僕とヒーロー〜Rotomaru's turn〜
「天音羽、これ持ってろ。」
「何?これ」
姉ちゃんと優が話をしている。
「イヤホンを少し改良した。戦うときに耳に固定しておけ。これで指示を出すから。」
「この前みたいに叫んでくれたらいいんじゃない?」
「それだと目立つだろ。俺の周りを嗅ぎ回ってロトの正体を特定されたらまずい。」
「そっか!」
優は呆れた顔をしながらも、柔らかい表情で姉ちゃんを見ている。その優しい目を見て、ふとあの兄ちゃんを思い出した。
「被検体K-37。お前は失敗だ。」
ある日、急にそう宣告された。
苦しい薬品を何度も体に入れられ、気を失った。
気が付いたとき、僕は猫になっていた。
失敗だと言われても、そもそも何が失敗なのか知らないし、何の感情もわかなかった。
「3日後、こいつを外に出しましょう。」
「そうだな。あの薬を用意しとけ。」
白衣に身を包んだ研究員達が話をしている。でも僕には、なんの話かよくわからなかった。
新しく鉄製の首輪を付けられ、鉄格子に囲まれた部屋に入れられる。
この部屋の外に出られるのは、1日に2回だけ。薬品投与と、身体検査。
『もう少しだったのに!なぜ失敗した!』
猫になってから、耳が良くなった。いつもは聞こえない声が聞こえる。
『申し訳ございません。』
『まぁいい。あの猫が一番進んだが、これが限界だったのだろう。』
ぼーっとしながら、その会話を聞く。
「…え?」
思わず声を出してしまった。自分がなぜ研究をされていたのか、その目的を話したからだ。
「おい、出ろ。」
そこでちょうど、身体検査の時間が来た。
「ここで待ってろ。」
廊下で待たされる。隣には、車椅子に座った高校生くらいの男の子も待っていた。
「ねえ、君人間だよね?」
男の子がこそっと囁いてきた。
「どうしてわかったの?」
「僕、薬品のおかげか、鼻がよくなってるんだ。君からは、人間の匂いしかしない。」
男の子は、ニコッと優しく笑いながら聞いてきた。
「君、いろいろ知ってるよね?この組織のこと。」
「?!君も知ってるの?」
「あぁ。僕、耳も良くなってるから。」
研究員達は気づいてないみたいだけどね、と囁きながら、男の子は優しく笑った。
「おい。何を話している。」
そこでちょうど、研究員が戻ってきて、止められてしまった。
それから1日、僕はその子と一緒に話した。別の檻にいても、2人とも耳が良いから小さな声で話ができた。
『ねえ、君は明日のうちに、ここを出て』
「え?なんで?」
『このままだと君は、たくさんの人を殺してしまうから。』
そう言いながら、逃げ道を教えてくれた。ずっと前から考えていたルートらしい。
「兄ちゃんも一緒に逃げようよ。」
怖かった。僕は外の世界を何も知らない。
『僕は無理だ。体が動かないから。』
「そんな…」
『君、名前は?』
「被検体K-37」
『そうじゃなくて、本当の名前。ないの?』
「…わかんない」
『…そっか。じゃあ、名前をつけてあげるよ。外に出てから必要になるかも。…猫としての名前の方がいいよね。』
しばらく経ってから、また兄ちゃんの声がした。
『君は、呂都丸だ。』
「うわー!めっちゃよく聞こえるよ!」
姉ちゃんの叫び声で、ハッとした。
「…それほど驚くことでもないだろ。」
優がまた呆れた声を出している。
「みてみて呂都丸!!これで優の指示がよく聞こえるよ〜」
満面の笑みを浮かべて、姉ちゃんがイヤホンと言っていた物を見せてくる。
「良かったね!姉ちゃん!!」
あのとき、姉ちゃんが見つけてくれて良かった。世界がこんなに明るかったのを僕は姉ちゃんに会って初めて知った。
「よーし!次も頑張るぞ!」
「うん!」
待ってて、兄ちゃん。すぐ会いに行くからね。




