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オーロラの下の空中戦

 数日後、東欧のロシアADIZ(防空識別圏)付近、深夜。極地が近いだけあってオーロラが見える。

「んじゃ行きますか」

 ドイツの基地で給油を終えたF-15Aは離陸、東欧を経由してロシア領空に侵入した。

「んじゃまず、侵攻作戦の基本である低空飛行で行きますか」

 F-15Aがそう言ったように、レーダーに探知されにくい最新鋭のステルス機ならいざ知らず、旧世代機の戦闘機は敵地に侵攻する際は低空を飛ぶ。なぜなら地球が丸いため、地上のレーダーは地平線より下は探知できず、地形の影も探知できないからだ。なので低空を飛ぶとより探知される距離が短くなる。

 もちろんロシアにも探知されるとまずいが、西側各国にもバレたら阻止される可能性があるので、離陸して即低空飛行だ。

 しかし低空飛行は地形と衝突する可能性が高いので危険なミッションだ。まあそれは反応の遅い人間の場合で、機械の兵器は俊敏に操縦できるのでさほど問題ではない。なので人間の操縦よりさらに低空を飛行することが可能だ。

 また大気の濃い低空を飛行すると当然、空気抵抗が増大するので、燃費は悪くなり速度も出せない。

「しかしロシアって、どこまでも雪の平原なんですね……」

 真っ白な地面、空には満月。どこか神秘的な景色でもある。人家も少ないので光害もなく星空がとてつもなく綺麗だ。

 ちなみにすでに米軍の戦闘機の魂、複数人が蘇生して実機でロシア各所に侵入している手はずになっている。そしてF-15Aの目標は北極圏アラクルティ基地。

 しかし極地の深夜を飛行するのは孤独だ。耳に入るのはエンジンの音と機体が切る風の音のみだ。目には……と言ってもF-15Aの目はガンカメラを赤外線カメラに換装した物しかないが、雪原と、月と星が映える夜空しかない。限りなく美しいが寂しくもある。

「元帥君なら泣き出しそうですね」

 F-15Aはそう呟いた。

 しかも向かっているのは戦場だ。元帥なら堪えるだろう。もちろんF-15Aは兵器なのでそんな感情は少ないが、やはり魂があるだけあって無感情という訳にはいかないようだ。そしてF-15Aは燃料タンクの残量に気を配りつつ、飛行する。と言っても特攻覚悟なので帰投分の燃料は最初から念頭にない。


 そして数十分飛行して、目標アラクルティ基地を視界に捉える。が、その瞬間レーダー警報受信機が鳴り出す。すなわちレーダーに探知されたのだ。いくら低空飛行でもレーダーに近づけば最終的には地平線より上を飛行せざるを得ず探知されてしまう。

 すぐさまアラクルティ基地から戦闘機がスクランブル発進してくる。

 そこでF-15Aは先手を取る。2つの外部燃料タンクを投棄、マッハ1を超える超音速巡航で基地に向かった。地上のレーダーの低空に対する探知距離はだいたい30キロメートルと言われる。マッハ1は秒速330メートル、30キロメートルを飛行するのに90秒ほど、スクランブル発進は5分が最短なので余裕でF-15Aは基地上空に達した。

 そして対空砲火の歓迎を受けつつ、滑走路上空に侵入。滑走路中心に爆弾を投下、これで基地は戦闘機を発進させることはできない。人命を奪わずに第一目標を達成した。

 次の目標は言うまでもなくSu-24MPだ。F-15Aが目を凝らして基地を見ると、塩梅よくエプロン(駐機場)に露天駐機されている。

「ラッキー、これでミッションコンプリートですね」

 が、そうは問屋が卸さなかった。急にミサイル警報装置が鳴り出す。F-15Aに敵の対空ミサイルが接近しているのだ。

「そんなの当たりませんよっ」

 F-15Aはそう言って十八番の12Gの急旋回で振り切る。Gとは重力加速度、すなわち旋回時の遠心力のことで、12Gとは実に地上の12倍の重力がF-15にかかることになる。もちろん無人で使い捨ての機体であるF-15Aの十八番だ。

 そしてミサイルを発射してきた背後を見遣ると、緑色の迷彩が施されたスマートで美しい形状の機体がいた。

「これはSu-34……いえ、Su-27IBPですね」

 ここで少し難しい説明をすると、ロシアのSu-27はアメリカのF-15に対抗して開発された戦闘機だ。それのコクピットを横並びの2席にしたのがSu-34で、Su-27IBPはそれを電子戦機に改造したものだ。形状はほぼ共通だが、ジャミング(妨害電波)用のアンテナが多いことが相違点だ。

