弱点
「…毒蜘蛛、か。」
俺は、蜘蛛を倒し続けた。数は多いが、どれもそれほど強いわけではない。
空から矢を降らし、人が追うことのできない速さで飛びながら蜘蛛を一掃していく。…ただ、完全に俺の弱点が敵に知られている。
俺は、久しぶりに自分の限界を感じていた。
***
「あれだね!」
『うん!優が言ってたやつだ!』
ビルの合間を通り抜け、大通りに出る。
そこには、蜘蛛がひしめき合って動いていた。
「気持ち悪!」
多すぎる。
「でも小さい!何とかなりそう!」
私は、地面に向かって鍵爪を突き付けた。
『…おい。それで地道に潰す気か。』
「もちろん!」
『…時間がかかりすぎる。』
「うっ…確かに」
どうしようかと考えていると、フッと視界の端に赤いものが映った。
「?」
そちらへ目を移すと、真っ赤な翼が視界いっぱいに広がった。
「あー!!」
私は驚いて、思わず大声で叫んでしまった。
「鳥さん!」
鳥さんが、こちらを振り返る。血に塗られたような大きな翼、漆黒の霧に覆われた体、妖しく光る金色の目。
でも今日は、いつもより霧が少ないように見えた。
『姉ちゃん!』
「おわ!」
鳥さんに気を取られてるうちに、体に蜘蛛がよじ登ってきた。
「来ないで!」
ブンブンと足を振り回す。
私は虫があまり得意ではない。組織め、動物だけでなく虫にまで手を出してたか。
「サッサと終わらせよう!優、何かいい方法ない?」
『…そうだな…』
優も考え込んでいるようだ。
『…姉ちゃん危ない!』
「え?」
蜘蛛が黒く、大きな塊となって押し寄せてきた。範囲が広すぎて、避けられない。
…急に、体が浮いた。
「?!」
グンッと持ち上げられ、街を上から見下ろす。と、ブンッと投げられた。ブワッと身体が浮き、体中の内臓が浮いた気がした。
「え〜?!」
今自分がどういう状況なのか、理解が追いつかなかった。
グルグルと身体が回り、青空と街が交互に視界に映り込む。
そして、蜘蛛集団から少し離れた場所に私は四足歩行の格好で着地した。
「…邪魔だ。」
低く鋭い声が落ちてくる。
「…!鳥さん?!」
鳥さんが助けてくれたのか。
「ありがとう!」
「…邪魔だ。さっさと逃げろ。」
「私も戦う!」
「だめ、だ。」
そう言うと、鳥さんは大きく翼を広げ、蜘蛛の方に飛んでいってしまった。
『天音羽!大丈夫か?』
イヤホンから、優の少し焦った声が聞こえる。
「うん。大丈夫!」
『…そうか。無理するなよ。あと、あの鳥に何言われても気にするな。』
「うん。わかってる!」
さっき鳥さんは、邪魔だと言った。それなら、
「邪魔しなければいいよね!」
『そうだね、姉ちゃん!あいつは無視だ!』
呂都丸も戦う気満々だ。
私は、真剣に鳥さんの動きを観察する。鳥さんの邪魔をせず、蜘蛛を倒す方法…。
「…ん?」
『姉ちゃん、どうしたの?』
「…なんか、違う。」
『何が?』
「…鳥さんの動き、おかしい。」
『…え?』
『おい、天音羽。具体的に教えろ。』
『教えて、姉ちゃん。』
優と呂都丸が聞いてくる。
「…うん。」
私は、もう一度鳥さんを見る。…間違いではないようだ。
「鳥さんの動きが、ちょっとだけおかしい。…なんか、きれいじゃない。」
正解に言うと、動き自体は綺麗だ。でも、いつもの方が綺麗。
「…何かを、抑えてるみたい。全力を出してない感じ。」
『…僕にはよくわからないけど…』
「…間違いじゃないと思う。」
特訓をするときに何回も見た。鳥さんの動きは、目に焼きついている。
『天音羽の話が本当なら、もしかしたら毒かもしれない。』
「毒?」
『あぁ。その実験体は、ただの蜘蛛じゃない。おそらく、毒持ちだ。…あいつはたぶん、蜘蛛に噛まれたんだろう。』
「?でも、私もさっき噛まれたよ?」
『…は?』
『…そういえば、さっきチクッとしたよね。でも、もし姉ちゃんの体に毒が入ったなら、僕がすぐにわかると思うよ。』
呂都丸は、毒や薬に敏感だ。…この前病院に連れて行くときも大変だった。
「でも、私は何ともないけど…」
『…もしかしたら…』
グラッと鳥さんの体が傾く。
「…あ!」
…鳥さんは、すぐに元に戻したが、翼の羽ばたくリズムも、霧の多い方も、戦うときの姿勢も、いつもの私の憧れた姿とは違った。
『…天音羽、組織の狙いは…あいつかもしれない。』
「…え?」
『天音羽には効かないけど、鳥には効く毒…つまり、鳥は完全に弱点を突かれているかもしれない。』
「やばいじゃん!」
『あぁ。…でもこのままだと、天音羽も危険だ。…あの蜘蛛にロトだけでは勝てない。』
「…」
私は真っすぐに、乱れた霧に覆われた鳥さんを見つめていた。




