10 再登城の前の相談__盾と交渉人
アルベール邸の書斎。ユージンは椅子に深くもたれ掛かり、天井を仰いでいた。
「モラン……結局はこうなるのか。あの姫の突進がまさか、あんな恐ろしい結果になるなんて、がっかりを通り越して寒気さえする」
モランは、顔色一つ変えず淡々と事を進める。
「仕方がありません。王女殿下が『門下生になる』とまで公言された以上、あなたが何もしなければ、王家がこの家を飲み込む『大義名分』を与えていたでしょう。今のあなたは、王女を誘拐した不届きものか、あるいは未来の配偶者候補……その二択しか残されていません」
「極端すぎるだろ!…………だけど、俺が城に詰めることで。『俺はただの騎士である』として、今一度主従関係をはっきりさせる。そうすれば、家族を巻き込むことはない……そういう事だな」
「その通りです。私が今回同行するのも、あくまでアルベール邸の正当な代理人として、あなたが王家に利用され過ぎないように法的な盾となるといたしましょう。オーギュスト王には、私が王宮の儀礼や他国との交渉の助言役として表向きに仕えることで、あなたの『自由』を買いたたく交渉材料にいたします」
「__わかった。俺がレティシアの傍に居て、あんたが王の側で立ち回って……そうやって義父たちの平穏を守る……分かった。不本意ではあるが……行くことにする」
数日後の謁見の間。オーギュスト王は満足げに身を乗り出していた。
「よくぞ戻ってきてくれた、ユージン。レティシアから聞いたぞ。馬車を飛ばして彼女を無事送り届けたそうだな。その忠義、いや……お前たちの情熱に免じて、再びお前をレティシアの専属騎士に任命する」
ユージンは内心で「阿呆か、こいつ」と毒づきながらも、モランに目配せされて膝をつく。
「……過分なお言葉、恐縮にございます。王女殿下の護衛として、この身を捧げます」
「ははは!よいよい。さらにお前には今回特別、新調した鎧と王家直属の騎士としての礼装も授けよう。ガストン騎士団長にも、お前を『特別扱い』の待遇を伝えておる。誇りに思うがよいぞ」
(……何てことしやがる!俺は目立ちたくないと、前もって何度も伝えておいたのが、どうして理解できないんだ⁈この底抜けの馬鹿親子がっ!)
さて、謁見を終え、回廊にでたところでガストンとその部下たちが立ち塞がる。
「……養成所の若造。一度逃げたお前が、再び王女殿下の護衛だと?騎士団の正式な手順も踏まず、王や姫の温情だけでその地位に就くとはな。……貴様のような『特別』が一人いるだけで、現場の秩序がどれだけ乱れるか、分かっているんだろうな?」
ガストンの言葉は厳しいが、その目は「お前の覚悟を団員たちの前で示せ……さもなくば嫉妬に狂った他の団員たちに食い殺されるぞ」という警告を含んでいた。
「……団長さんのいう通りですよ。俺だって、こんな派手な役回りは本当はご免なんです。でも、決まった以上はあなたの部下たちよりも確実に、姫様を守ってみせる……文句があるならいつでも剣で受けて立ちますよ」
二人の間に走る火花。それはユージンを再び王宮という戦場に適応させるためのガストンなりの「荒治療」のつもりだったのかもしれない。




