13 義父(おやじ)と義兄(あに)と静かな夜 その1
レティシアがユージンを伴って鏡の間を出ようとしたときに、騎士団長ガストンが向こうから速足でやってきた。
「ユージン殿、これから緊急の打ち合わせだ……姫様、大変申し訳ありませんがこの先のご同行は差し控えていただきます」
レティシアは驚き、何か言おうとしたが、ガストンは有無を言わさず二人を引き離し、ユージンをひったくるようにさっさと別室へと連れていった。
「……助かったよ、兄さん。どうやってあの場を離れようか迷ってた」
「『お転婆』の大のお気に入りだもんな、お前は」
今やレティシアは『お転婆』の通り名を付けられるほどその奔放さは有名になっていた。
「……ああいうことはもう二度と御免だな……腹は減るし、眠いし……疲れたよ」
ユージンはやっと本音を漏らした。今日一日は本当に気の休まる暇がなかったのだ。
「オーギュスト陛下もいよいよ、外堀を埋めに掛かっているのだろうな……きっと、お前……」
「兄さん、やめてくれよっ、姫様をお守りするのが騎士の仕事だが、今の俺はもはや『子守り役』のような気がする」
ユージンの言葉にガストンは吹き出した。
「……子守か……そうだな、あれは、あっはっはっは!」
ガストンは豪快に笑い飛ばした。
「そうだな。お前の本当の目的、『不穏分子たちを特定して掃除』して、さっさと養成所の息子に戻らないと、行きつく先は地獄だぞ」
「……そうだ!……兄さんがあのお転婆を貰ってくれたら良いんじゃないか?……なんなら俺だって協力するし……」
「馬鹿言うなっ!あれはお前しか見てねえよ……あれは手に負えん」
ガストンが続ける。
「……もし、万が一近隣諸国にでも嫁いだら……お前自身が、花嫁道具の一つにされかねねえな」
「……いって良い冗談があるぞ、兄さん。そうなったら、もう亡命ぐらいしか残ってねえよ」
「……恐ろしいな、それは」
「……」
この後、しばらく沈黙が続いたのだった。