「これは意外に当たりを引いたんじゃないですか。真のお目当てであるSu-27IBPと出会えたということは」

 F-15Aがそう言ったように、このSu-27IBPさえ撃墜できればミッションコンプリートだ。F-15Aは気合を入れ直す。

「絶対に撃墜してみせます」

 F-15Aはそう言うとまずお荷物の爆弾を投棄する。どうせSu-27IBPを撃墜すればSu-24MPを破壊する爆弾は不要だからだ。そして毎度同じく12Gの急旋回で、ドッグファイト(近距離の空中戦)のセオリーであるSu-27IBPの背後に回って機関砲を発射する。

「こうすれば、Su-27IBPは……」

 F-15Aがそう言ったように、背後を取られたSu-27IBPは進行方向は変えず、機体のみ垂直に立てて急減速する。

「やっぱりコブラを使ってきますよね」

 そう、それはコブラ機動でSu-27系戦闘機の十八番だ。そしてF-15Aは急減速したSu-27IBPを追い越してしまう。そして再度背後を取られる。

 ちなみにSu-27IBPがコブラで急減速する際、空中にほぼ静止するので機関砲の格好の的なので、これを撃つと撃墜はできるが、減速するSu-27IBPに急接近するので飛散した残骸の中に飛び込むことになるので危険だ。

 そこでF-15Aは奥の手をとる。急旋回、それもなんと驚異の15Gの旋回をした。これにはSu-27IBPのパイロットも目をむいただろう。F-15Aの機体は軋み音をあげ、超高Gに悲鳴を上げる。それはF-15Aの魂にとっても苦しいものだった。

「でもこれ以上、手は打てませんね」

 たしかに15Gで急旋回し、減速して鈍くなったSu-27IBPに低速で接近すれば機関砲攻撃もできるが、Su-27IBPは加速をして逃げてしまう。追いかけて再度コブラを使われるとまた同じことを繰り返すことになる。

 しかしF-15Aにはある思惑があった。Su-27IBPはコブラで急減速すると、前述のとおり、その後的にならないよう加速しないといけない。そこで燃料を食うのだ。

「そろそろ頃合いですかね」

 F-15Aがそう言ったように、最初に音を上げたのはSu-27IBPで、燃料が残り少なくなったようだ。尻尾を撒いて逃げようとするが、それをするとF-15Aに背後を取られて機関砲攻撃を浴びる。だからと言ってコブラを使えば再加速に燃料が食われるので使えない。

 そこでF-15Aはその隙をついて背後を取り「ガンズ」と機関砲発射の符丁を発する。

 が、その時ある言葉が脳裏をよぎった。

 ――人を決して殺さないようにね――

 その発言の主は大和。リアル世界に蘇生するとき厳命された。

 F-15Aは慌てて機関砲のトリガーから指を離す。撃墜すればパイロットは脱出するか、機体とともに死ぬしかない。脱出は100パーセントではない。機関砲でパイロットを殺害するかもしれない。

 そもそもパイロットは人間なのか。Su-27IBPのパイロットはロシア兵器の魂の可能性が高いが、本物の人間が乗ってっていることも否定しきれない。赤外線カメラでコクピットを見れば人間の体温で見破れるが、兵器の魂の場合も肉体を加熱できる。しばらくF-15Aは思案する。

「って、あ」

 Su-27IBPはその隙をついて戦域を離脱しようとする。

「あーもう、こうなったら。ドンガラだけでも使えなくしますか」

 そうF-15Aが取ったのは自分と同じ手をSu-27IBPにもさせることだった。すなわち12Gの機動を長時間強いるのだ。そうすれば機体は金属疲労で使いものにならなくなる。

 F-15AはSu-27IBPの背後を取ると機関砲を発射しつつSu-27IBPに圧力をかけて12Gの機動を強いた。向こうのパイロットが人間だった場合、無事では済まないが最悪墜落を避けられればいい。

 そして激戦の末、Su-27IBPはボロボロの機体に疲弊しきったパイロット、ないし兵器の魂を乗せて去っていった。もうSu-27IBPは使い物になるまい。

「んじゃ本題に戻りますか」

 そう当初の目標であるSu-24MPを破壊すればドンガラはなくなる。Su-27IBPを破壊できなかった以上、そのあんこは残るのでドンガラを潰さなければならない。ただF-15Aは肝心の事を忘れていた。

「ってあー、爆弾を投棄したんでしたあ」

 そして地上を見遣るとSu-24MPは3機残っていた。機関砲はSu-27IBPとの戦闘で残弾ゼロ。特攻するにしても間隔をあけて配置されたSu-24MPは一機では破壊できない。

「こうなったら奥の手しかありませんね」

 F-15Aはそう言うと、地上のSu-24MPに向かって急降下する。そして言った。

「エンジンパージ」

 F-15Aの符丁とともに機体後部のエンジンと機体の接合部に仕掛けられた爆薬に点火され、エンジンが投棄され地上めがけて落ちていく。

「デビスモンサンのおじいさんのアイデアですね」

 そう、投棄されたエンジンでSu-24MPを破壊するのだ。それに自機の特攻を加えて3機のSu-24MPを屠った。

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