11 紺青の幻影
その日は、王国にとって最も重要な祝日である「建国記念祭」の当日だった。
王宮に再就職して間もないユージンに下された任務はあろうことか、祝賀パレードにおけるレティシア王女の「先導騎士」という、国中で最も目立つ大役だった。
(……あんのタヌキ野郎。陰でレティシアを支えてくれって言ったのはどこのどいつだよ⁈この嘘つきめがっ……こんな派手な格好で街を先頭で練り歩いて、バレないわけがないだろうがっ!)
ユージンが跨っているのは、一点の曇りもない毛並の白馬。
そして纏うのは、濃紺のベルベット生地の正式礼装。光る銀糸で縁取られた立ち襟と肩から美しく流れるマントが、彼の鍛え上げられた無駄のない体躯を強調している。気品ある正装用の帽子を深く被り絶妙に隠すも、そのいで立ちは隠すことは出来ない。
「見て!先頭の騎士様を!まるで絵画から抜け出してきたみたいだわ!」
「あの方はどなたなのかしら?騎士団名簿には載っていないそうよ。……ああ、なんて素敵なお姿!」
沿道の女性たちから黄色い声が飛ぶ。悲鳴に近い歓声が上がる。
(……勘弁してくれ……俺はただの、平民騎士だというのに……とんでもなく豪華な服を着せられて、民衆のさらし者になるなんて。……屈辱以外の何ものでもない)
「ユージン、あなた意外と白馬が似合いますわね。いつもの服装よりずっと私の騎士らしくてよ」
レティシア王女の言葉に、彼女に聞こえないように(うっせー)と独り言ち、さらに帽子を深く被り直すユージンであった。
「もう、何か言ってくれればいいのにっ!」
レティシアは不貞腐れながらも、ユージンの立ち居振る舞いをしっかり見ていた。
白馬を御する無駄のない手綱さばき、周囲の喧騒に一切動じない不動の姿勢。いくら帽子で顔を隠していても、そこから漏れ出る「本物の武人」の気配が、今日のユージンを誰よりも輝かせていた。
手綱を握るその独特の指先の力加減、馬の呼吸を読み、一糸乱れぬリズムで進むその騎乗法は、アルベールが養成所で、時に厳しく、時に黙って背中を見せてくれた「本物の技術」だ。
一方で、正式礼装を纏ってもなお、卑屈にならず、かといって傲慢にもならず、誰に対しても凛とした誠実さを感じさせるその背筋の伸ばし方は、エレナが台所で、あるいは寝物語で、彼に教え込み続けた「人としての美学」そのものであった。
ユージンは片隅で見守る二人の方を向くことはなかった。だが、その背中に宿る「親譲り」の気高さは、名もなき騎士としての彼を、どんな王宮のどんな騎士よりも立派に見せていたのだった。
市中引き回しの刑(笑)




