蘇生するF-15A
そしてしばらくすると元帥たちの乗る輸送機はアメリカ州の空港に着陸し、空港から車でしばらく走るとある街にたどり着いた。そして大和たち三人がたどり着いたのは、なんか傾いた家だった。古くて傾いたのではなく、デザイン的にそう設計されているだけのようだ。ドアをノックすると女性が出てきた。髪にはパーマがかけてあって小さな眼鏡をかけた女の子。どうやら話が通してあるようで、元帥たちを見た女性は笑顔で迎えてくれた。
「話は政府から聞いているざます。入るざます」
三人は家の中に入るが、やはり傾いているのは外見のみで中身は傾いておらず、床や天井は水平になっている。
「紹介するわね。この人はEP-3E電子偵察機さん。簡単にいえば敵のレーダーなどを偵察する兵器……の魂」
大和はそう言って紹介するとEP-3Eは「初めましてざんす」と挨拶する。
「そしてこの男の子が人間と兵器のハイブリット……と思う元帥君。それと電子戦機のEC-1です」
「そうざますか、これからよろしくざんす。では椅子に座るざんす」
一同が椅子に着席するとEP-3Eは部屋から出ていき、しばらくすると再度戻ってくる。
「さ、自家製バイオ燃料ざます。あなたたちが来るから特別に仕込んでおいたざます」
大和たちは礼を言ったのち眼を輝かせて受け取り喉を鳴らして飲んでいく。
「君はこれを飲むざます」
そう言ってEP-3Eが元帥に差し出したのはホットココアだった。
「ありがとうございます」
元帥はそう言って受け取るとちびちび飲み始める。
そして大和が話を切り出す。
「EP-3Eさん……って長いわね。アリエスさんでいいですか?」
「ええ、いいざますよ。ミス大和」
「早速本題ですが、あなたは確かリアル世界で何らかの事情があって、一度『死んだ』んですよね。しかしリアル世界に蘇生。その辺についてお話を聞かせていただけませんか?」
「ええ。リアル世界の二〇〇一年の海南島事件は知っているざますわね。私EP-3Eと中国軍戦闘機が空中衝突した事件。その後私は中国に不時着したざます。そして機体は米国に返還されることになったざますけど、飛行できない状態だったので輸送機に積むことになり、そのためバラバラに分解されたざます」
「その時『死んだ』と判定された」
「そうざます。でも、その後輸送機で米国に運ばれて機体は再生されて再度任務にあたった。そして『御神慮』に生き返ったと判定されて、蘇生した。そして時間は流れてEP-3Eは機体寿命と性能寿命を全うし退役、再度この異世界に転生した。というわけざます」
「なるほど」
「そしてあなたたちは、それを再現したいというざますね? だから一度この異世界に転生し、リアル世界に蘇生し、再度この異世界に転生した私に、リアル世界に蘇生する方法を教えてほしいと?」
大和は短く「そうです」とだけ答えた。
「しかし、そんな方法を私は知らないざます」
「そこで電子偵察機のあなたに白羽の矢が立ったという訳です。普通の兵器ではない、あなたに……」
「まさか……」
「あなたのログ、すなわち記憶には、リアル世界に蘇生したときの記憶が残っているはずですよね」
「それは……」
「あなたが蘇生するとき、あなたに何らかの変化が起きた。もし神がいるとしたら、あなたを蘇生させる時、あなたに何らかの細工を施したはずです。その蘇生データを教えてほしいんです」
「その蘇生データをリアル世界に戻したい兵器の魂に入力すれば、その兵器の魂は蘇生できるざますか?」
「はい」
「……これはアメリカ州政府でも最高機密……まあ結論から言えば、あなたたちに開示していいと通達が来ているざますが……一つ問題があるざます。蘇生するにはリアル世界での肉体となる兵器そのものが現存している必要があるざます」
「それについてはアメリカ州政府に一つ要請しています」
「あと仮に一度蘇生できたとしても、再度この異世界に転生できるアテがないざます」
「要するに一方通行の可能性が高いということかな?」
元帥はそう言って大和とアリエスの会話に口をはさんだ。
