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第3話 貴様は、本当に最低のクズだな

 2日後。夜明けまえに起きた俺は、探索の準備をととのえ、宿屋からダンジョンへと歩みを進めていた。


(そーいえば、召喚者よ……おぬし、こないだ上層がどうとか言っておったな。ダンジョンというのは、一気に全フロアを攻略するものではないのか?)


 浮かびながら、付いてくるアモン。……ここで情報を共有しておくのも、悪くないだろう。


(えっと、Sランクのダンジョンは、つくりがAランク以下とちょっと違うんだ。いちばんの差は、ポータルで中断セーブてきなアレが、できることだね)


 Aランクまでのダンジョンは、全10フロアを上から順番に踏破する。B10Fのボスを倒して、超レアな遺物――アーティファクトを回収。


 アーティファクトからの魔力供給が絶たれたダンジョンは、ほどなく崩壊するため……その前に、最深部にある転移装置ポータルで離脱してミッションコンプリート、という流れだ。


 とうぜん、同時に2組以上のパーティが潜っていて、誰かがクリアしてしまうと大惨事が起こる。ダンジョンに挑戦できるのは1組ずつ……というのは、それが理由だ。


 しかしSランクダンジョンは、1フロアのサイズが、桁違いに大きい。そのためB3F、B6F、B9Fにそれぞれ中ボスとミニポータルが配置されており、上層→中層→深層→最深部の順番で攻略する。


 たとえばB3Fのポータルでいったん帰還したパーティは、次回は入口のポータルからテレポートして、B4Fから挑戦可能……と、いうわけだ。


 なんで、こーいうややこしいスタイルになっているのか。もしかしたら無理ゲーを多少なりとも緩和するための、創造神の配慮というヤツかもしれない。


 ちなみに歴史上、ボルワード深層ポータル――B9Fから戻ってきたパーティは、存在しない。


 個人で使える転移魔術とか、街への帰還呪文? あるわけないだろ、そんな便利なもん……



 ◇◆◇◆◇



 そんなことを念話でアモンに伝えながら歩いていると、木立ちの中に、迷宮の入り口が見えてきた。


 そこにはすでに、プレートアーマーに身を包んだゼラトリスが、待ちかまえている。彼女は険しい目で、こちらを睨みつけていた……


「ふむ、逃げずにやってきたか。どうやら最低限のプライドは、まだ残っているらしいな。それにしても、町娘にまざってホンモノのパラディンが、女騎士のイメージプレイとは……あのあと笑いすぎて、腹筋がぶっ壊れるかと思ったぞ。ククク……」


 ゼラさん、よろしく。不快な思いをさせるけど、いっしょに頑張ろう……と心の中で言いながら、一発煽っておく。


「……外道が」


 そう吐き捨てて、さっさと遺跡の階段をおりていく彼女。どうやら、会話すらしたくないレベルまで好感度が落ちてしまったようだ。仕方ない。続いて俺がダンジョンに足を踏みいれた、その瞬間――


 キュインキュインキュイン!


「うおっ、この、力は……! 魔力が、みなぎってくる……!」


 魔神アモンによって与えられたユニークスキル、“反信頼(アンチ・トラスト)”が発動。知力(INT)と最大MPが2倍以上に引きあげられ、各属性の1ランク上の魔術が、使用可能になった。


 いや、これ、マジで凄いぞ。2人パーティで、この上昇率。もしフルメンバーになったら、いったい、どうなってしまうんだ……!?



 ★迷宮地下第一層 小鬼の戯れる森★



 そこは大迷宮の名に恥じない、広大な空間だった。天井からは青い燐光を放つキノコが、いくつも垂れ下がっている。


 曲がりくねった木やシダ植物が、ところどころに生えているが、見通しはそれほど悪くない。足元には、腐葉土がうず高く積もり、酸っぱい匂いを出していた。


(ほう……なかなかどうして、趣のある光景ではないか。異世界に来たっていう実感がして、テンション上がるのう)


 感慨深げに辺りを見まわすアモンをスルーして、ゼラトリスに追いつく。


「ふむ……やはりAランク以下のダンジョンとは、規模が桁違いだな。して、下のフロアに通じる階段の場所は、分かっているのか?」


「……北東の方角に、3キロメートルほどだ。至るところにゴブリンやコボルトの集落があるから、気を付けろ。まあ貴様が命を落とそうと、私の心はいささかも痛まんがな」


 そう言うと彼女は、獣道をすたすたと進みはじめた。足早に歩いているように見えて、周囲の警戒は怠っていない。さすが、ベテランの騎士と言えるだろう。


「――明かり(ライティング)


 たいまつ代わりの小さな火球を指先にともし、ゼラの後ろに続く。とうぜん、会話はナッシングだ。


 確かに、ゴブリンたちがそこかしこで、たむろしているのが見える。彼女は器用に、モンスターの縄張りの隙間をぬうようにして、階段のあるエリアに近づいていった。


 どうやら、このフロアに出現する敵は、地上と変わらないようだな。そんなことを、考えていた矢先……


「……チッ、この先に行きたいが、あの群れが邪魔だ。おい、仕留めるから少し待っててくれ」


 ゼラが、振り返って言う。進行方向のすこし先、枯れ木に囲まれた空き地で、5匹ほどのコボルトがバカ騒ぎしていた。


 どうやら、原生生物の丸焼きと果実酒てきな何かで、宴会を開いているようだ。闇に乗じて奇襲をしかければ、始末するのはたやすいだろう。だが……


(ククク……何か、ぶっ込むつもりじゃろう。ちなみにワシの反信頼(アンチ・トラスト)は、まだまだパワーアップの余地を残しておるぞ。積極的に、ヘイトを稼いでいくのをオススメするでな)


 俺の内心を察してか、嬉しそうなアモン。こいつめぇ。しかし少しでも敵が弱いうちに、嫌われイベントを発生させておいた方がいいのは事実だ。よし、いくぞ……!


