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生存確認

「楽しみですね!」


「ね!」


 授業を終えた俺達は、久々の部活動に向かっていた。


 と言うのも、顧問のバラニ含む生徒達がコクノイアの雷撃で負傷しており、それに合わせて部活動もしばらく休止していたのだ。


 だがようやく全員が完治し、今日が部活動再開の日となっていた。


「先生達無事で良かったですね」


「ラグニィとリーチェが威力を軽減してあげたからだと思うよ。

 そうじゃなきゃ多分全滅してた。

 いや、1人生き残りそうなのが居たか……」


「久しぶりだね!! 元気にしてたかい?」


 背後からの声に振り向けば、大きなゴツイ体に似合わない優しい笑顔のカルノが後を追って来ていた。


「そちらこそ、お元気そうで何より」


「君達には直接お礼を言いたくてね。

 ありがとう。

 お陰で命拾いしたよ」


「それならこちらの2人に言ってやってくださいな」


 リーチェとラグニィにどうぞどうぞと賞賛を譲るも、カルノは俺とムアを交互に見つめてくる。


「君達も、だよ。 ありがとう。

 俺は先に行ってるよ」


 広い背中が廊下の角の向こうへ消えたのを見計らい、ラグニィが聞く。


「どうなんです?」


「多分気付いてると思う」


 瞳を覗いたのだろう。


 リーチェが確信の滲む声で答えた。


「あんときカルノ意識あったかなぁ」


 必死過ぎて覚えていないが、全員ムアの霧に為す術が無かったような気がする。


「処刑の日に気付いたのかもしれない」


「屋根登ってた時?