「ミスター元帥、鋭いざますね。自己破壊で転生できる可能性はあるざんすけど、肉体を破壊したら再度リアル世界に戻れないざます。だから異世界とリアル世界を頻繁に行き来するためには、リアル世界で肉体が保存されている大量の兵器の魂が必要ざんすね。ただそれは私たちの目論見に参画する魂を増やすことになり……」
「機密保護上好ましくない?」
「そうざんす、ミス大和」
「それについては手が打ってあります」
大和がそう言うと、兵器の魂が一人入室してきた。結構背の高い兵器の魂で、いうまでもなく女の子で胸も結構デカい。顔は明らかにエリートのような整った顔だちだ。服装はパイロットスーツを着用している。
「アメリカ州政府に依頼しておいたF-15A戦闘機です」
「なるほど、その手があったざますか。大量生産されて退役したのちも、機体が大量にモスボール保存(再使用を考慮した保存)されているF-15Aなら、際限なくこの異世界とリアル世界を行き来できるざますね。いいざます。リアル世界に戻るとき、私が受けたデータをお教えするざます。ただ……」
「ただ? まだなにかあるんですか?」
「この異世界はそんな単純なものじゃないことは、あなたもご存じのはずざんすよ。私の蘇生データを移植したところで蘇生できる確証はないざんす」
「確かにそうですが、タイフーンが双頭の鷲計画を立てている以上、蘇生することは計画の要になるはず。ただのはったりでもないでしょうから、何らかのリアル世界に戻る手段があるはずです。もし……」
「あなたの考えたこの方法で蘇生できなかった場合はどうするざんすか?」
「他を当ってみます。うまくいくまで」
「そ、押し問答をしていても仕方ないから、話しを進めるざます」
アリエスはそう言うと部屋から出ていく。
「あれ、大和さん。アリエスさん出て行ったよ。なんかこう凄い装置かなんかで記憶移植でもするのかなと思っていたんだけど……」
「元帥君もそろそろこの異世界に慣れないといけないわね。私たちのおうちも古めかしい御殿だったわよね。この異世界はそんな機械機械した世界じゃないわよ」
元帥は「へえ」と言いつつ、ココアをスプーンでかき混ぜる。
「ところで、このココア結構おいしいよね」
「兵器は人間が生み出したもの。この異世界も人間になじみやすい世界なの。だからリアル世界と同じものがちゃんと存在する。それは食材も例外なく、ね」
「お待たせしたざます」
そう言って再度現れたのはアリエスだ。手には古い日記帳のようなものを抱えている。
元帥は意味が理解できたらしく「あれか……」と短く言った。
アリエスは日記帳を机の上に置くと、積もっていた埃を息で飛ばし、ページをめくり始める。
「ね、大和さん。でも一度この異世界に転生してリアル世界に蘇生して再度転生してきた兵器の魂はほかにもいるんじゃ? なんでアリエスさんなの?」
「元帥君、それは彼女が電子偵察機ということが味噌なの。普通の兵器は大量のログを保存できない。すなわちリアル世界に戻るときに受けた蘇生データを保存しておけるほどの、大容量の記憶装置があることが必要なの。それは偵察したデジタル情報を蓄えておける電子偵察機が持って来いなの」
「なるほど」
するとアリエスが「あったわ」と大きな声で発する。そして日記帳を大和に見える位置に持ってきて指す。
「これですか……」
そこにはソフトウェアのプログラムのように大量の文字が羅列されていた。
「んじゃ早速始めるわね。F-15A、いいわね?」
F-15は直立不動で「イエスマム」と敬礼した。
「んじゃ、この蘇生データを読み込むざます」
アリエスがそう言うと、F-15Aは日記帳を手に取って読み上げていく。しかしかなり長い時間が掛かった。なにしろ兵器の魂をリアル世界に戻す大容量データを移植しないといけないのだから。
そして三十分ほどしてようやくすべてのデータを読み込み終える。一同はかたずをのんでF-15Aの様子を凝視する。
「……」
しばらく一同は沈黙するが、何も起きない。口を開いたのは元帥だ。
「あれ、何も起きないじゃん。てっきり僕は雷鳴がとどろき、黒い雲が立ち込め、強風が吹き抜ける、すごいシーンを想像していたんだけどなぁ」
「F-15A。何か体に変化はない?」
「いえ、なにもありません。大和姉さん」
アリエスは「はあ」とため息をついて背もたれにもたれる。
「大和、あなたの目論見は外れたざんすね」
