戦闘訓練!
「ここなら、使える。」
「おおー…」
薄暗い工場地帯。人気がない。
「…この街にこんなとこあったんだね…」
「あぁ。もう少し行けば使われてる工場があるが、ここはもう使われていない。」
…なんか不気味なとこだけど、動きやすそうだ。
「じゃあ、早速やるよ!呂都丸!」
「了解!」
私は、手首のマークをポンと叩き、呂都丸と変身した。
「…初めて見たな。天音羽がロトになるところ。」
そういえば、優はその場にいたことなかったな。
「フフン。すごいでしょ!」
私は得意気に胸を張ったが、優は視界の端で、遠くの角を捉えたまま何か考え込んでいて、特に聞いていなかった。
「…じゃあ、行くよ!」
私は、壁をピョンピョンと跳びながら、虚空に蹴りやパンチを入れていく。
「どう?!」
「…無駄が多い。」
「ウゲッ!」
「まず、動きをもう少し細かくしろ。時間ロスだ。それから、もっと踏み込めばそんなに飛び回る必要もない。体力ももっと持つ。」
「なるほど〜!」
さすが優だ。
「それじゃ、もう一回いくよ!」
「その前に」
私は、優の返事を聞く前に跳ぼうとしたせいで、つんのめってしまった。
「何?」
「天音羽、自分の能力をどれだけ知っている?」
「能力?」
「あぁ。ロトの状態だと、呂都丸の力で能力が上がっているだろ。それがどのくらい上がっているのか、何の能力が上がっているのか…しっかり確認するつもりで動け。あと、そういうところしっかり呂都丸とも話しておけ。」
「なるほど!了解!」
私は、ピシッと敬礼をした。
そして、またいろんな動きをした。その度に優に指摘されまくった。
「疲れた〜」
私は、ゼエゼエ言いながらその場に倒れ込んだ。
「まだ動けるだろ。しゃべれる時点で身体に問題はない。」
「あるでしょ!鬼教官〜」
「安心しろ。お前はもっと体力がある。」
「ヒ〜!」
私は悲鳴をあげた。
「ほら、水分補給」
「あ、ありがと」
「飲んだら次は別のパターンもやるぞ」
「まだあるの?!」
「敵が1パターンで挑んでくるわけないだろ。」
「…ちなみに、あとどのくらい…」
「俺は10万通りくらい予想している。」
「…」
鬼だ。…それは昔からだけど。
私は、昔の優を思い出した。私に初めて身体の動かし方を教えてくれたのも、優だ。
…あの時も厳しかったな…。
「何をぼーっとしている?」
昔の思い出に浸っていると、優に鋭く睨まれた。
「ハヒッ!ごめんなさい!」
「よし、次はこのパターンだ。」
「はい!」
『…姉ちゃん、疲れた。』
「呂都丸、我慢だ!」
私は、呂都丸を元気付けてから、また動き出した。
「おつかれ。今日はこれで終わりだ。」
「ありがとうございました…」
薄暗い工場が、さらに暗くなり、空は綺麗な茜色に染まっている。
「水分補給。あとこれ」
「うわ!ありがとう!」
優は、私にスポーツドリンクとから揚げ棒をくれた。
そして、呂都丸にも水をあげる。
「…ありがと。」
呂都丸は相当疲れたようだ。顔がゲッソリとしている。
「ちょっとは鳥さんに近づけたかな…?」
私は、ゴクゴクと飲みほしながら呟く。
「あいつを目指してるのか?」
「うん。ちょっとは近づいたかな?」
「ほど遠いな。」
「うっ…」
「まぁでも、いい動きになってきてるぞ。」
「ホント?!」
私は、前のめりになって聞いた。
「あぁ。天音羽は飲み込みが早いしな。」
優は、そう言いながら微笑んだ。
「…どうした?」
私は、ポカーンと優を見つめてしまった。
「…優に、褒められた…」
口にした途端、ゆっくり頭にその事実が浸透していく。
私は、パッと笑う。
「優に褒められた!!」
「そ、そんな驚くことじゃないだろ。」
優は、フンッとそっぽを向いてしまった。
その横顔が、赤く見えたのは、空のせいだろうか。
「エヘヘ…優に褒められた〜」
「…そんなに繰り返さなくていいだろ!」
そう言うと優は、パッと立ち上がった。
「ほら!帰るぞ!」
「は〜い」
「…ねぇ優。僕も褒めて!」
呂都丸が優にすり寄る。
「…なんでだよ!」
「いいでしょ!僕も!」
「そ、そのうちな!」
「え〜」
優は、どんどん早歩きになっていく。
…こんなに落ち着かない優、初めて見たかも。
「フフッ」
私は、1人で静かに笑いながら、2人のやりとりを見つめていた。
それを見ていた誰かには、気づかなかった。
***
「ティア。ロトは、諦めたか?」
「いえ。…古い工場地帯で訓練をしていました。」
ティアと呼ばれた白髪混じりの頭をした女性は、フフッと笑った。
「随分楽しそうでしたよ。」
「…その情報はいらない。正体はわかったのか?」
「いえ。まかれてしまいました…。あの男の子、なかなかやります。」
「協力者がいたのか?」
「はい。」
「それは誰だ?」
「死角でよく見えず…」
「…そうか。」
フェリスは、茜色に染まった空を見ながら、金色の目を細めた。




