それぞれの覚悟
「あなたの弱点は、私達が見つけたよ。」
私は、鳥さんを見つめてそう言った。
「…」
鳥さんは、何も言わなかった。私が話し出すのを、待っているようだ。
「…あなたの弱点は、血だよね。」
私は、先程優から聞いた仮説を鳥さんに話した。
「おそらく鳥さんは、血を使って変身をしていた。だから、血不足になったら力も弱まる。」
私は、少し早口になる。ビルの下では、今も蜘蛛がうごめき、街を壊そうとしている。
早く行かないと。
「今回の蜘蛛の…実験体は、あなたを倒すために送られたもの。血の…えっと、なんだっけ?」
『血の巡りを速くする毒』
「あぁ、そうそう。血の巡りを速くする。」
私は、イヤホンから優のサポートをもらいながら、鳥さんにそう言った。
「それで血の流れが速くなると、血のコントロールができなくて血不足になって、力を使えなくなるんだよね?」
私は、採点を待つように鳥さんを見た。
鳥さんはしばらく黙っていたが、やがて、低く、くぐもった声を出した。
「だいたい正解だ。…なぜ、わかった。」
私は、少し胸を張った。
「ずっと見てたんだもん!」
そう言って、ニカッと笑う。
「鳥さんの綺麗な動き!」
「…」
「だから、今回もよーく見てたらね、鳥さんの腕から、黒い霧が出ているように見えたから。」
私は、フフンと得意気に鼻を鳴らす。
「私だけの力じゃないけどね!」
「…」
鳥さんの黒い霧が、さらに薄くなっている。
顔の輪郭が見え始めていた。
「鳥さん、もうほとんど使える血残ってないでしょ?…休んでてよ。後は私がやるから!」
「…それとこれとは…関係ない。」
『姉ちゃん、危ないよ。ごめんだけど、僕の力じゃ、あの蜘蛛には勝てない。…この鳥の万全の状態くらいの力がないと…』
「大丈夫!」
私は、そう叫び、バッと立ち上がった。
『天音羽、ちゃんと考えたのか?』
「ごめん!何も考えてない!」
「…さっきから…誰と話している?」
鳥さんから刺すような視線が向けられる。
「…お前にあれを…倒すのは無理だ。いい加減、諦めろ。」
「もう行くね!そろそろ、蜘蛛がまた暴れ出す。」
鳥さんの言葉は無視して背を向ける。
「…ごめん呂都丸。もう少し、頑張れる?」
小さい声で、呂都丸に聞く。
『…大丈夫。まだ行けるよ!』
「…ありがとう。」
私は、グッと足に力を込める。
「おい。俺が血を回復させるまで…」
「血を回復させられるの?!」
私は、バッと鳥さんの方を振り返った。
「あ、あぁ…」
「わかった!じゃあ、私が時間を稼ぐ!」
「無理だ。お前も体力の限界だろ。あの大量の蜘蛛を…」
「ねぇ鳥さん。止めないで。」
私は、少し声を低くして、再び鳥さんに背を向けた。屋上の縁に立ち、街を見下ろす。
「邪魔にならないくらい、強くなるから。」
確かに、今はもう体力も尽きてきて、大した戦力にはならない。…呂都丸はもっと疲れてるだろうな。
「…ロト、お前にこの仕事は…」
「前、鳥さんは私に聞いてきたでしょ?」
覚悟の話。私には、人を倒す覚悟があるのか。
「考えたけど、鳥さんと同じような覚悟はないよ。」
「それなら…」
「そもそも、私と鳥さんは、考え方が違うの!」
私は、早口に自分の思いを吐き出す。
「私は、組織を消すことが目的じゃない。…人を助けることが、私の本当のやりたいこと。」
今までの、助けた人達を思い出す。ありがとうと笑う人の顔が、私は大好きだった。
「それ以上も、以下もない。…それが私の覚悟で、私の意志。鳥さんにどうこう言われる筋合いはない!」
「…先を考えずに、飛び込むだけだろ。」
「それだけで、助けられる人がいるんだよ。」
特訓をし始めて、ちゃんと自分の投稿された動画を観た時、気付いた。
たくさんの、メッセージ。私の戦う姿を観て、勇気を貰ってる人がいる。
「…お前には危険すぎ…」
「あ!やばい、蜘蛛がもうこんなに!ごめん鳥さん!私もう行くね!」
私は、もう一度鳥さんを振り返って、笑いかける。沈んでいく西陽が、私の顔を赤く染めた。
「ありがとう!話せてスッキリした!!」
「…」
鳥さんは、呆気に取られたように私を見ていた。
***
「大丈夫ですか?フェリス様。」
「…あぁ。問題ない。」
「血を持ってきました。…そちらの方は?」
「…」
俺の隣で、水やら何やらくれながら、ブツブツと文句を言っている男を見て、ティアが尋ねてきた。
「…知らない。」
「黙っていろ。早く回復してロトを手伝いに行け。」
低く冷たい声で、その男は言った。深くフードをかぶっていて、顔はよく見えない。
「…お前、ロトの協力者だろ。…なぜここに…」
あの、ロトが付けているイヤホン。あの先にいるのは、おそらくこの男だ。
「…あいつがあまりにも無茶をするからな。まぁ、それは今に始まったことではないか。…無駄口を叩かず、血の回復に専念しろ。」
ため息まじりに話しているが、ロトの話をする声は、少し暖かく感じた。
「どちらにしろ、お前1人であいつには勝てなかった。」
目は見えないが、男はこちらを睨んでいるようだった。
「…ロトは強い。お前が思ってるよりもな。」
そう言うと、男は俺の腕に視線を落とした。
「強さっていうのは、何も力だけじゃない。」
俺は、元気よく叫びながら蜘蛛を倒すロトを見た。
「…そう、かもな。」




