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タイフーンの拷問

 何か聞こえる。水が一滴、また一滴と滴り落ちる音だ。

 何か感じる。湿った冷たい空気だ。

 何かが触れている。冷たい鉄でできた手錠だ。

 何か味がする。血の味だ。

 何か痛い、体中が痛い。


 元帥は気が付く。そこは壁も床も天井も石でできた地下室だった。元帥は壁に手錠と足かせで拘束されている。ロシア兵器たちに何度も殴られたのか、体中は傷だらけで気を失っていた。もちろん傷は勝手に治っていくが、痛みを味わった恐怖が薄れることは無い。

 もしかして兵器形態に転換できれば……。しかしなぜか兵器形態に転換できない。というより、ロケット推進の燃料が無いから、兵器形態に転換してもどうしようもない。

「ようやく気が付いたようだな」

 元帥にそう言ったのは、椅子に座ってこちらに向いている人物だ。相変わらず冷徹そうな顔と雰囲気の人物。

「君は……タイフーン。そうかアメリカ軍の追撃を振り切ってロシア県に逃げおおせたのか……」

「そうだ。お前は私が搭載するR-39核ミサイルだ。アメリカ州国境近くから私を乗せて発射され、ここロシア県都ウリヤノフスクまで飛んできたのだ」

「ウリヤノフスク……?」

 するとタイフーンは椅子から立ち上がり、隣の机にあった瓶を開ける。アルコールの強烈な臭いが立つが、兵器の魂は酒を飲まない。おそらく兵器の冷却用アルコールなのだろう。それをグラスについで椅子に座る。

「旧ソ連の未成空母の艦名だ。まあ、そんなことはどうでもいい。いよいよ私の進めてきた、双頭の鷲計画を完遂するぞ。お前を使ってな」

「僕を……使ってとは?」

「お前はいま意識がもうろうとしているはずだ。だから私が直々に双頭の鷲計画を説明してやろう」

 タイフーンはそう言ったが、元帥は意識がもうろうとしており「ぐっ、うぐっ」と言って口から血を吐く。かなりひどい拷問を受けたようだ。

「いろいろと種明かしをしてやる。私の双頭の鷲計画。それは私がこの異世界とリアル世界の両世界の統治者になる計画だ」

「それは聞いているよ」

 タイフーンは立ち上がって暖炉の薪に火をつける。この異世界の地球は、地図以外はリアル世界の地球を模してあるので、リアル世界のロシアと同様に極寒の地域もあり、ロシアの兵器たちもこの地をロシア県として住処と定めたのだろう。そして火ばさみで薪をつくと、火花が散る。しかしこの暖炉、長年使われていないようで火が弱い。

「まあ聞け、リアル世界では、私が蘇生してタイフーン級戦略原潜(核ミサイル搭載潜水艦)を使い、核攻撃をちらつかせて各国政府を恫喝することによって、ある種の統治をおこなう。一方……」

「そしてデモンストレーションも兼ねて、リアル世界のロシアの兵器見本市を核攻撃し、ロシア製最新鋭兵器を殺して、その魂をこの異世界に転生させる。そしてロシア製最新鋭兵器の魂が持つ軍事力で、この異世界を統治するんだよね」

「そうだ元帥。ただお前たちはあることに疑問を持った。私が両世界を統べるには両世界に同時に私が存在しないといけない。しかし、人間がこの世とあの世に同時に存在できないように、兵器の魂である私もリアル世界と異世界に同時に存在できない。そして……」

「最新鋭兵器はこの異世界には転生できない……」

「そう、これまでの統計データで、この異世界に転生してきた兵器は退役したり事故にあったり撃破された兵器ばかりで、例外を除いて最新鋭兵器は存在しない」

「例外である僕が転生した時と同じ手はお前たちには使えない。……でも何か手があるんだよね」

 タイフーンはそう言うと脇にあった薪を暖炉にさらにくべる。そして先ほどのグラスを傾ける。

「……もちろんそうだ。そうでないと私の計画は完遂できないからな」

「……しかし、僕たちは最新鋭兵器がこの異世界に来る方法を色々と試してみたけど、すべて失敗に終わった。旧式兵器を改良した兵器ですら、この異世界には転生できなかったよ」

「それは知っている。お前たちの行動はすべて把握済みだ。そしてお前たちは兵器がこの異世界に転生できる、できないには、恣意的な法則いわば『御神慮』が作用していると言っていたな。しかしそうではないのだよ」

 元帥は驚いたようで顔を上げ「えっ、なにっ?」と言った。

 タイフーンは持っていたグラスに入っていたアルコールを暖炉に撒いた。アルコールにより、火勢は一気に強くなって、暖炉の光は一層輝きを増す。

「お前たちはこの異世界に兵器が転生できる、できないの基準が、死んだときの兵器の年齢だと思っていたらしいな。しかし、そうではなかったのだよ。ズバリ言おう、その基準は兵器の魂の容量だ」

「魂の容量? 何それ?」

「簡単に言えば……というか人間的に言うのなら思い出だな。兵器で言うのなら運用されていた記録だ。それが長いほど思い出が多くなり魂の容量が大きくなる。すなわちこの異世界に転生しやすくなる」

「確かに一理あるかも。それならこの異世界に転生できる、できないが説明がつくよね」

「ようするに人間も兵器も生きた年数で思い出が蓄積し、魂に軽重が生じる。そして魂が肉体全体に宿るのは人間も兵器もおなじだ」

「ということは旧式兵器の改良が没になったのは、魂の容量が少ない最新の機材を多数搭載したことにより、魂の容量が少なくなったため、この異世界に転生できなくなったの?」

「そういう事だ。ということは、ロシア製最新鋭兵器をこの異世界に転生させるには、それらの魂の容量を増やせばいいことになる」

「……しかし、それは簡単にはいかないよね。まさか時間が外界より早く進む特異点で思い出を蓄積させるわけでもないし」

「それはあとで説明してやる。そしてもう一つの疑問、私がどうやってリアル世界とこの異世界に同時に存在するか? だが……」

 事の真相に迫れる。それを知った元帥は生唾を飲む。そしてタイフーンは勿体をつけるかのように、火ばさみで暖炉の薪をつつき、ゆっくりと語り始める。

「それはさっきも言った、魂は肉体全体に宿るということが関係している」

「魂が肉体全体に宿る、が関係?」

「お前たちがワリヤーグ港を襲撃して65-76魚雷を確保したことは突き止めている。それで私が蘇生して、リアル世界のタイフーン級に憑依した時、65-76魚雷も蘇生させて爆発する欠陥を発動させるらしいな。それで双頭の鷲計画の要であるタイフーン級を破壊することにより、計画を頓挫させるという」

 そしてタイフーンの話は続いていく。

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