「いえ、これも計算の内です」
大和はそう言って拳を口に当てた。
「では、まだ奥の手があるざんすか?」
「はい。おそらく、御神慮がアリエスさんをリアル世界に戻す時に、アリエスさんに蘇生データを送ったのは間違いありません。しかしそれだけではリアル世界には戻れないようです」
それを聞いた元帥は「ということは?」と言った。
「おそらく御神慮側にも何か変化があったということです。アリエスさんと御神慮の双方でデータがやり取りされた、すなわちアリエスさんからも御神慮に向けてデータが送信されたはずです。それも教えていただけないでしょうか?」
「ええ、いいざますわよ。それはこれざます」
アリエスはそう言うと、日記帳を何ページかめくり指した。
「これが私から御神慮に送られたデータ……と言っても私は意識的に送信したのではないざます。データ自体も私は知らないざますよ」
「それで結構です。あとはこちらで対処します。EC-1こっちに来て」
大和がそう言うと今までずっと後ろで控えていた、大柄なEC-1がやってきた。
「大和姉、なんですか?」
「アリエスさんから御神慮に送信されたデータを、ジャミングと同じ要領で御神慮に送信できないかしら?」
「それは出来ますが、ただこちらがデータを一方的に送り付ける、いわば言いたいことを言っても御神慮が耳を貸す保証がありませんよ」
「そうよね。だったら……こちらからアリエスさんから送信されたデータで、御神慮に変化を促すのではなく……蘇生に際しては御神慮側のデータにも何らかの変化があったはず。それを送信したデータから逆算できないかしら。その逆算データを御神慮に植え付ければ……」
「すなわち相手が聞く耳を持たない以上、質問して答えを待つのではなく、答えそのものを相手に植え付けてしまうと。少し待ってくださいよ……」
そしてEC-1は日記帳をペらペらと読み始める。
「はい、ある程度は逆算できます。ただこんなことは初めてなので実際にやって希望に添えるかは保証できかねますが……」
「それで結構」
「して送信先は?」
「送信先のアドレスは日記帳に載っているわ、見て」
元帥は日記帳をのぞき込むが、それはインターネットのアドレスや、リアル世界の住所とは異なり、空間座標のようなものだった。
「うーんこのアドレスは少し遠いですね。私のジャミング出力的に届く可能性は低いです」
「それも手を打ってあるわ」
元帥は少しうなだれて「大和さんって頭が切れるよねえ」と言った。
「そうよ。ジャミングを御神慮に届くようにするには、簡単に言えば出力を上げるしかない。それには電力が必要」
「すわ、ヤシマ作戦だね」
「そ、元帥君。で、大統領には既に話をつけてあるし、私も手を打ってある。アメリカ州と日本街の全兵器の魂が発電した電力を徴用するわ。EC-1それなら行けるわよね」
「それなら行けます」
「では各員作戦開始」
そして面々は作業を開始する。F-15Aは再度日記帳の蘇生プログラムを読み込み始め、EC-1は御神慮へのジャミングの準備をする。
30分後、F-15Aは蘇生プログラムの詠唱が終わりに近づき、EC-1がジャミングデータの詠唱を開始する。するとF-15Aのその体が光を放ち始めた。
「これはっ?」
F-15Aは戸惑いつつそう叫ぶ。
「F-15A、蘇生データの詠唱を止めないでっ。あなたはリアル世界に蘇生するの。そしてリアル世界とこの異世界の両世界を救うの。その大役があなたに課された。それは兵器の魂である私たちにとって最高の栄誉。立派に任務を達成して帰って来るのよ」
大和はそう言ってF-15Aを強く抱きしめる。F-15Aは詠唱を続ける。しかしその頬には一筋の涙がこぼれた。嬉しいのか、悲しいのかは分からない。この異世界に別れを告げるのでもない、ただこの異世界とリアル世界を行き来するだけなのだが、なにが彼女を泣かせるのか。世界を守るという、その身に余る栄誉を喜んでいるのか?
そしてF-15Aの体が放つ光は強くなっていった。人間の元帥にはもう直視できない。部屋は真っ白な光で満ちていく。
F-15Aが蘇生データの詠唱を終えた。その瞬間、光は最高潮に達し、すぐさま霧のようになって散って行った。
そう、彼女は「蘇生」した。




