実験体の成長〜Rotomaru's turn〜
「…?人間に、戻れるの?」
僕は失敗作だ。だから、猫になってしまったのに。
「フェリス、お願い。教えて。どうやったら人間に戻れるの?」
「…」
フェリスは、しばらく見定めるように俺を見下していたが、やがて口を開いた。
「教えてやる。」
「人が成長するのに一番大切なものは、なんだと思う?」
「えっと…」
僕はしばらく考えてみたが、
「…わからない」
「意志だ。」
「?大きくなりたいと思ったら、大きくなるの?」
「いや、身長や体重は、気持ちではどうにもならない。…だが」
フェリスは、台本をパラパラとめくりながら言った。
「人を本当の意味で成長させるのは、人の意志だ。」
「ねぇ、フェリス。意志って、何?」
「人の核。己のこうありたい、これを成し遂げたいという、強い野望。その意志によって、人は成長する。」
フェリスは、スッと台本から顔を上げ、虚空を見つめた。
「その成功した者は、その意志が強かった。」
「…それは、どんな思いだったの?」
「…さぁな。」
「?知らないの?」
「知ってる。…だが、到底理解できぬ感情だ。」
フェリスから、少し怒っているような空気が広がった。…怖いから、話を戻す。
「その意志があったら、僕は人間に戻れるんだね!」
「あぁ。実験体も人間だ。組織の作った薬品は、動物の能力を組み込むだけじゃない。人間としての能力も底上げする。…意志も、人間だけが持つ能力の一つだ。」
「ねぇ、どんな意志を持てば、人間に戻れるの?」
「自分で考えろ。答えは人の数だけある。」
「…わかった。でも、なんで教えてくれたの?…フェリスは、敵?味方?」
「…お前らに協力するつもりはない。」
フェリスはニヤッと笑い、僕を見た。…笑顔が怖い。前の爽やか笑顔はどこにいったんだろう。
「時間切れだ。帰れ、猫。」
「じゃあ、また。」
僕は、フェリスが開けた窓から外へ出た。
***
「珍しく楽しそうですね。フェリス様」
「どこがだ。」
フェリスは、顔をしかめた。
「わかりますよ。何年あなたに仕えてると思ってるんですか?」
ティアは、ニコッと笑った。
「そんなにあの猫は面白かったのですか?」
「…あぁ。」
フェリスは、フッと笑った。
「あいつは、強くなる。」
***
「あ!」
狭く暗い路地。優が腕組みをして立っている。
「…なんでこんなとこにいるの?」
「…学校の帰りだ。」
嘘だ。前姉ちゃんが教えてくれた。優の学校は真逆だ。
「外で大きい声を出すな。どこから聞かれているかわからない。」
「あ、ごめん。」
僕は、スッと声を小さくした。優は先程よりも声を低くして言った。
「何か掴めたか?」
「…うん。」
僕は、素直に答える。
「味方ではないみたいだけど、いい人だよ。」
「…他にわかったことは?」
「いや、特にない。」
フェリスには、ほとんど僕についての質問をしてしまった。きっと、優が知りたいのはそこじゃないだろう。
「おい。さすがに何もわからなすぎだろ。」
優が、スッと目を細める。
「そ、そういえば、なんで僕に任せてくれたの?」
怒られるとイヤなので、話を逸らす。
「話の逸らし方が下手すぎる。」
すぐ指摘されてしまった。
「お前が何かに気付いているのはわかっていた。他の街をほとんど知らないお前が何か知ってるなら、この街でのこと。遠くには行かないだろうと判断した。」
「…優、すごいね。」
優はやっぱり頭がいい。
「…僕、優が一緒で良かったよ。」
「…そうか。」
優は、少し顔を逸らしてそう言った。
僕にはそれが照れているように見えて、面白かった。




