作戦会議8
「というわけで、元帥君についていろいろ分かりました。ただしその内容については軍事機密とし、公開は控えます。みなさんも元帥君に尋ねないよう配慮をお願いします。よろしいですね」
翌日の御殿での夕飯。大和がそう念を押すと一同はあきらめたように「はーい」と返事をする。
「それと、もう一つお願いがあります。彼の魂がいわゆる成仏できるように皆さんの全面的な協力を得たいと思いますので、よろしくお願いします」
元帥に関しては機密としておきながら、協力は仰ぐと言う大和の身勝手な要請にも、面々は「はーい」と言って同意した。
それに対して元帥は「みんな、ありがとう」と頭を下げ泣いた。
「まあ元帥君のためなら仕方ないっしょ、みんな」
「ラジャー」
そして元帥はまだ体が回復しておらず、大和に見守られながら寝室で寝ていた。
「ねえ、結局僕は核兵器だったんだよね」
「そういう事よね」
「あれ、大和さんあんまり驚かないよね」
「まあ、元帥君がこの異世界に来た時、私は元帥君を検査したわよね。その時に私が元帥君を『空を飛べて水に潜れる』と言ったけど、それはSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル、いわゆる核ミサイル)しかいないから」
「そうなんだ。で、ひとつ気になることがあるんだけど、僕の肉体の半分以上が核兵器なら、僕はリアル世界に蘇生できないのかな……」
「残酷なことを言うようで気が引けるけど、それは無理だと思うわ。確かに肉体の半分以上は核兵器。でも魂が主に宿っていたのは有機的な脳細胞だけど、それが生きているとは思えない」
「んじゃ無理か……」
「それに前にも言ったけど、兵器の魂は兵器に憑依できるけど、人間の魂は兵器に憑依できないはずだから」
「うん……」
「ごめんなさいね。こればかりはどうしようもないから。それよりも……」
「なにかあるの?」
「ひとつ気になることがあるの、確かロシアの人間から手術を提案されたのよね。そしてその手術に使った材料はSLBM。これはロシアのタイフーン級と何らかの関係性があるかもしれないわ」
「たしかロシアのタイフーン級は戦略原潜。SLBMを搭載した原子力潜水艦なんだよね」
「そ、元帥君が死んだのとタイフーンが両世界を統べると言い出したのもほぼ同じタイミング、偶然とは思えないわ」
そこにF-4EJが入室してくる。
「ちわーっす。大和姉、なんか用っすか?」
「次の作戦について相談があるの」
「相変わらず作戦が好きっすね。たしか前の『ロシアの落日』作戦がしくじった上に裏目に出たのに性懲りもなく……」
「それは言わないで」
「まあいいっすよ、大和姉のすることなら。んで相談ってなんすか?」
「じつはあなたに蘇生してもらいたいの」
「え、ええっ、私がっすか。と言っても大和姉の事だからなんか思惑があるんすよね」
「そう。タイフーンの双頭の鷲計画が成功した場合、この異世界にはロシア製最新鋭兵器の魂が大量に転生してくる。また私が計画している最終作戦も勘案すると、私たちも強力な戦闘力を持った兵器の魂を獲得しておきたいの。そこで……」
それを聞いた面々はゴクリッと生唾を飲みこむ。そして大和が続ける。
「以前アメリカ州のF-15Aの協力でリアル世界のデジタルセンチュリーシリーズを利用しようとした作戦は知っているわよね」
「たしか、アメリカで戦闘機の開発、運用期間を大幅に短縮して次から次へと新型機を開発するという……」
「そう、そして多様な機種が開発されるから、それら性能の高い新型機を破壊して、魂をこの異世界に転生させようというものね」
「たしか新型機は死んでもこの異世界には転生できないってやつっすよね。それがどうかしたんすか。また試したいんすか?」
「今回は逆を試みようと思うの」
「逆? 単細胞の私にはさっぱりわかんないっす」
「簡単に言えば、新型機の魂が手に入らないのであれば、その逆。旧式機を改良して新型機並みの性能を持たせて、破壊してこの世に転生させようというの」
大和の発言を聞いたF-4EJはしばらく沈黙したのち「……まじっすかっ」と叫んだ。
「そこであなたには、リアル世界に蘇生して自らを改良したのち、自己破壊してこの異世界に再転生してきてほしいの」
「すると日本街の戦力が向上して、タイフーンの双頭の鷲計画を阻みやすくなると」
「そういうこと。これは旧式機のF-4EJにしか頼めないの。F-4EJはリアル世界で実際に改良が施されているわよね。あの要領でできないかしら」
そこに元帥が横になったまま口を挟む。
「大和さん。F-4EJは旧式機なんだよね。改良なんて意味あるの?」
「あのね、元帥君。いまの戦闘機の空中戦でメインなのは視程外距離戦闘、すなわち肉眼で見える視界より遠い距離での空中戦で、それに影響を与えるレーダーやミサイルや通信装置などが重要になるの」
「大和姉の言う通りっすよ。それに機体自体もエンジンを換装して性能を上げたり、電波吸収塗料を塗ったりして敵レーダーに映りにくくすることもできるっす」
「そ、F-4EJの言った通りで、もちろん、最近の戦闘機は機体形状を工夫することにより、レーダー探知を避けるステルス全盛だけど、あんこだけを変えるのでも無意味ではないの」
「んで大和姉。それを試してみるんすか?」
「やってみる価値はあると思うわ。まさかこの異世界に転生した魂がリアル世界に蘇生して改良したら再転生ができないなんてはずないから」
「確かに論理的に考えればそうすっよね」
「ただ問題があるわ。改良作業は簡単にはいかないの。実際には部品の調達、それの搭載作業などいろいろと大変」
「それともう一つ問題があるっす。F-4EJを改良するには誰かが蘇生して人型の肉体を得ないといけませんすよ。でも戦闘機の機体から人型の肉体を製造できるのは限られてくるっすよね。F-15Aの時のようにデビスモンサンのおじいさんみたいな人が日本にいるとは限らないし」
「そこで当局に顔が割れていて色々とリスクがあるけど、F-15Aに蘇生してもらって踏ん張ってもらうわ。彼女ならF-4EJ達の肉体も改造できるはずよ。念のため漢字の分かる日本の戦闘機F-1も蘇生させておこうかしらね」
「しかしF-1なんて簡単に手に入るんすか?」
「F-1って確か以前事故ったわよね。潜水艦『はるしお』の魂を蘇生させて、海中の残骸を回収させるわ。それで人型の肉体を作って」
「しかしそれでも足りないっすよ。エンジンとかめちゃデカいから一人では持てないっす」
「ならアメリカ州の協力も仰いで数人の魂を蘇生させてくれるよう依頼するわ」
「まあそれしかないっすよね。んじゃそれで進めるっす」
F-4EJはそう言うと退室していった。




