役割〜Yu's turn〜
俺は、天音羽のいる街に来てすぐ、走り出した。息が上がる。俺には天音羽ほどの体力はない。
テストの合間の休み時間。本当は勉強をしたいが、天音羽のために、俺は少しの時間も組織調べに使うようにしていた。今回もそのために、スマホを開いた。
「…!」
SNSに上がっている、天音羽の戦闘シーン。
1時間前から。
フェリスもいる。それに、この実験体は…動物ではない?
「…先生。」
「どうしました?」
「体調が悪いので帰ります。」
「それなら、まず保健室に…ちょっと!谷間さん?!」
俺は、先生の返事を聞く前に走り出した。
駅まで自転車で向かい、混み合った電車に体を押し込んだ。
…迂闊だった。
俺は、もっとはっきり天音羽に忠告しておかなかったのを後悔した。俺のテストが終わるまで戦うなと言っておくべきだった。
…まぁ、あいつは聞かなかっただろうけど。
俺は、SNSに流れる戦闘を観ながら、焦る気持ちを必死に押さえた。…天音羽はイヤホンを付けていない。おそらく、テスト中で忙しい俺のことを気にかけたのだろう。
速く着け。速く、速く…。気持ちばかりが先に向かっていた。
「…」
俺は、戦っている実験体を画面越しにじっくりと観察した。やはりこれは、動物ではない。
「…人間、か。」
…天音羽は、まだ気付いてないのだろうか?…いや、気付いていても、認めたくないだろう。
「…速く、行かないと…」
俺は、電車の外を見ながら、焦りに顔を歪めた。…全てが、遅く感じた。
やっと着いた、と思ったときには、全て終わっていた。
天音羽が、地面に手をついている。
「…」
あの頃の小さな天音羽が、その背中に重なって見えた。
嗚咽を漏らす天音羽。…久しぶりに見た。
「…ロト」
…本当は、本名で呼びたい。
ゆっくり、天音羽がこちらを振り返る。
その顔は、苦しみに歪んでいた。
「…場所を変えよう。」
それしか、言えなかった。
俺は、後悔に苛まれながら、天音羽と呂都丸の怪我を手当てする。同時に、何があったかも詳しく説明してもらった。
「…ありがと。優。」
「気にするな。」
天音羽の怪我は、呂都丸にも反映されるらしい。呂都丸も、天音羽と全く同じ場所に怪我をしている。
「…ヒリヒリする」
呂都丸がムスッとした顔で文句を言う。
「…我慢しろ」
俺は、ため息まじりに答えた。
「傷は浅い。すぐ治るだろう。」
「…うん」
天音羽が、うつむきがちに頷く。呂都丸も、耳が垂れている。…心の方は簡単には治らない、か。
…天音羽は、考えることをしない。昔からそうだった。
「…私、人を助けたくて、ヒーローを始めたの。」
「…あぁ。」
天音羽の話を聞きながら、俺は組織のことも同時に考えていた。
「…ずっとそれだけ考えてた。」
「あぁ。」
おそらく組織は、すぐにまた別の実験体を送り込んでくるはず。
人間の実験体は、今までの調べた結果から少ないはず。次は、別の生き物だろう。…ただ、ある程度強いはず。
「…でも、それだけって、少ないなって…」
「あぁ。…は?」
俺は相槌を打ったが、思わず聞き返した。
「…少ない?」
「…なんか、もっとこう、別の理由があったら良かったのかなって…」
「…」
俺は、口を開きかけたが、何も言わなかった。
あの場にいたのは天音羽、呂都丸、フェリスの3人だけ。おそらく、フェリスに言われたのだろう。
天音羽は、ブツブツと言いながら、さらに縮こまっていく。
…これ以上、天音羽の落ち込む姿を見たくはなかった。
「…天音羽。俺は、足りないなんて思わない。」
「…え?」
「…天音羽には、天音羽の意志があるんだ。」
大丈夫。天音羽は立ち直れる。俺はそう確信していた。
悪いが、組織の奴ら。お前らの計画は水に流れる。
この世で一番、天音羽という人を知っているのは、俺だ。
…だから、そばにいる。それが、俺にできる、唯一の役割だ。




