ソーラン節とは!漁師が網で魚を引き揚げるときに唄ったとされる、日本の代表的な唄!それにつけられた踊りで、漁師の熱気!大漁の喜びを!表現しているのだ!!」
「すごい…!姉ちゃん詳しいね!」
「フッ…。小学生のとき、私も熱く、運動会で踊ったからな…。当時友達にはこう呼ばれたよ。ニシンの生まれ変わりだと!」
「?ニシンって?」
「知らない!」
私は腕を組み、自信満々にそう答えた。
「それでは実際に見せて進ぜよう!ソーラン節を!」
私は、バッとソーラン節の最初の構えをとった。
ピンポーン
…ちょうどいいところでインターホンが鳴った。
私は深呼吸をして一度構えを直し、玄関へ向かう。
「は〜い!どちら様ですか〜。」
ドアを開ける。
「…なんだその格好は…?」
扉の向こうには、ものすごく眉間にシワを寄せた優が立っていた。
「おお!優じゃん!…遅かったね。」
いつもはもっと早く来るのに。
「…補講が長引いてな…。」
「え、補講?優、珍しいね。」
「…まぁ、前回のテストほとんど受けてないからな…」
「え、なんで?!」
「…まぁ、ちょっと体調崩して?」
「?なんでハテナついてんの?」
「…それより、今は何をやってたんだ?」
優はその話に触れられたくないみたいに、目をそらし、話もそらした。
「…えっと…ソーラン節。」
「…は?ソーラン節?」
優が珍しく目を点にする。
「そうだ!優にも見せてあげるよ!私のソーラン節!」
「いや、遠慮しと…」
「見せて姉ちゃん!」
「おい、呂都…」
「じゃあ、行くよ!」
「天音羽…」
私は、思いっきり腰を落とし、ソーラン節を全力で踊り始めた。
呂都丸は、蜂蜜色の目をキラキラと金色に光らせてそれを見つめている。
…優は、やれやれみたいにため息ついてたけど。
***
「…これは、すごいね〜」
そう言いながらも、オレンジに近い茶色い髪をした男は、金色の目を光らせてさわやかに笑った。
高層ビルの屋上の柵にしゃがみ込み、先日蜘蛛の騒動があった地上を見下ろす。
「この近くに、いるかもね。」
男は、金色の目を見開いて、隣に立っている女を見あげた。赤っぽく長い髪をサラサラと風に揺らし、女は真っすぐ地上を見つめる。
その茶色い瞳には、なんの感情も見えなかった。




