パンデモニウムへ IV
一部用語の不備を修正しました。
二人が駐車場から出た頃はすでに空が暗くなっていた。
リベラは普通にあれこれ見ながら歩いているが、チャットグループの住人である結鶴はスマホをいじりながら歩いている。
春休みで賑わっている商業区。
彼女たちのような派手な髪色でもすっかり溶け込めるくらい個性あふれる者が集っている。
この賑わいを守るためにある彼女たちだが、当の本人たちはすごいことをしているとは少しも思っていないらしい。
時折、エンブレムとCADが入っている透明の容器を持ち歩く若者を見かける。冒険者だ。リベラは好奇心に駆られ、エンブレムとCADを確認したがる。結鶴は他人を評価することに大した興味を持たないが、リベラが持ちかける討論には付き合う。
その中でも一際目立つ二人に声掛けられるまでは。
「あ、結鶴だー」
「おーい結鶴!こっちだこっち!」
キャップとサングラスの二人が結鶴に向かって手を振っている。ちなみにサングラスの人は抱えている縫いぐるみのドラゴンの手を握って振っている。
彼らの声を聞いた結鶴はスマホをポケットの中に仕舞い、リベラは少し足を早めた。結鶴は足を早めていなかった分、リベラの後を追って二人の前に立った。
「橙子、薫、おまたせ」
そして少ししゃがんで、
「カリーナもロサもおまたせ」
と縫いぐるみのドラゴンたちにも挨拶した。
「紹介するよ」
いつもながら慣れないことだが、これは役目だと理解する結鶴は礼儀よく手のひらで指しながら場を仕切った。
「こちらは御園生リベラさん。うちのパーティのOGでもある人」
「よう。よろしくな」
リベラは大人らしく颯爽な笑みを二人に見せた。
「こちらはうちのパーティの竜崎薫と、」
「竜崎薫です。よろしくお願いします」
二つのドラゴンの縫いぐるみを抱えたサングラスの少年は礼儀よく頷きました。
「私たちの友達の嘉上橙子」
「おう、よろしくな」
薫より長身でキャップの少年はキャップを少しあげ、明るい笑みを見せた。
「それから、薫のドラゴンちゃんたち。赤い方はロサで、白い方はカリーナ。同じ大事な仲間だよ」
それを聞いて、薫は「うんうん」と力強く頭を縦に振った。
「よろしくね」
リベラは一瞬迷ったが、すぐ状況を飲み込め、ドラゴンたちにも挨拶した。すると薫はそれぞれのドラゴンちゃんの手を握ってリベラによろしくと伝えた。
「結鶴の仲間だから覚悟はしてたけど、ほんと派手ね」
リベラはすぐ切り替え、二人の仲間を見つめた。
「今すご~く失礼な話を聞いた気がしたが」
結鶴は容赦なくリベラに反撃した。
「言われてみれば確かに…フィーラやクオンあたりとか……」
と薫は小声で呟いて、
「お前が特にな」
橙子が笑って追い打ちをかけた。
「う…」
案の定の薫が轟沈し、結鶴は笑いをこらえながらも「程々にな」と薫を庇った。
とまあ、本人たちはどう意識しているかはさておき、橙子と薫も確かに冒険者あるあるの格好をしている。
橙子はオレンジ色の短い髪を持っていて、リベラと同じく染めた髪色である。冒険者にはこの辺の規制が緩いため、この手のストリートカルチャーが助長されているらしい。橙子は休日にも関わらず方尖石学園の制服を着ている。黒をメインとするスーツの制服で、学年ごとに襟とネクタイの色が違っている。同級生である結鶴と橙子は今学期から三年生になるため、襟とネクタイが青色となっている。ついでに、二年生になる薫の襟とネクタイは校内でも大好評の黒。橙子は腰に装飾用のベルトをつけていて、そこに二つのCADがぶら下げている。それぞれ青いCAD「ルナ」と赤いCAD「ルシア」。そして橙子はもう一つ「バニシング」という名の白いCADを持っていて、背負っているほぼ当身長の透明のケースに入っている武器の杖に収まっている。冒険者が戦闘に使用するや身に付ける防具などは大まかに二種類存在する。既成の物に魔力を通して強化するタイプか、高次元物質化能力で需要に沿ってジェネレートするタイプかだ。橙子の場合、戦闘スタイルは魔力を大きく消耗するため、武装に極力魔力を使用しないようにしている。だから使用する杖は既成の物だ。橙子が持つ杖は魔力と相性のいい材料で造られていて、形や重量といった持ち心地に関係する部分も特別に調整している。値段に似合うだけの性能を発揮しているカスタマイズの武器だ。結鶴曰く、論文が数篇発表されているほどすごい技術で造られているものだが、勉強が苦手の橙子にはそのすごさが理解できないらしい。