 たしかに変装甘かったもんね」


「ノゾムとムアはともかく、私達は急ごしらえの装備でしたからねぇ」


 実際、あの日のリーチェとラグニィの装備は有り合わせもいい所だった。


 顔隠すのに専念した装備だっただけに、今考えると防御力が心許ない。


 それはいけない。


「呪物漁りに行く?」


「どうしてそうなるんです!?」


「あ、でも確かに、今の私達なら呪物にも触れるよね」


 だが、やはりラグニィは呪物に触れるのは少々抵抗があるようだ。


 それが普通の感覚なのだろう。


 しばらく悩んでいたラグニィだが、ふと顔を上げる。


「そう言えば、ノゾムに作ってもらったあの武器って呪物なんですか?」


「いんや、あれ自体は違うよ。

 ただ瘴気とか負の感情が乗りやすいってだけ。

 呪いバージョンの杖みたいなもんだね」


 俺達が授業で使う木製の杖は、枝に存在する魔力の通り道に使用者の魔力を流して魔法を発動させる。


 動物の骨等でも同じような事が出来るので、その素材の1部を俺にした訳なのだ。


「あ、失敗しましたね。

 『悪夢』の時に使う武器と分けなけないと、身元がバレてしまいます」


 ラグニィはちぇっとでも言うような口を尖らせるが、安心されよ。


「それなら心配ご無用。

 その武器普段は白いけど、瘴気流し込んだら真っ黒になるからね。

 普段は白、『悪夢』の時は黒にすればいいんじゃない?」


「すごい、最初から考えてたの?」


「残念、偶然の産物だ」


 との事なので、周囲の目を気にせずにリーチェとラグニィはそれぞれの得物を取り出す。


「改めて見ても綺麗な見た目してますね。

 ムアの弓もリーチェの煙管もそうですけど、意外と器用なんですね」


 真っ白なステッキは光に翳すと、表面が煌めいて蔦と花の模様が浮き上がる。


 彫り物の上からエナメルと思われる物質でコーティングしたお陰で、ガラスの膜で覆われているような幻想的な雰囲気を放つ、素敵なステッキに仕上がっていた。


 シンプルかと思いきやかなり装飾が細かいのも自慢だが、性能もラグニィに合わせてある。


 気の通りを非常に良くし、ストレートに力が伝わるようにしているので、技術の足を引っ張らない仕様になっているのだ。


「ほんとだ、綺麗……」


 リーチェの細い指に転がされるのは、細身の長い煙管だ。


 吸い込み口から先端にかけてツタが交差して模様を描き、皿に至って無数の花が咲くような飾りになっていた。


 どちらも、2人が俺の事で喧嘩していたとは露知らず、呑気に作った1品である。


「ムアのもある。

 ……あれ、ノゾムのは無い?」


 ムアの弓もまた細かい装飾がされている一方で、俺の刀に装飾は無い。


 強いて目に付くなら、持ち手に巻かれた滑り止めの布くらいだろう。


「俺のは消耗品になりそうだから、こだわらなくていいかなって」


「前言ってましたっけ。

 横からの力に弱いとかなんとか。

 この薄い刀身なら指でも割れそうですね」


「やめてー?」


 その後、カルノらと同じく治療していたガトアとラフェレと合流し、久しぶりの部活動へ向かうのであった。



●●●●



「ふぅ、いい汗かきましたね〜」


「もう結構暑くなって来たねぇ」


「……そう……だな……」


 水の魔法で服を着たまま体を流すラグニィと俺の横で、ガトアが剣を杖のように着いている。


 部活動の模擬戦にて、俺とラグニィにみっちりしごかれたガトアは、息も絶え絶えと言った様子だ。


「結構様になって来たんじゃない?

 固有能力抜きにしても体動かすの上手かったし、こりゃ銀級まっしぐらだな」


「ですね!

 もう銅級は目指していい頃だと思いますよ!」


「……良かった……」


 瀕死のガトアをバサーっと水の魔法で洗いつつ、肩を貸して立たせる。


「剣持ちましょうか?」


「…大丈夫。 もう歩ける」


 深く息を吐いたガトアは、髪をかき上げると覚束無い足取りで歩き出す。


 周囲から俺達に向けて少し引き気味な視線が向けられるが、何も好き好んでガトアをここまでバテさせたのではない。


 加減しようとする俺とラグニィに対し、ガトアが自ら、強くなりたいと食い下がってきたのだ。


 どうもコクノイアの雷撃一発で戦えなくなったのが応えたようで、これではラフェレを守れないと気合いが入ったらしい。


 実際、本腰入れて強くなろうとしたガトアの成長は早く、徐々に慣らすつもりでいた癖の強い固有能力の加減も、今日1日でかなり上達していた。


 こっそり疲労の回復はしたが、まさかここまで粘るとは思ってもみなかった。


「好きな人の為なら、いくらでも出来ちゃうからね」


 心做しか大きく見える背中に呟く。


「それで命差し出されたら困っちゃいますけどね。

 死なずにお願いしますよ」


「もちろん。 死なずに幸せにするよ」


「是非そうしてください」


 背筋のくすぐったくなるような沈黙に、少しばかり遅れた青春を感じつつ、赤く染まる景色の中歩くのであった。



●●●●



 その日の帰りの事である。


 『悪夢の巣窟』へ入ろうとする俺を再び呼び止める声があった。


 見れば昨日声を掛けてきた男が遠くで手を振っている。


「今日は一緒に聞こうかな」


 との事なので、ムア、ラグニィとリーチェも立ち止まり歩いてくる男を待つ。


 今日は他にもゴツイ男1人と、中年の女が一緒にいるようだ。


 ようやく俺達の前にやって来た3人から感じられるのは恐怖だ。


 なんのつもりで来たかはさておき、まずは先手を打ってみますか。


「昨日聞いた共益費なら、今すぐ払えるよ」


「そうか、早速の対応助かるよ。

 それでなんだが…」


 男が脇に退くと、代わりに口を開いたのは中年の女であった。


「『レノロアーラ商会』の『フォリマ』さ」


「どうも。 タキだよ」


 「で、要件は?」と沈黙で促す。


「この館の主人に挨拶させてもらいたい。

 一応この辺りはウチらのシマになっていてね。

 今後の揉め事を防ぐ為にも、少し話しておきたいのさ」


 ふむ、お偉いさんかな?


 これは結構丁寧な対応をしてもらったと考えていいだろう。


 ただなぁ……この館にあんたが想像してるようなお偉いさんはおらんのよ。


 でもここで俺が主だ〜って言ったら、それはそれで拗れるだろうし……。


「はい」


「ん? なんだいこれは」


 不意にムアがフォリマに渡したのは、ホオズキライチであった。


「これベルヒに渡して。

 遊びに来てって伝えて」


 ベルヒの名前を聞いてようやく思い出す。


 そういえば彼女が頼った先はレノロアーラ商会のフォリマの元であったと。


「確かに、それが1番手っ取り早いかもね。

 使いっ走りみたいな事させて悪いけど、ベルヒから話聞けばすぐ分かると思う。

 どこまで話を広げるかはあんたらに任せるけど、まぁこんな場所にいるって事で察して欲しい」


「おい、話を勝手に進め…っ!」


 僅かに瘴気を漂わせると、フォリマは護衛共々身を震わせる。


「2度は言わない。

 わざわざ出向いてくれたそちらの誠意に、最前の結果に繋がるようにこちらからの配慮だよ」


「………いいだろう」


 フォリマは俺を疑わしげに睨むと、背を向けて去って行った。


「良かったんです?

