作戦会議9
そして数日後、黒書院。年が明けて元帥は火鉢で餅を焼いて食べていた。ちなみに大和は鉛を火鉢で溶かして熱燗みたいに飲んでいた。
「ただ今帰ったっす」と言って入室してきたのはF-4EJだ。
「おかえりっ」
そう言って立ち上がってF-4EJを抱きしめたのは大和だった。
「大和姉。苦しいっすよ」
F-4EJは大和を振りほどこうとするが、大和はやめる気配がない。よほど心配していたようだ。
「とにかく説明するから、離してくださいっす」
「そうよね。話を聞くわ」
そして面々は火鉢の側にきて、それを囲むように座った。
「とりあえずF-15Aの協力で私の機体を改良前に戻して、再度破壊して再転生を試みて成功したってとこっすね」
「そう、それは良かったわ」
「ただ日本の当局に私の顔がバレてしまいました。再度のリアル世界への蘇生は無理っすね。そもそももうF-4EJの機体自体が、あまり現存していませんっすから」
「本当にご苦労だったわ」
「んで大和姉、どうするんすか。作戦は失敗したんすよね」
「そうねえ……今回ばかりはうまくいくと踏んでいたから。最終作戦の前にもう一手打てると思ったんだけど」
「最終作戦はまだ秘密なんすよね」
「そうよ。あまりペラペラ喋ると、どっかから漏れてタイフーンの耳に入ったら一巻の終わりだから。まあ最終作戦が首尾よくいけば、こんな小細工を弄する必要はないけど、抜け目のないタイフーンの事だから保険はかけておいた方がいいわよね」
「その方法がこの異世界における日米の軍事力を増強する事っすか。しかし今までそれに心血を注いできましたけど、うまくいかないっすね」
大和は「どうしたものかしら……」と言って、ボーと元帥を見遣る。
そしてしばらく沈黙の時間が流れる。
大和は「……ってもしかしてっ」と叫んで静寂を破る。
「どうしたんすか大和姉?」
「たしか元帥君はリアル世界で、肉体の51パーセント以上が兵器に置き換わったことにより、元帥君の魂は人間のあの世ではなく、この異世界に転生したのよね?」
「そうだよ、いまさら何を改めて」
「もしかしてF-4EJも51パーセント以上改良を施したことにより、新型機とみなされて魂が転生できなかったんじゃないのかしら?」
「あ……ああ、なるほど。その可能性があるよね」
「さすが大和姉、頭が冴えるっすね」
元帥とF-4EJにも意味が分かったようだ。
「と言ったところで、どうしようもないわよね。どうやらF-4EJのケースを見ると単純に機体部品の割合や重量で決まるわけではないみたい。だから私たちには肉体の51パーセント以上の境目を測ることができないんだから」
「となると、改良点に優先順位をつけて、最小限の改良にとどめる程度しか手はありませんっすね」
「それだと改良しないのと大して結果が変わらないことになるかもしれないのよね」
「でも調べられないわけではないっすよ」
「まあたしかに誰かを生贄にして破壊による転生と、この世からの蘇生を繰り返し続ければ、50パーセントを割り出せないことは無い……」
「まあ、その生贄は単純に考えて手っ取り早く挙げるのなら……」
そして大和とF-4EJが「F-16A」と声をはもらせる。
「F-16Aってなに?」
「元帥君。F-16Aってのは米国で開発された軽量戦闘機で、小型軽量の割に高性能というコストパフォーマンスの高い機体でベストセラーになったの。初期型のF-16AはF-15Aとおなじようにかなりの数がモスボール保存(再使用を考慮した保存)されている。ただ問題は……」
「小型の機体で頑丈でないせいか、彼女の魂は打たれ弱いっすね」
「だからF-15Aのように死ぬ時の激痛を繰り返せるほど心が強くない」
「んじゃ大和さん。F-15Aに生贄になってもらうのは……」
「元帥君。もうすでに彼女にはかなりの負担が掛かっているわ。この上激痛を繰り返す負担を迫りにくいわよね」
「A-10攻撃機なら頑丈ですから転生したい放題なんすけど、彼女はまだこの異世界には転生してきていませんっすしね」
「では他に手があるの?」
「元帥君。ここは不確かな方法を取るしかないわ。それはビッグデータ」
