人が敵
「なんで、倒したの?」
鳥さんが、ゆっくり振り返る。次の瞬間、金色の目が目の前にあった。
「これ以上お前は関わるな。」
低く冷たい声で、鳥さんは言った。どこかで聞いたことのあるような声だった。
私は、拳を強く握りしめる。
「…私の質問に答えて。」
しばらく睨み合い、やがて鳥さんが口を開いた。
「お前は、何のために戦っている。」
「何って、人助けしたいからに決まってるじゃん!」
「…たった、それだけか。」
「それだけって…!」
私は声を荒らげる。今まで憧れを抱いていた相手が、敵に見えた。
「俺は、人を助ける気はない。」
「…!」
「俺の目的は、組織の滅亡。…人助けではない。」
そう言うと鳥さんは立ち上がり、背を向けた。
「お前のような生半可な覚悟では、この先は無理だ。…帰れ。」
そう言って、鳥さんは消えた。
「…!」
私は、ギリギリと歯を食いしばる。
『姉ちゃん…』
悔しい。助けられなかった。
「…ごめんなさい」
先程まで“その人”が押さえつけられていた冷たいコンクリートに手を当て、私は謝り続けた。
✽✽✽
「あーいうバカは、精神から壊すんですよ〜」
ユルユルと笑いながら、男は言った。
着ている白衣には、大量の薬品の入った試験管が付いている。
「ロトはヒーローですからね。人は倒せない。」
男はそう言いながら、楽しそうに体を揺らした。そのたびに、試験管がカチャカチャと音を立てる。
「次は、あいつを送り込みましょう。」
「?これを送り込むのか?」
「ええ。」
男はニタリと笑い、金色の目を大きく見開いた。
「順番に、確実に…次は、あいつの弱点を」
「だが、あの実験体を相手にあそこまでねばるとは…強くなっているな」
「ええ。実に面白いですね~。」
男は、ニヤニヤ笑った。
「うーん…でも、今のままではこの実験体には勝てないね。ロト、フェリス。」
男は、ニタリと笑った。試験管がカチリとなる。
「どうするのかなぁ〜?」
✽✽✽
「…ごめんなさい」
『姉ちゃん…』
空は、何事もなかったかのように静かな青に塗られている。
いつもより強かったはずなのに、周りの建物への被害は少なかった。
人は全員逃げたらしく、風の音だけがヒュウヒュウと響いている。
「…ごめん」
『もう謝らなくていいよ!姉ちゃんは悪くないって!』
「…私が、もっと強かったら…」
『…あの人は、完全に自我をなくしてた。体も…もう、ないも同然だったよ。黒かったでしょ?』
呂都丸が、必死に慰めてくれる。…年下に慰められるとは、我ながら情けない。
…でも、立ち直れる気がしなかった。こんなに落ち込んだのは、こんなに自分が嫌になったのは、いつぶりだろう。
「…呂都丸」
『何?』
「ありがとう。…ごめんね。」
『謝らなくていいって!』
私は、コンクリートを優しく撫でる。…実はさっきの“人”が生きていました、なんてこと、ないかな…。
「ウゥ…」
私は、嗚咽を漏らす。今になって、いろいろな感情がごちゃ混ぜになり、目から溢れ出た。
悔しい、ごめんなさい。
「強くなりたい…!」
私は、嗚咽と共にその言葉を絞り出した。
「…ロト。」
ハッとし、私は後ろを振り向く。
「あ…」
私は思わず、声を出した。
「ここはもうすぐ警察や救急が来る。…場所を変えよう。」
「う、うん…」
なんで、ここにいるんだろう。
「…今はテスト中でしょ?優。」
優は、私が変身を解く場所まで、道案内してくれる。
「…それどころじゃないだろ。…途中で抜けてきた。」
「…ごめん」
「謝るな。…お前らしくない。」
「…ありがとう?」
「…なんで疑問形?」
優が怪訝そうな顔をしてこちらを振り向く。
…そのあまりにもいつも通りな顔に、私は少し力が抜けた。
「…ねぇ優。」
「なんだ?」
「これからどうしよ?」
「…自分で考えろ。」
「へへ。そうだね。」
私達は、戦いの途中なんだ。…そんなことが、今さらながら実感として湧いてきた。
そして、
「…たった、それだけか。」
あの、鳥さんの言葉がずっと頭の中を反芻していた。




