上層部会議〜W.E.L.L.'s side
「入りますよ〜」
桃李は、パリっとスーツを着て、会議室へと入った。
「…ノックをしたらどうだ。」
先程桃李を怒鳴りつけていた男は、疲れた様子でそう言った。
「も〜まずスーツ着てきたことを褒めてくれませんか?」
桃李は不満げに口をとがらせる。
「…私は、試験管を片付けろと言ったはずだぞ。」
男は桃李の全身を上から下まで見回す。
「え〜どこにも試験管なんて…」
そのとき、男がバッと桃李のスーツを開いた。そこに、試験管がずらりと縫い付けられている。
「…これはなんだ?」
桃李は、笑顔のまま固まる。
男の顔が、みるみる赤くなっていく。
「片付けろと言ったはずだぞ!」
「音が鳴らなければいいと思って…」
「桃李…!」
「ひ〜ごめんなさい〜」
ヒュッと息を浅く吸って、桃李は縮こまった。
「いつまで待たせる気だ?」
桃李が入ったことにより、軽くなっていた会議室の空気が、奥の席から響いたそのひと言により重く沈んだ。桃李は声の主を目を細めて見たが、暗くて見えなかった。ただ、金色の目だけが光っている。
「話は、終わったか?」
その途端、先程まで桃李を怒鳴っていた男は、サッと膝を折り、床に額をこすりつけた。
「大変申し訳ございません。後でキツく言っておきますゆえ…」
「まぁ〜いいじゃない。そんなに硬くならないで、顔をお上げなさい。榊。」
平謝りの姿勢をとる男・榊に、赤いドレスを身にまとった女が金色の目を光らせ、楽しそうな声で言った。
「は…!」
その声を受け、榊はゆっくりと顔を上げる。
「…今回の顛末について、この者から報告をさせていただきます。」
その場にいる皆が一斉に、桃李の方を向いた。桃李は、少しビクッと震えたが、試験管をスーツの上からギュッと握りしめ、安心したように笑った。
「榊さ〜ん、今の言い方だと、まるで僕がやらかしたみたいじゃないですか〜」
「…実際そうだろう!」
榊はまた顔を赤くして怒鳴り、桃李にそっと耳打ちした。
「消されたくなければ、何か成果を見せろ。お前なら、それだけで許される。」
「はいはい、わかりました〜」
桃李はその言葉に気怠げに答え、少し姿勢を正した。
「え〜っとまず何から話そうかな…。あ、そうだ。」
桃李は少し上を見上げて考えた後、ひらめいたように前を向き、ニヤリと笑った。
「僕は殺す気で実験体を送り込みましたが、無理でした!」
会議室中にその声が元気よく響き渡った。
榊が頭を抱える。
「…報告とは、それだけか。」
低く、体に重くへばりつくような声が、また奥の席から響いた。金色の目が、桃李を睨みつける。
その言葉に、誰も身動きを取れない。
「特に成果はありませんでした。」
桃李は気にせず話を続ける。
榊が、この世の終わりのような顔をして、真っ青になる。
「ですがひとつ、成果になりそうな物を手に入れています。」
「?」
桃李は、スーツを開き、ずらりと縫い付けられている試験管の一つを引きちぎって出した。
試験管の中には、赤黒い液体が入っている。
「?それは…血ですか?」
赤いドレスの女が不思議そうに椅子から身を乗り出す。
「はい。その通りです。誰の血だと思います?」
「まさか…!」その場にいる皆が、息を呑む。
「はい。うちらの組織が長年血眼になって探している脱走者の血筋…。」
「素晴らしいわ!それは…!」
赤いドレスの女が、高揚した赤いほおに手を当てる。
「は〜いその通り!」
桃李はぐるっと腕を一周回して女を指差し、ニタリと笑った。
「フェリスの血を、手に入れましたよ!」




