作戦会議7
「んで、次の作戦とは?」
元帥と大和は相変わらず御殿の縁側で駄弁り続け、他の日本街の兵器の面々は庭で遊び続けている。しかし元帥と大和は会話に集中しており、目で見えていても他の面々が何をしているのか気付いていなかった。
「そろそろ元帥君がこの異世界に転生してきた理由を突き止めてみようかと思うの」
「え、そんなことがわかるの?」
「それはずばり元帥君に直に聞くしかないわね」
「僕がなんでこの異世界に転生してきたか、すなわちリアル世界での死因なんて知ってるわけないでしょ」
「んじゃ体に聞いてみようかしら」
大和はそう言うと、元帥の腹の肉を掴む。
元帥は「ひゃっ、やめて」と悲鳴を上げてこそばがる。
「それとも別の意味で体に聞いてみようかしら?」
大和はそういうと手をポキポキとならす。
「まさか、拷問?」
元帥は大和の冗談を真に受けて涙目で怯えた顔をする。
「冗談よ。可愛い元帥君を拷問にかけたりするもんですか」
「それならよかった。大和さんも兵器だから意外に残酷なところがあるのかと思ったよ」
元帥は冗談半分にそう言ったが、それを聞いた大和は少し悲しげな顔をする。人間に操られたとはいえ、兵器がリアル世界で人を殺したことは事実なのだから。しかし元帥に悟られないように表情をすぐ戻す。そして言った。
「ならお薬で自白しようか」
「それは自白剤でしょ。そんなものこの異世界にあるの?」
「まあこの異世界はリアル世界を模して造られているから、自白剤もないことは無いと思うわ。でも現在飲める形で存在するかは知らないわ。まあアメリカ州に行けばあるかも」
「でもそんなもので記憶を掘り起こしたりできるの?」
「さあ、わからないわ」
それを聞いた元帥は上半身だけズッコケる。そして起き上がって大和に迫る。
「そろそろ大和さんの計画を教えてほしいんだけど……」
「まあ冗談はほどほどにして。ある程度アテはあるわ、心理テストで推測が可能かもしれないの」
「心理テストって、単刀直入に答えを聞くのではなく、遠回しに質問して答えを推測するものだよね。それで僕の死因がわかるの? そもそも僕の魂自体に生前の記憶が無ければどうしようもないんじゃ……」
「心理テストはそんな単純なモノではなく、深層心理を探るためのものだから、記憶ではなくもっと深い、魂自体を探ることができるの」
「んじゃ、大和さんが僕に色々と質問するの?」
「いえ、この道のプロがいるわ」
「この異世界に心理テストができる兵器の魂なんているの?」
「米空軍EC-130Eコマンドソロ、心理戦機よ」
「なんかすごい兵器だね。人の心でも操作できるの?」
「いえ、もっと原始的なもの。ただ敵国のテレビを乗っ取って宣伝の放送を流すだけよ」
「それでなにができるの? 僕にテレビなんか見せたって過去の記憶は再現できないよ」
「いえ、この場合には兵器というより、彼女の魂に用があるの。おそらく、心理戦機だから、米軍の心理戦技術を少なからず知っているはず」
「その彼女に、僕への心理テストを実施してほしいと?」
「そういうこと」
すると元帥はもじもじする。
「僕の深層心理を探るなんて、なんか緊張するなぁ。僕の女の子の好みとか、エッチな趣味とか知られたら……」
「それは心配いらないわ。立ち会うのは私だけだから。私にならエッチな趣味について知られても大丈夫でしょ。現に今まで一回も元帥君に手を出したことないし」
「あれ? そう言えば日本街のみんなは僕に興味津々なのに、大和さんはあまり僕に興味をしめさないよね。なんでかな、僕のこと嫌いなの?」
「いえ、元帥君は日本人か日本の兵器の魂だから好きではあるわよ。ただ好きとか嫌いとか、そんな単純なものじゃないの。先の大戦では広島・長崎で核兵器が使われて多くの日本人が苦しみながら死んだ。長門姉さんも核実験で死んだ。その核兵器は今もリアル世界に大量に存在し続け、私たちの主である人類を滅ぼす可能性を秘めている」
