戦ってるもの
優がテスト勉強に勤しんでいる数日間、私は特に何もせずに過ごした。最初のころは呂都丸もいなくてたまらなかったが、呂都丸が帰ってきてからは、学校から帰ったあとはずっと呂都丸と家で遊んでいた。
「明日、優はテストだね!」
私は、呂都丸に向かってボールを転がしながら話しかける。
「そうだね。…ねぇ、テストって大変?」
「そりゃあもう!」
私は、ブンッと大きく頭を縦に振った。
「優でも?」
「そうだね。優が行ってる学校は、めっちゃ頭いいからね〜」
「ねぇ姉ちゃん。学校って、どんなところ?」
呂都丸が、興味津々なキラキラした目で聞いてきた。
「勉強したり、友達と遊んだり、部活したりする。あとは…」
「楽しい?」
「もちろん!」
「へー」
呂都丸は、鼻でコロコロとボールを転がす。…かわいい。
私は、ニヤニヤと緩む口を必死におさえた。
「ねぇ呂都丸、そういえばさ…」
バーンと、外から大きな音が聞こえた。
「なに?!」
私と呂都丸は、バッと立ち上がって外に駆け出した。
「なんだろ…?」
呂都丸が呟く。
アパートのベランダからでは、何も見えない。でも、ザワザワと落ち着かない雰囲気が街中に広がっている。
「行ってみよ!」
「でも、優いないし…」
「ほっとけないでしょ!」
「…そうだね!」
私たちは走り出した。優にこの前指定されたことのある場所で変身し、音のした方へ向かう。
「キャー!」
女の人が悲鳴を上げた。そのすぐ側に、女の人に向かっていく黒い影。
「離れなさーい!!」
私は、光る金色の目の黒い怪物に、思いっきり飛び蹴りを食らわせた。
「?」
いつものゼリーのようなグニャリとした感覚がない。
普通に、生き物みたいだ。
「おわ?!」
私は思いっきり後ろに飛び退いた。頬から血が出た。
『姉ちゃん!』
「大丈夫!かすり傷だよ!」
速い。攻撃が見えなかった。
ビュンッと耳元で音がする。
間一髪で横に跳んで避けた。相手がどんな怪物なのか、見る暇もない。
「どうしよ?!優!…あ」
…そうだった。優はおそらく、今は学校でテストをしている。優の高校は隣町だから、今こっちの街で何が起こっているかも知らないだろう。
『姉ちゃん危ない!』
目の前に、怪物の手が突き出てきた。…一瞬にして、手で顔を貫かれる。
「?!」
その前に、怪物の手が飛んだ。地面に赤い矢が突き刺さっている。
「もしかして…!」
私は、空を見あげた。
「鳥さん…!」
会えた。
怪物に向かって、きれいに弓を構えている。相変わらず黒い霧に覆われ姿は見えず、大きな赤い翼と妖しく光る金色の目だけが際立っている。
「ありがとう!助けてくれてー!」
私は、鳥さんに向かって思いっきり叫んだ。
「…」
鳥さんは何も答えなかった。
こちらを見ることもせず、目の前の怪物を指差した。
「あぁ、今は戦いに集中だよね!」
私は、怪物の方を向く。
「…?」
『姉ちゃん、あれ…』
やっと見れた怪物の姿は、大きさは私と同じくらい。二足歩行、きれいな五本の指、金色の目、鼻、口…。
バッと、また怪物が襲いかかってきた。
私は、手を使った攻撃を予想していた。でも向かってきたのは、手でも腕でもなく、足だった。
怪物が、きれいな蹴りを入れてきた。
「ゲホッ」
私は、思いっきり咳き込む。
あわてて跳んで避けたが、横腹に当たってしまった。
間髪入れずに、お腹にパンチが入った。
「グ…!」
私は飛びそうになった意識をなんとか保った。
『姉ちゃん、大丈夫?』
「平気!」
私はニヤッと笑う。でも、体は冷や汗でビショビショだった。
今までの怪物とは全然違う。攻撃の仕方が、まるで…
『姉ちゃん、あれって…』
違う。そんなわけない。たぶん、似たやつだ。
「…サル?」
私は小さく呟いた。
サルのような怪物は、パクパクと口を魚のように動かした後、ゆっくりこちらに歩いてきた。




