16 苦労人たちの同盟
パレードの翌日、レティシアが着替えるために席を外したわずかの時間に、オーギュストはユージンを自室の奥へと招き入れた。
「__ユージン、座れ。今日は王としてではなく、お前と同じ一人の『被害者』として話がある」
オーギュストは、普段の威厳をかなぐり捨てて、疲れた顔つきで椅子に座り込んだ。ユージンとっては普段は顔も合わせたくないタヌキ野郎だったが、あまりの憔悴ぶりに思わず腰を下ろしてしまった。
「……陛下、その顔……昨日は一睡もされていないのでは?」
「ああ……。昨夜、レティシアがわしの寝室にまでやってきてな、『ユージンがちゃんと戻って来るかどうか、軍を出してでもアルベール邸を見張っていてください』と朝方まで大騒ぎしていたのだ……」
ユージンもため息をつき、頭を抱えた。
「……容易に想像がつきます。あの姫ならやりかねない」
「あいつが何かやらかす度に、お前の心は離れるばかりだ……しかもそれが理解できないのだ」
「……はぁ」
「そこでだ、ユージン。わしとお前であの子に『呪い』をかけてやろうではないか」
「呪い?」
オーギュストは、ユージンの方へ身を乗り出し声を潜める。
「お前はあの子のお転婆にすっかり参っている……ならばそれを逆手に取るのだ。あの子にこう告げるとしよう。『お前が淑女としてこのまま大人しくいることが出来る限り、ユージンは傍に居てくれる。だが、一度でもやらかせば、ユージンは即座に居なくなる』とな」
「……ちょっと待って下さい」
ユージンも馬鹿ではない。
「……ハッキリ言って、それは承知しかねます、陛下。私に『やらかさない姫』を永遠に面倒見ろと言っているようなものです」
「違うぞ……いいか、ユージン。あの子の性格だ。三日、いや一週間もすれば、必ず何かを爆発させるか、誰かに多かれ少なかれ損害でも与えるであろう……そうなればお前は『約束です』と言って大手を振って休暇に入ればよい。わしも、それを理由にあの子を厳しくしかることが出来るというもの」
オーギュストは、悪友のような笑みを浮かべる。
「……お前が以前わしのことを『おっさん』よばわりしたことも、今までのこと全て不問にいたそう」
「……一体何を企んでおられるのですか?私にどうしろと?」
「察しがいいな、ユージン……いいか、わしはあの子の父親でもあるが、同時にこの国の国王だ……包み隠さず言おう。お前にこの国を守って欲しい。あの子が玉座に座るその日まで、お前という『最強の盾』をロドニアに繋ぎ止めておきたいのだ」
ユージンは鼻で笑った。
「申し訳ありませんが、私に愛国心なんて期待しないで頂きたい。私が守りたいのは、アルベール邸での穏やかな暮らしだけだ。……それをあんたたち親子がかき回そうとしている」
「だからこその、提案なのだ」
オーギュストは、ユージンの不信感に満ちた視線を真っ向から受け止め、声を落とした。
「もう一度言う。レティシアに『呪い』をかける……あの子に『お前が一度でもやらかせば、ユージンは二度と戻らない』……そうすれば、あの子は必死に自分を殺して『淑女』を演じるであろう……もしあの子が耐えきれず何かをしでかしたその時には……わしはお前を解放すると約束しよう」
ユージンの瞳に、鋭い疑念が宿る。
「……信じられませんね。あいつがやらかした瞬間に『ユージン、あの子をしかれるのはお前だけだ』とか何とか言って、さらに無理難題を押し付けられるに決まっている。そうですよね?」
「ははっ、手厳しいな……だがユージン、これがお前にとって唯一の『賭け』ではないか?このままではあの子の執着で身動き取れなくなるぞ……わしと手を組み、二人であの子をコントロールしようではないか……後は……」
(……このおっさん、最低だな。自分の娘を使ってまで、俺を働かせようとしている。だが、あのお転婆がいつまでも『完璧』で居られるはずもない)
オーギュストが娘を甘く見ているのかは知らないが、この『密約』に乗って、レティシアの自爆を待つのが、ユージンのアルベール邸に戻る最短ルートであることは間違いない。
「……分かりました……ただし、陛下。……私は貴方をこれっぽっちも信用していませんから」
「ああ、それでいい。……信用ではなく、互いの『利害関係』で動こうではないか」
こうして、一刻も早く遠ざかりたい『不本意な専属騎士』と何としてでも国を守りたい『タヌキ王』は、レティシアという共通の課題をめぐって、最悪の協力関係を結んだ。
物語が予期しない方向に……(笑)