  レノロアーラ商会って結構規模大きいですけど」


「だからこそ、護衛っぽい2人がいる状況で話すのははばかられてね。

 そもそも口頭で言った所で信じてもらえるとは思ってないからさ」


「ベルヒさんの話はムアちゃんから聞いてるけど……その、大丈夫?」


 不安気に聞くリーチェに、ムアが確信を持って頷く。


「ベルヒなら大丈夫」


「特別義理人情に硬いって印象は無いけど、売った恩はある程度覚えていてくれるはず。

 フォリマに話す時に、他の人には漏れないような配慮はしてくれると思うよ」


「ムアちゃんが言うなら間違いないですね」


 あれ、俺結構頑張って説明したけど。


 ようやく『悪夢の巣窟』に帰ると、睡眠欲がどっと溢れてきた。


 こればっかりは、人間の体に刻み込まれた本能なのだろう。


 今の俺達なら抗う事も出来るが、身を委ねるのが1番幸せなのは知っている。


 だがその前に……


「はぁ、お風呂入りたいですね」


「私も。 どこに作る?」


 もう作るのは決定のようだ。


「そうねぇ……地下とかどうよ」


『地下?』


 イマイチピンと来ていないようなので、細かい水粒で模型を作り説明する。


 今更ながら、魔法とは便利だ。


 言葉が苦手でもイメージさえ浮かんでいれば、簡単に立体図形が作れるのがありがたい。


 念の為入口の反対側の通路に地下への階段を作り、ちょうど中庭の真下に大きな空間を広げる。


 説明しながら作った地下空間は、簡素で味気無いものであった。


 暗くただただひんやりした空間か広がっているだけだ。


 しかしそこへ、中庭の床をぶち抜いて月光を取り入れれば、中々雰囲気が出る。


「……こんなもん?」


 だが、妥協しないのが女性陣であった。


 室内は森を模したように壁は木の幹、天井の土は緑葉で覆い隠される。


 天井には魔法でマジックミラーのような覗き対策を施し、更にはその上に川まで敷いてみせる大工事を施したのだ。


 多分日付跨いでるだろうなーって頃に完成したのは、木々に囲まれた岩の湯船が、水面に揺れる月光に照らされた幻想的な空間であった。


 言われるがままに固有能力を使っていたが、スゲーと思わざるを得ない。


 湯を集める魔道具は、俺の魔石からリーチェがサクッと作ってくれたおかげで、今もこんこんとお湯が注がれている。


「……まだしばらくかかりそうですね」


 結構広めの岩湯船にしたせいで、お湯を注ぎ始めて30分近く経つが、くるぶし程度しか溜まっていない。


 この調子ではまだ2時間近くはかかるだろう。


「排水だけ作っとこうかな。

 王都って下水ってあったよね?」


「あるはずですけど、しっかり蓋しとかないと虫やネズミが上がってきますよ」


「おっけいおっけい」


 との事なので、地球で見た事あるN字の排水路をパイプ状の根で繋げ、至る所に殺虫植物の粉を撒き散らして無数の網目で塞ぐ。


 これで虫が逆流してくる事も、悪臭が上がってくる事も無いだろう。


「……そういやギニンにも下水ってあるの?」


「ありますよ。

 下水道掃除の依頼がありますからね。

 私はやりませんけど」


「率先してやりたい仕事では無いわな」


 今度ギニンに行った時に、赤脈の花畑の排水をこっそりいじらせて貰うとしよう。


 近隣の井戸に被害出て無いといいなぁ。


「……ん?」


 チョロチョロ補充では今日中に風呂に入れないと思ったのだろう。


 リーチェが煙管からくゆらせた触媒を散らし、風呂桶に大雨を降らせた。


「様になってますね」


 ラグニィの言葉に、黙って頷く。


 煙管を指に引っ掛けるように持ち、妖艶な雰囲気を醸し出していたルマネアとは対照的に、小さな手で指に絡めて持つリーチェはどこかあどけない印象を受ける。


 だが未熟さを感じるかと言えばそんな事は無く、ほか事を考える横顔からは無邪気さと知性が両立しているように感じられた。


 色々理屈を捏ねてみたが、思う事は1つ。


 儚く繊細で美しい横顔だ。


「……」


 視界の端で盗み見るラグニィの表情は、髪に隠れて分からない。


 だが固有能力に悲しさと寂しさ、そして滲み出た嫉妬が触れていた。


「わっ!?

