仕事〜Felis's turn〜
「許可が出たぞ」
「やっとですか!」
男が喜び勇んで飛び上がった。白衣に付いた試験管の一つが割れる。その中から、緑のような、紫のような、黒い液体が流れ出た。
「…おい。その試験管片付けとけよ。」
「わかってますって〜」
男は、ニヤニヤと笑いながら、嬉しそうに言った。
「いよいよだ。」
✽✽✽
「ありがとうございました。」
「じゃあまたよろしくお願いします。」
丁寧に挨拶をし、俺は仕事を終えスタジオの外に出た。
用意されていた黒塗りの車に乗り込む。
「進展はあったか。」
俺は、スッと笑顔をしまって、俺に生まれたときから仕えている召使い、ティアに尋ねた。
「いえ、なかなかうまくいきませんね~。組織の居場所は、尻尾も掴めません。」
ティアは、お辞儀をしながら言った後、チラリと俺を見た。
「ロトに接触できれば、もっと何かあるかもしれないですけど…」
「一般人を巻き込む気はない。」
「そうですか。…そういえばフェリス様。お兄様からご連絡が…」
「そのままにしとけ。…どうせ家の話だろう。」
「かしこまりました。…血は大丈夫ですか?」
「あぁ。問題ない。」
「わかりました。」
ティアは頷くと、手元にある書類をパラパラとめくった。
「ロトについては、まだあまり情報は集まっていません。ただ、相当人気者のようで…動画はたくさんありますよ。」
ティアはそう言いながら、パソコンを渡してきた。俺は、画面に映るロトを観る。
「…無駄が多い。」
まるで子どものヒーローごっこだ。
「野次馬もうるさい。」
「ですが、ロトのおかげで、日本はまだ明るいのかもしれませんね~」
…ティアの言っていることはわかる。普通、得体の知れない怪物が都会で何度も暴れたら、国中の人が知り、不安に苛まれる。…だが、さほどの影響は今のところない。
それは、ロトが毎回、余裕の笑顔で倒しているからに他ならない。
…だが実際のところは、街の被害は大きく、死傷者が出るのも時間の問題だ。
「…ロト。」
こいつのことは理解できない。どこから来たのか、何を考えて動いているのか。
人間なのか、それとも、あの猫なのか。
「フー…」
俺は、長いため息をついた。
「だいぶ、お疲れですね。フェリス様。」
長年続いてきた、組織との戦い。ロトが加わったことで、また大きく動き出している。
…慎重にいかなくては、世界を巻き込んでしまう。そのことを、ロトは理解していないだろう。
「とりあえず、ロトのことはお前に任せる。組織の方は…」
バーンッと、大きな音が地に響いた。
俺とティアは、同時に窓の外を見た。
「…出たな。」
「はい。」
俺は、目を光らせる。
「ここでやる。」
俺はそうティアに言うと、袖を捲し上げた。
「さぁ…」
腕に爪をたて、躊躇なく引き裂いた。
「仕事だ。」
俺は、口の端を上げて笑った。
翼を大きく広げ、実験体を探す。
「…見つけた。」
黒く、小さな体。…強いな。
「…ロトは、まだ来ていないか」
来る前に終わらせる。
俺は、キリキリと弓を引いた。
と、影が落ちた。
バッと後ろを振り向く。
複数の金色の目、カサカサと動く足…。
その実験体が、口から液体を吐き出した。スッとそれを避け、実験体を蹴り上げる。
「…蜘蛛か。」
蹴り上げられた顔は消え、ドロリと消えてしまった。
カサカサと、無数の走る音が街をざわめかせる。
空から、地上を見下ろす。街の中心は、蜘蛛で黒く染まっていた。
「多いな。」
だが、問題はない。俺は、街の中心まで飛んだ。
弓は引かない。
空を真っ赤な矢で染める。
俺は、金色の目を一段と光らせ、その矢を蜘蛛の上に降らせた。
あっけなく、蜘蛛は消えた。
「…」
何かおかしい。
実験体は小さければ小さいほど強い。無駄な体力を使わず体が薬品だけに集中できるからだ。
「簡単すぎる。」
…何を、隠している?
「!」
足に、小さな針を差したような痛みが走った。蜘蛛が、足に噛みついていた。
「…こいつ…」
俺は、持っていた矢で蜘蛛を突き刺した。蜘蛛はすぐに消えた。
「…毒蜘蛛、か。」
俺は目を細め、刺すように大量の蜘蛛を見下ろした。
第29話、読んでくださりありがとうございました!
今回はとうとう、あの謎の鳥さん、フェリスの視点での回でした。皆さん楽しんでいただけたでしょうか?続きもお楽しみに!
そしてとうとう、500pvを超えました!続けて読んでくださっている方、この作品を見つけてくださった方、本当に感謝しかありません。これからも皆さんに楽しんでもらえる話を書けるよう頑張ります!
少しでも感想いただけるとめちゃくちゃ嬉しいです!これからも天音羽達の活動の応援をよろしくお願いします!




