妖しい俳優
『あいつ、フェリスっていう名前なんだ。』
一通りの仕事が終わったあと、暗い地下駐車場の自動販売機の前で、私は頭に響く呂都丸の声を聞きながらコソコソと話していた。
「うん。あの人すごかったね。」
『あの人、ちょっと変じゃない?』
「変?」
『あの金色の目、なんかやばそう。』
「そうなの?」
「また…いったい誰と話してるんですか?」
爽やかスマイルを浮かべたフェリスが来た。
「え?!えっと…私、自問自答が趣味でして!」
焦って変なことを言ってしまった。
フェリスは少し驚いた顔をした後、クスッと優しく笑った。…呂都丸の言う通り、なんか嘘くさい人だ。
「ロトさん、少し話しませんか?」
「俺、ロトさんの大ファンなんです!」
フェリスは、爽やかな笑顔を浮かべてそう熱弁した。
「そうなの?!ありがとー!!」
「ロトさん、何か飲みます?奢りますよ。」
「え?!いいんですか?」
「はい。何がいいですか?」
「えっと、じゃあこのオレンジソーダで!」
私は、遠慮なく飲み物をいただくことにした。
「フェリスさん、すごかったね!動きがすごくきれいだった!」
「ありがとうございます。」
私達は買ったジュースを飲みながら、今日の練習のときの話をする。
フェリスの動きは、ただのアクション俳優とは違う、リアル感があった。隙も無駄もないきれいな動き、圧倒的な強者感。
あまりのきれいさに、私は思わず見惚れてしまっていた。この世にあれほどきれいな戦いをできる人が他にいるのだろうか。
「ロトさんも良かったですよ。観客に魅せる、大きく派手な動き。」
「えへ、ありがとう!フェリスさんに褒められると嬉しいな〜」
「…でも、実際に戦うとしたら、少し大変そうですよね。」
「そうでもないですよ。」
「そうでしょうか。…実験体って、あの程度のものばかりではないですよ。」
「へ〜」
何かものすごく意味深なことを言った気もするが、頭を使うのは疲れるのでスルーした。
「…すみませんロトさん。もうこんな時間です。これ以上暗くなる前に帰ったほうがいいでしょう。」
時計を見て驚いた。もうこんな時間か。
「ホントだ!こんな時間!じゃあ、そろそろ帰…」
『天音羽』
耳に付けたイヤホンから優の声がする。
『街に実験体が現れた。今から位置情報を送る。』
「了解!」
「…今は誰と話していたんで…」
「じゃあバイバイ!フェリスさん!!」
フェリスが何か聞こうとしていた気がするが、時間がないので無視して地下駐車場を出た。
***
「ティア」
冷たい地下駐車場に、低く静かな声が響く。
「はい。ここに」
暗い柱の影から、白髪混じりの頭をした中年の女性が出てきた。
フェリスは先程までの爽やかな笑顔を完全に消した。冷たく突き刺す氷のような表情だ。獲物を狙う鷹のように金色の目を光らせている。
「外に出る」
「かしこまりました。…ロトの戦いをみるのですね。」
「ああ。」
「余裕だね!」「行くよ呂都丸!」
笑顔を浮かべながら実験体と戦っているロトを、フェリスはビルの影から観察した。ロトの周りでは、応援や歓声の声が上がっている。
「…ロト。」
フェリスは小さく呟いた。
「無駄が多い。被害も大きい…」
フェリスは、袖を捲し上げた。腕には、赤い鳥の痣がある。
「ロト、そこを退け。」
フェリスは痣に爪を突き立て、ゆっくりと引き裂いた。
鮮血と共に、黒い霧がそこから溢れ出た。