「と言うことは……いままでリアル世界に存在した機体と、この異世界に転生してきた機体を徹底的に調べることにより、どれほど改造すれば転生不可となる51パーセントを超えるのかを突き止められる、と?」
「そういうこと。だからまずF-15Aに蘇生してもらってデータを集めてきてもらうわ」
「それしかないっす」
そして数日後、黒書院で元帥と大和とF-4EJの三人はタブレットパソコンと睨めっこをしていた。
「F-15Aが収集してくれた、このビックデータを見る限り、転生不可となる51パーセント以上の境目はわからないよね」
そう突っ込んだのは元帥だ。
「そうねえ。改良後に長期間運用していると、51パーセント以上改良されても転生してきている。そもそも改良する以上その後に長期の運用が目論まれているから、改良後すぐに退役した兵器はほぼないわ」
「大和さん、僕たちにそんな呑気に改良後の機体を運用している時間はもうないよね」
「どうするんすか。このままじゃ足踏みになるっすよ」
「そうなのよねえ。今回の作戦は次の最終作戦の成否にもかかわってくるし、最終作戦が失敗した時の保険の意味もあるから、避けて通れないよのね……」
「やはり、この異世界に転生できる51パーセント未満の改造に止めるっすか?」
「まあ最終的にはそうするしかないわ。改良点に優先順位をつけて実際の戦闘に重要な部分だけに止めるとか……ただ、それで双頭の鷲計画で転生してくるロシア製最新鋭兵器に対抗できるかどうか……」
「もうあきらめるしかないんすかねえ」
F-4EJのそのセリフを聞いた大和は強く首を横に振る。
「私は決してあきらめたくないわ。リアル世界の人間にとって、諦めるということは最悪の結果である死を意味するわ。異世界の私たちにとっては永遠に近い地獄を意味するから」
「あと可能性と言えば、この異世界に転生後に魂を改良することは不可能なんすよね?」
「それが出来たら苦労しないわよ……」
「となると旧式機を新型機並みの性能に改良しつつ51パーセント未満の改良に止めてこの異世界に転生させる方法か……」
F-4EJがそう言うと重苦しい雰囲気の中沈黙が続く。その沈黙を破ったのは元帥だ。
「あ、いいこと思いついた。旧式機の改良点が51パーセントを超えると転生不可なら、逆に旧式機の中で戦闘に関係ない部品はさらに旧式なものに置き換えるとか……そうすれば改良点と相殺されて、異世界に転生できないかな?」
「……あ、あー。その方法があるわっ。それで行きましょ」
「あー、元帥君よく考えたっすね。確かにその方法ならいけるかもっす。現在の戦闘機で重要なのはレーダーや通信装置、ミサイルなどのあんこ。ここは思い切ってエンジンなどをさらに旧式の物に換装すればバランスはとれるかもしれませんっすね」
「戦車などの車両や艦船なども同じ方法で改良してこの異世界に転生させることができるかもしれないわ。元帥君、グッジョブよ」
「えへへ」
元帥は後頭部をかいて照れながら笑った。そして続ける。
「でも、僕たちの問題は片付いたけど、タイフーンの目論見は不明だよね。どうやってこの異世界にロシア製最新鋭兵器を転生させるんだろ?」
「それはまだ不明よ。ただまさか私たちと同じような、最新鋭機を旧式化させて転生させるなんてことは無いはずだから、何かほかの手段があるはず」
「そうかあ。んじゃ早速試してみたいけど……」
「んじゃ私が行ってくるっす」
「そうF-4EJ、それならさっそく行って貰うわ。あと他の面々にもそのつもりで準備させておいて。でも今回の作戦は以前より難しくなるわ。前々回も前回も改造と再生は民間の施設だったから、そう難しくはない。でもF-4EJはもう自衛隊基地にしかないわ」
「確かに今回はかなりハードな作戦っすよ。戦闘機で作った人型の肉体なら自衛隊基地の塀くらい簡単に飛び超えるっすけど、戦闘機の部品、特に巨大なエンジンを持って飛び越えるのはさすがに無理っす」
「そうよね。だからと言って警戒厳重な自衛隊基地で輸送ヘリをつかってF-4EJを吊り下げて持ち去るのはほぼ無理。それに展示されているだけで稼働していない戦闘機は動かせない」
「そこでいい案を一つ思いついたっす」
大和が「他に案がないから、それで行くわよ」と言って作戦は進んだ。