「その必要はないぞ、あばずれ」


 俺は立ちどまり、呪文を唱えはじめた。


「……何をしている。それとも、貴様が戦ってくれるのか? 構わんが、できるだけ静かにたのむぞ。ヤツらは音に敏感だから、新手が来ると厄介だ」


 心配そうに、眉をひそめるゼラトリス。彼女に手をかざして制しながら、詠唱を終えた。俺の右手の前に、バレーボール大の光球が出現――


「――ククク、閃轟弾(フラッシュシェル)


 ばっかあああぁん! ばん! ばん! ばぁん!!


 ダンジョンに、閃光と雷鳴のような大音響が叩きつけられた。枯れ木がぐわんぐわんと揺れ、天井のキノコが震えて胞子を撒きちらす。


 俺が組みあげたのは、火と光の魔力をブレンドした起爆呪文だ。破壊力がほぼゼロのかわりに、光と音の出力を、極限まで引き上げている。


 いうなれば、魔法バージョンの爆竹……魔術学校時代にイタズラ用として開発した術式だが、いろんな形で、役に立ってくれちゃっているのだ。


「……ッッ! 貴様っ、何を……!!」


 顔をそむけ、両耳を手でおおいながら、非難の声をあげるゼラ。空き地のコボルトたちも狼狽(うろた)えて叫んでいたが、次第に落ちつきを取りもどし、轟音の出どころを……こっちを向いた。


「フフフ……この俺にさんざん回り道をさせた罪、万死に値する。まずはその腕がなまっていないかどうか、働きで示すがよい。さあ、モンスターのお出ましだぞ……!」


 言うが早いか、ジャンプしながら浮遊呪文(レビテーション)を発動。地上20メートルぐらいの高さに浮かびあがり、周囲を風のバリアでおおって、ごろんと寝転がる。


 光と音にさそわれて、モンスターたちがわらわらと集まってきた。ゴブリンとコボルトと、驚いて穴から飛びだしてきたスライム系の何か。合わせて、軽く50を超えている。


 ゴブリンたちが粗末な弓で矢を射かけてくるが、風の結界に阻まれて、むなしく地面に落ちる。どうやらスキルの効果で、既存のスペルの出力も、爆上がりしているようだ。


 そして、魔物のターゲットは、必然的に――


「くっそおおおっ!! この……最低の、クズめ……!!」


 剣を抜きはなったゼラトリスに、全方位から、モンスターの群れが押しよせる。


 刃わたり約80センチ、分厚い両刃のブロードソード。その根もとから切っ先まで、ゼラの全身からほとばしる気合が――白く灼けた光となって、刃を包みこむ!


 踏みこみ、斬り上げ。コボルトの首が、宙を舞う。返す刀で横なぎ。胴を両断された別のコボルトが、金切り声をあげながら地に伏した。


 シールドバッシュ! ずがん! ゴブリンがもの凄い勢いで吹きとび、仲間3体を巻きぞえにして爆散。聖なる加護が宿った刀身が閃くたびに、スライムがなすすべもなく、蒸発していった。


 ――速い、速いぞォ! 重装甲のパラディンとは、思えない動きだ。おそらく、修羅場で磨きあげられた実戦剣法。最短距離で急所を絶つ、無駄ひとつない太刀筋――!


(ヒューッ! やりおるわい……)


 ただでさえデカい目玉を見開いて、感心するアモン。いつでも助けに入れるよう、寝たふりをしながらチラチラ様子をうかがっていた俺も……心のなかで、胸をなで下ろした。


 斬撃、突き、シールドバッシュ。パリィで体勢を崩して、唐竹割り……5分もかからないうちに、空き地にモンスターの死骸の山が、できあがっていた。


 うーむ。あのバーで狼藉を働いた客が、どんな末路を辿(たど)ったのか。考えるだけで、恐ろしい……!


「フン、片付いたか。肉壁としては、合格点といったところだな。しかし……遅いぞ。あの数、3分もあれば足りたはずだが」


 少しはなれた場所に、降り立ちながら――あんまり近いとそのまま斬られそうだ――彼女に、声をかける。


 ゼラは乱れた息をととのえ、剣を鞘にもどし、ゆっくりとこちらを向いた。アーマーの胸当てには、緑の血……(すね)にはスライムの残骸が、こびりついている。


 彼女は猛禽類のような眼光で、俺を見すえながら――


「……ひとつだけ良いか」


「なんだ」


「私は……あばずれ、ではない」


 怒りをむりやり抑えつけているであろう、抑揚(よくよう)のない声。ううっ、怖ぇ……しかし、同時に俺の中の魔力が、ゾクゾクと高まっていくのが感じられた。


「貴様のようなクズに何を言っても、無駄かもしれんが……私は、カラダを使って客を取ったことは、一度もない。私を試すのは勝手だが……それだけは、慎んでもらおうか」


 ゼラ……君の誇りを踏みにじって、本当に申しわけない……


「行くぞ。階段がちかい」


(……あの女、なかなか肝がすわっておるのう。もう一度言うが、ワシのスキルでは防御力は変わらんからの。せいぜい、後ろからズバっとやられんようにな。ククク……)


 アモンが冷やかすのを聞きながら、俺は、彼女の後を追った……

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