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帰ってきたF-4EJ

 退室したF-4EJを見送った大和は喜んでいると思いきや少し晴れない顔をしている。

「どうしたの? せっかく作戦がうまくいくかもしれないのになんか顔が暗いけど」

「少し気になることがあるの。F-4EJが改造後にこの異世界に転生できなかったとき、彼女の魂はどこに行ったのか」

「そう言えばそうだよね。確かにリアル世界で彼女は死んだはず、機体を破壊して反応が消えたのだから、この異世界に転生してくるはずだよね」

「それが転生してこなかった。なにか御神慮には裏があるのかもしれないわ」

 疑問を残したまま作戦は進んだ。


 いつものごとくF-15Aとアメリカ戦闘機の魂が計6人、人型の肉体を得てリアル世界に蘇生した。時は夕方、場所は茨城県、航空自衛隊百里基地。ここにF-4EJが展示保存されている。F-15Aたちは全員が背中に直径約30センチ、長さ約1メートル程度の円筒を背負っている。

 F-4EJは正門近くの道路に面したスペースに展示されており、フェンス越しに見える。一般道から丸見えとは言え中に入れば軍事基地、このフェンスは極めて重要な意味を成していた。入れば大事になる。

「んじゃみんな行くわよ」

 F-15Aがそう言うと自衛隊員がいないのを見計らい、夕刻の暗さに紛れてフェンスをジャンプで軽々と乗り越える。もう後戻りはできない。そして面々は意外な行動に出る。自衛隊員と同じ迷彩服に着替え、堂々とF-4EJに工作を始める。

 そこを偶然、自衛隊員が通りかかるが、あまりにも堂々としたF-15Aたちの行動に逆に不信感を抱かなかった。

 F-15AたちはF-4EJをいじり出す。まず肝心なのが脚だ。モスボール保存と違い、再使用を考慮せず展示するだけの展示保存の戦闘機は、すべて脚のタイヤが外され地面に固定されている。人型のF-15A達では改造に必要な部品は持ちきれないので、F-4EJに所望の改造をするには基地外に持ち出さないといけない。だからまず地面の固定を外す必要があるのだ。

 まず固定を解除し、機体をジャッキで少し浮かし、空気を注入したタイヤを装着する。

「みんな進捗状況はどうかしら」

「オーケーです、移動させられます」

 F-15Aはそれを聞くと周囲を見回す。が、偶然通りすがった隊員と目が合ってしまった。

「おい、貴様ら何をしているんだ?」

 その隊員は警戒心に満ちた顔をして通信機で何か話している。ここは正門のすぐ近くでそこに詰めている隊員がすぐに駆け付けた。

「まずいっ。バレるよ」

「こうなったら強行突破でしょ」

 F-15Aはそう言うと目にも止まらぬ速さで隊員を気絶させ無力化する。屈強な自衛隊員も機械で動くF-15Aにはかなわない。が、そこを他の隊員が目撃していた。基地に警報が鳴り響く。

「あーもう、こうなったら仕方無いわね。みんなF-4EJを人力で滑走路まで持っていくわよ」

「ウィルコ(了解)」

 すると面々は素手でF-4EJの機体を押し始める。が、もちろんF-4EJは軽くない。なにも搭載していない現状でも13トンを超える。いくら機械の体のF-15A達でもなかなか動いてくれない。

 しかも展示スペースから滑走路までの最短ルートは道だけでなく芝生もある。そこに脚が食い込みさらに前進が困難になる。

「こうなったら持ち上げるしかないわねっ」

 なんとF-15Aたちは素手でF-4EJの機体を持ち上げた。体力の疲労がない機械の体ならではの方法だ。

 しかしその間に自衛隊員が駆けつける。とくに正門を警備している隊員は実弾を所持しているので小銃で銃撃してくる。銃弾でF-15Aたちの肉体が破壊されていく。

 だが、面々は耐えた。F-4EJを滑走路に置くとF-15Aが「んじゃいくわよっ」と言って、背負っていた例の背中の円筒のカバーを取り払う。それはミサイル用の小型ジェットエンジンだった。稼働していないF-4EJをこれで飛び立たせようというのだ。

 しかし無理ではない。なにも搭載していないF-4EJをただ飛び立たせるだけなら十分だ。

 そして面々は主翼上面にしがみつき、背中のエンジンを最大出力まであげる。

 するとF-4EJは加速を始めた。が、ここでトラブル発生。百里基地に隣接する茨木空港から滑走路に旅客機が進入してきた。そこでもF-15Aは冷静だ。

「誰か2名、機首に移動したのちエンジン噴射を下向きにして」

 それを実行すると、その反動でF-4EJの機首は勢いよく上を向く。そして主翼上面のF-15Aたちは逆にエンジン噴射を上に向ける。すると機体後部は下に降りる。すなわちF-4EJは急上昇した。

 F-4EJは旅客機の上、擦れ擦れを飛んでいった。警備の隊員が銃撃してくる以外は大半の自衛隊員はF-4EJを見送るしかなかった。基地外では基地ウォッチ―が退役しているF-4EJの飛行を見て目を丸くしていた。

 こうしてF-4EJを手に入れ、某所に運んで改造を実施した。


 そして数日後、F-4EJが転生してきた。外見にはほとんど変化がない。ただ元気に満ち溢れていることは確かだ。

「F-4EJ、おかえりなさい」

「大和姉、ただいまっす」

 F-4EJは大和に強く抱きしめられる。それは慰められるものではなく、祝福されるための抱擁だ。

「その顔だと作戦はうまくいったみたいね。早速実力を試させてもらうわ。行きましょ」

 そう言って面々が向かったのは例の対戦フィールドだ。

 F-4EJは滑走路を全速で走って離陸する。そして迫りくる、八機の標的機。

「改良は成功すっね。かなりの遠距離で標的機をコンタクト(探知)。んじゃ撃墜するっすよ。フォックスワン(ミサイル発射の符丁)」

 F-4EJがそう言うとミサイルを模した八発の光エネルギー弾が放たれる。

「いっけえー」

 そのF-4EJの叫び声とともに八発のエネルギー弾は飛翔していく。

その様子はモニターで日本街の面々も見守っている。この一撃が異世界とリアル世界の命運を握っている。

 標的機は回避行動をとり始めた。従来のF-4EJなら回避されて命中しないかもしれない。しかし今のF-4EJには改良で最新の空対空ミサイル(航空機から発射される対空ミサイル)が搭載されている。レーダーも標的機をとらえ続けている。

 次にレーダー画面が真っ白に変わった。EC-1電子戦機によるジャミング(妨害電波)だ。しかしF-4EJのレーダーは物ともしない。すぐに所定の処理を実施してレーダーは復帰する。

 あえて不満があるのなら、エンジンを旧式の物に換装した関係上、機動性に影響が出ていることくらいか。

 そんなことを考えているうちに空対空ミサイルは標的機に命中。作戦は成功に終わった。

 それを見ていた面々は歓声を上げる。日本街は歓喜の声に包まれた。

「これで無事に最終作戦を実施できるわ。大和より日本街全般に達する。日本街の兵器で蘇生可能な者はすべてリアル世界で改良を受けてもらうわ。その後最終作戦、イーグルハントを実行する。以上」

 空は春の近づきを感じさせる青で満ち、山々の雪化粧は解けはじめ、空気は澄んでいた。それは日本街の希望を端的に示しているようだった。

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