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ロドニア再建記 __お転婆姫と不本意な専属騎士  作者: AKIRA


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12 舞踏会__職人と駒と空腹と

 王宮の「鏡の間」。かつて反逆者ロザリンドがフィリップを据え、王室の終焉を宣言しようとした、呪われた記憶が染みつく広間。壁一面の鏡は、あの日の暗く陰湿な色の代わりに数千のろうそくと、着飾った貴族たちの虚飾を映し出している。


 この夜、会場を支配していたのは、嘲笑とかつての惨劇を想起させる不穏な空気だ。誰もが、不器用な「平民騎士」ユージンが王女レティシアの足を踏み、この象徴的な場所で醜態をさらす瞬間を期待していた。


 だが、音楽が始まった瞬間、鏡の中の景色が一変した。ユージンの踏み出した第一歩は、音もなく、鏡の床を滑るように完璧な弧を描いた。

彼はレティシアを見ているのではない。アルベールがモランに頭を下げ、教えてもらった「美という名の武術」をただ忠実に、設計図通りに展開しているのだ。


「……ユージン?あなた……この舞踏会で……一体、何……?」


レティシアが驚いた様子で囁く。彼女は、自分がリードするつもりでいたのに、実際にはユージンの圧倒的な体格と技巧によって、逃げ場のない「完璧なポーズ」へと固定されていることに気づき始めていた。


「……姫様、左肩が五ミリほど下がっています。……顎をもう少しだけ上げて……あとはお任せください」


流れるような旋律の中、ユージンはレティシアの瞳ではなく、彼女の「重心の軸」と「肩の水平線」だけを凝視していた。


「……姫様、今のステップ、右旋回が少し遅れ気味です。動線が外側に膨らんでいる……修正してください」

「なんですって⁈そんなことより、私のドレスの広がりを見てくださいな」

「……ドレスは関係ありません。……重心がブレれば美しくありません。ほら、そこ……もっと背筋を伸ばして!肩甲骨を寄せてください!」

「もーっ!あなた、私を人間ではなく、チェスの駒か何かだと思っていませんこと?」

「ほら、そこ……デコルテを意識して、胸を張って」

「……」

「笑顔っ!」

「……え?」


(チェスの駒?……そう思ってなけりゃ、あんたのその『面倒くさい自尊心』につきあって踊るなんて不可能だ。実際俺が今見ているのはモランに叩き込まれた『理想の残像』だ。……よし、今の踏み込みはいいぞお転婆。そのままキープしろ)


レティシアは、自分の美貌には全く揺るがないユージンの「技術屋」としての頑固さに、怒りを通り越して圧倒されていた。どんなに熱い視線を送っても、帰ってくるのは「動線の修正指示」のみ。

自分への誉め言葉もなく、「動線」を要求してくるユージンにレティシアは悔しさを覚えつつも、人生で初めて「自分を完璧に制御し、最高地点へと引き上げてくれる存在」に出会ってしまったのかもしれない。


そんなこととはつゆ知らず、周囲からは「愛を語らっている二人」のようにも見える美しいダンス。


最後の一音が鳴り止んだ。一泊置いて、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。礼装姿のユージンがあまりにも堂々と立ち居振る舞い、美しく気品に溢れていたため、次の一曲を狙う貴婦人たちが一斉に押し寄せてくる。


「ユージン様、ぜひ私とも!」


 だが、その殺到するドレスの波を、レティシアが扇子一本で真っ二つに割り込んだ。


「どきなさい!ユージンは私の、私専用の護衛騎士ですわよ!ダンスはもうお終い!ユージン、こっちへいらっしゃい!」


レティシアにしては、ビシビシ指導されながらのダンスは面白いはずもない。ましてや相手が自分の思っている「愛を囁く理想の王子様」との会話としてはあまりにもかけ離れているのが不満であった。


(……ふぅ、助かった。お転婆が初めて役に立ったな……さてこれで、どうやってバックレるかだが……)


一方のユージンはどうにかして、此処から逃げ出したいと思っていたのだ。彼には空腹とこの状況からの逃避方法以外、頭にはなかったのだった。


レティシアの顔が目に浮かぶ(笑)

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