 どうしました?」


 突然抱き上げた俺の腕の中でラグニィがもがく。


 それでも容赦なく包み込んで抱きしめると、血色の良くなった顔を正面から見つめた。


「うん、可愛い。

 こんな色んなタイプの美人に囲まれるなんて、俺は幸せ者だな」


「そんな都合の……」


 言い返そうとしたラグニィだが、固有能力のせいで嘘じゃないと分かってしまい、何も言い返せなくなり顔を背ける。


 不貞腐れた態度で照れ隠しをするラグニィをしばらくウリウリしていると、1階に行っていたムアが降りてきた。


 大きな深い皿に、お焼きのようなお菓子やポテチなど、摘める物が盛り付けられている。


 どうやら湯船に浮かべて、入浴しながら食べるつもりらしい。


 地球でもやった事の無い贅沢である。


「飲み物作って。 お茶と果物混ぜたやつ」


「はいよ」


 美食では飽き足らず、飲み物にまでこだわり始めたラグニィの注文は細かい。


 あらかじめ沸かし、冷やしてあったお茶にルレックとツダのミツを割合を測って注ぎ混ぜる。


 最後にシナモンに似た香辛料を表面に浮かべれば完成だ。


「……なんか凄く高級そうなもの作ってません?」


「薄々感じてはいるけど、美味しいからヨシ」


「飲んで」


 未知の美味しさに浸る2人を満足気に見ていたラグニィだが、3人分しか無いコップに首を傾げた。


「足りない」


「一緒に入らないよ?」


「何で?」


 何でってそりゃ……


 コップに口をつけながら息を潜めるリーチェとラグニィがいますので……


「ほら、男女別にした方がいいかなと」


「でもそれは他人の話。

 リーチェともラグニィともするなら一緒に入っても問題無い」


「いやー絶対俺が興奮しちゃうから、くつろぐ所じゃ無くなっちゃうし」


「ならその時すればいい」


 留まることを知らない暴走機関車かな?


「で、でもさムアちゃん。 もし、そう言う事したら……湯船汚れちゃうよ?」


「それに、こんな所でしたら風邪引いちゃいますよ?」


「洗えばいい。 それにリーチェもラグニィも、今は強いから風邪引かない」


 助け舟を容赦無くぶった斬るムアは、ただ純粋に俺と一緒にお風呂に入りたいだけなのだろう。


 俺だってそうだし、リーチェとラグニィの一糸まとわぬ姿を拝めるなら願っても無い。


 だが俺が興奮してしまったとしよう、その時に『誰を見て興奮したのか』なんて事を考えさせたく無いのだ。


 考え過ぎかもしれないが、それでも不安にさせるような事は、この関係性だからこそ人より何十倍も注意しなければならない。


「もしするにしても、リーチェもラグニィも初めてだし、その時間はゆっくり大事にしたいからやめとこうや。 ね?」


 俺の言葉にリーチェとラグニィも頷いてくれたようで一安心。


 それにムア自身もこの理由には納得してくれたらしい。


「だから水入らず3人で…」


「これなら興奮しない?」


 だがムアはめげない。


 霧で全身を包むと、得意の早着替えをして現れる。


「っ……!」


 その姿に思わず息を飲む。


 スポーツブラとでも言うのだろうか。


 体の局所を隠した、正しく下着姿の不意打ちに、思わずクラっと来てしまう。


 ゴリッと削られ限りある理性で、平静を装う。


「あー………その服って、この前リーチェとラグニィが作ってくれたやつだっけ?」


 確か俺が作った下着だとちゃんと支えられていないとか言われて、綿のような素材だけ渡した奴だ。


 まさか完成系がこんな事になっているとは……


「そう。 凄く着心地が良い。

 2人も着てる」


「………」


 抑えてももうどうしようもなく、頭の中ではリーチェとラグニィがこの下着を着けているのを想像してしまい……。


「あ……」


 ラグニィが真っ先に気付いたのは視線の高さが近かったか、それとも……


「だめ、それはそれでエロいから諦めてください」


「えー」


 3人を残し、俺は1階に逃げるのであった。

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