「……」
元帥は沈黙したま悲しい顔をする。
「たしかに核兵器も私と同じ兵器だし、その破壊力は兵器としては魅力的よ。ただそれだけで片付けられないの」
「では、なんで大和さんは僕に優しくしてくれるの」
「それはさっきも言ったように日本人か日本の兵器の魂のどちらかだからよ。前にも言ったけど、私は大戦で日本の国と国民を守り切れなかった。同じことは繰り返したくないの」
「……そうなんだ。大和さんは物事を深く考えるタイプなんだね。僕にちょっかいを出すほかの魂たちも嫌いではないけど、やっぱり僕は大和さんが好きかもしれない」
「そう言ってもらえると日本の兵器冥利に尽きるわね」
「あともうひとつ、気になることがあるの。僕はリアル世界に蘇生できないの? F-15AやMiG-29は簡単にリアル世界に蘇生しているけど……」
「それはね。元帥君は人間かもしれないのが影響しているわ。有機的な肉体がリアル世界に残っていて魂が蘇生しても、肉体が生命活動を再開するか分からないの。だからリアル世界に帰っても魂が肉体に憑依するかわからないわ」
「僕の魂は兵器には憑依できないの」
「元帥君の魂自体は人間のものだから兵器には憑依できないわよ」
「F-15Aなどと同じように蘇生データを読み込んで試してみる事はできないの?」
「できなくはないけど、あれは兵器の魂だから、人間の魂である元帥君に通用しないと思うわ、どうしてもというのなら試してもいいけど」
「って、まさか蘇生するとこの異世界にいられずに、リアル世界にも憑依する肉体が無いからとなって迷子になったりなんか……」
「それはどうかしらね。私もすべてを知っているわけじゃないから、確かなことは言えないけど、兵器も人間も生きている間はリアル世界に存在し、死んだあと人間の魂はあの世へ行き、兵器の魂はこの異世界に転生してくる。だから迷子にはならないとは思うわ」
「でも確かなことは言えないんだよね」
「まあそうよ。でも、私たちは実態があるから元帥君には実感がないかもしれないけど、私たちはそもそも魂そのものなの。蘇生に失敗しても今の魂のままだと思うわ。ただこれはあくまで私の推測」
「そうなると……」
「あとは元帥君の意思次第、いや覚悟次第ってとこかしらね。私には判断できないわ」
元帥は「そうかあ」というと頭の後ろで指を組んで宙を眺めた。
「それで閑話休題。元帥君の死因を特定できる心理テストは受けるのかしら?」
「ちょっと気になるんだけど……」
「またかしら。いいわよ、いくらでも付き合ってあげるから」
「EC-130Eってどんな人なの? 怖い人じゃないよね。心理テストとか言って僕の体をバラバラにしたりとか……」
「そんなことはないとおもうわよ。米軍機の魂だから、同盟国の日本人を苦しめたりはしないはず。たぶん良心的に対応してくれると思うわ」
「それならいいかなぁ。いざというときは大和さんが助けてくれるよね」
「もちろんよ。そして最後に言っておくんだけど、元帥君がこの世界に転生して来たのはもしかするとタイフーンの思惑が影響しているかもしれないの」
「なんだってっ!」
「時期的にはタイフーンの双頭の鷲計画開始時と元帥君の転生はほぼ重なっている。しかも人間とは言い切れず、兵器の魂とも言い切れない元帥君には何か秘密があるはず。それが絡んでいてもおかしくないわけなの」
「そうなんだ……んじゃ心して臨まないといけないよね」
元帥がそう言って気合を入れると、大和はいつものように「よしよし」と元帥の頭を撫でる。
そして二人が庭に目をやると大変なことになっていた。面々がスカートのめくり合いをしていたのだ。言うまでもなく元帥の気を引くために。
「ってあんたたち、なにやってんのよっ」
大和がそう言って止めに入った。こうして元帥が心理テストを受けることが決まった。