次に薫だが、背中の中程まで伸びた茶色の髪を持っていて、こちらは結鶴と同じ地毛になっている。薫はドラちゃんたちの絵が書かれているジップアップのパーカーと、ちょっとおしゃれな9分丈のパンツを身に着けている。薫のドラゴンの縫いぐるみは数匹存在し、薫が創った独自の設定と世界観を持っている。パーカーはそのオリジナルグッツ、ということになっている。忠実の読者である結鶴はかなり創り込まれている設定だと高く評価している。薫が持はCADも同じく三つ。そのうち二つはドラちゃんの目玉代わりに嵌められていて、もう一つは背負っている透明のケースに収納されている狙撃銃に設置されている「シャンティ」という名の制御用のCADである。この中で一番魔力量に恵まれていない薫は武器はもちろん、身につけている服もそれなりの強化素材で制作されている。橙子やリベラ、結鶴あたりは戦闘で変身みたいに強度の高い防御服をジェネレートするが、薫は基本的に着ている服を補強する形で魔力消費を抑えている。また、戦闘でも使われるが、サングラス代わりや顔を隠す役割をも果たせる便利でかっこういいゴーグルをつけている。
自分の格好を確認してのことか、結鶴の話を飲んだのことか、とにかく反省の意を見せた橙子はすぐ話題を切り替え、
「御園生さんは大学で冒険者科を?」
橙子は疑問を切り出した。
冒険者の肩書はだいたい卒業で降ろされるものだ。だから大学に進学してから冒険者をやめる者が多く、残っている者の殆どは副業として冒険者稼業をしている。が、リベラが身につけているのは冒険者科のもので、いわばプロの一歩手前。「アマチュア」でしかない状態の高校生冒険者にとっては遠い存在である。
「大したことないよ」
リベラは一度「まあね」と受け流したかったが、傲っているように感じるからやめることにした。
「大人の余裕だね、それ」
それを聞いた結鶴は珍しく目を閉じ、微笑んで茶化した。
「ふんふん、もっと褒めてもいいのよ」
が、リベラは明らかに驕った。
「わーい偉い偉い」
結鶴はため息をつきながら棒読みで褒めあげ、
「うえ…」
リベラは再び大破轟沈した。
さすがにこの漫才ぶりに耐えきれず、とくに結鶴の白目が面白いらしくて、橙子と薫は派手に吹き出した。
この二人の笑いっぷりをしっかりと見届けたあと、結鶴は再び仕切り始める。
「さて、任務の話だ。詳細とみんなのスタイルを確認するよ」
冒険者パーティのリーダーをしている分、結鶴は手際よくみんなの注意を戻した。
結鶴のいつもながらの冷静な「号令」を聞いて、橙子も薫も信頼の眼差しで結鶴を見つめ、リベラはすこし口元を緩めて結鶴の方を向いた。
「私たちの任務はダンジョン『パンデモニウム』に潜入し、先行調査を行う。踏破が可能ならばその場で踏破、無理ならば安全を確保できる範囲で情報を収集し、持ち出す。データ記録用のCADを私の方で操作するから、みんなは攻略に専念して」
そういいながら、結鶴はレッグバッグから昨夜調整した専用のCADを取り出し、みんなに見せながら、端にあるボタンを押して起動させた。するとモニターのないはずのいCADに光が走り、コードのみのインタフェースが表示された。
「それから、みんなの戦闘スタイルをもう一度確認する。リベラ、パラディン」
パラディン。自己治癒能力を持つタンク系のスタイル。
「先陣は任せて」
リベラはパッチ型のCADを取り出し、かっこよくポーズを決めた。
「薫、アタッカー」
アタッカー。打撃、または物理的な攻撃をメインとする火力系のスタイル。
「みんなで頑張ろう」
薫は頷いた。
「橙子、スペルキャスター」
スペルキャスター。「魔法術式」で「魔法」を使用して、結局は物理的な現象を起こして攻撃するが、プロセスの違いから分類された火力系のスタイル。
「おうよ。背後は任せろ!」
橙子はケースを手に下ろし、少し掲げてポーズを決めた。
「最後は私ねっというまでもないと思うけど…」
と結鶴が自分のスタイルを申告する前に、
「あの!!もしかしてランカーの嘉上橙子さんですか!!隣にいるのは同じランカーの竜崎薫さん!?」
通行人の高らかな声に中断された。
嘉上 橙子
185cm/75kg/18歳
オレンジ色のショットヘアー
スタイル:SpellCaster
攻撃属性:魔法100%
三年生。結鶴の親友。いつも陽気に振るわっている。
スペルキャスターにも関わらず鍛えていて、スタイルがとてもいい。
勉強は苦手だが、冒険者の腕だけで偏差値の高い方尖石学園から破格の入学を果たしている。
結鶴とは共通の友人である薫をきっかけに知り合った仲だが、気が合うところから気づけばすっかりの仲良しになった。
前学期の短期留学では結鶴と同じ大学に。同じグループで助け合いの精神を発揮し見事学業を全うした。
竜崎 薫
171cm/62kg/17歳
茶色のロングヘアー
スタイル:Attacker
攻撃属性:物理90% 魔法10%
二年生。結鶴のパーティメンバーで、親友。パーティルームで愛用のギターを始めとする私物をたくさん置いている。結鶴が特別に薫用の飾り棚を設置したぐらいだ。暇な時はパーティルームでギターの練習をしている。「アヴァロンの清き風」に入ったのはほんの偶然だが、本人はとても気に入っているようだ。
学校でもめったに制服を着ないタイプだが、実力者の特権で特別に許されている。




