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トライアルの結末

 それから数日が経過した。庭の木々は紅葉し始め、季節は初秋に入ろうとしていた。そして元帥は御殿の縁側で大和に膝枕され、他の面々は庭の落葉で遊んでいた。しかし彼女たちは大和が隙を見せ、元帥に取り入るチャンスを虎視眈々と狙っている。

「あれからもう数日かあ。そろそろなんか音沙汰があってもいいと思うんだけど……」

「今回の作戦はコストパフォーマンスがいいの。MiG-29の協力を得るのは簡単だったし、それ以外もほとんど骨を折っていない。しかもうまくいけばかなりの結果を得られる。ただ……」

「え、いいことづくめの計画なのになんか気がかりでもあるの?」

「ええ、少し嫌な予感もするわ。藪蛇かも……」

 大和はそう言って口に拳を当てて浮かない顔をする。

 そこへ門から2人の人物が入ってきて庭へと進む。それに気が付いた元帥は重そうに頭を起こすが、2人の正体に気が付くと飛び起きて叫んだ。

「F-15AとMiG-29っ。帰ってきたんだあ」

 そして元帥は縁側から飛び出してMiG-29の胸に飛び込むが、ただMiG-29はあまり胸が大きくなく少し硬い。しかも2人の表情も暗い。

「おかえりなさい、二人とも」

 大和はその表情に構うことなく、そう言って2人の頭を自らの大きな胸に抱く。当然元帥は間に挟まれるが。

「……大和姉さん、ただいま帰りました」

「で、F-15A。早速だけど計画はどうなったのかしら、うまくいったのかしら……とは言えなさそうね、その表情じゃ」

「申し訳ありません、それが計画は不首尾に終わりました。それどころか……」

「え、なにかあったの?」

「というか返って裏目に出てしまいました」

 F-15Aのそれを聞いた大和は落胆したものの、その度合いはひどくなく、ある意味予想していたような感じの顔をする。

「確かに、大和姉さんの言いつけ通り、戦闘機トライアルで米露の戦闘機が模擬空中戦を実施しているタイミングに合わせて、MiG-29を再起動してバックドアの管理システムをハッキングしたんですが……」

 元帥と大和は生唾を飲みこむ。

「どうやらバックドアがハッキングされることはロシアに筒抜けになっていたようで、無効化されました」

「やっぱりそうなの。で、それだけじゃなかったのよね?」

「はい。トライアルで米露の戦闘機が模擬空中戦を行ったのですが、どうやらアメリカ軍はロシア軍のバックドアの存在を知っていたようです。バックドアで自爆や稼働停止が可能なことも」

「やっぱりね」

「それで模擬空中戦の最中に、私たちがバックドア管理システムからロシア製戦闘機をハッキングしたところ、これをアメリカ製戦闘機のESM(電波傍受)が関知、ロシア製戦闘機の自爆や稼働停止を警戒して、アメリカ製戦闘機は急旋回してその場を離脱しました」

「と言うことは……」

「その一瞬のスキをついてロシア製戦闘機がアメリカ製戦闘機に勝ったのです」

「そうなの……でも裏目に出たということは」

「はい、それでトライアルの模擬空中戦はロシア製戦闘機が優勝、新興国はロシア製戦闘機の導入を決定しました」

「んじゃ言うまでもなく、UAKの評価は上がり、株価も上がり、信用も上がり……」

「はい、兵器見本市は開催中止どころか、UAK側は参加する兵器を一挙に増やしたそうです」

 そしてF-15AとMiG-29は深く頭を下げて「申し訳ありませんでした」と叫ぶ。

「まあいいわ、作戦は私が立てたものだし、頑張っても報われないことはこの世にあるものね。2人はよく頑張ってくれたわ」

 大和はそう言うと2人の頭を優しく撫でた。

「さ、早く帰って羽でも休めて」

 そう言うと二人は帰っていった。それを見送ると元帥が話し始める。

「大和さん、僕には難しい話はよく分からないけど。もしかして今回の一件ってタイフーンが仕組んだことなんじゃ……?」

「確かにそうよね。私たちの目論見は頓挫して、タイフーンの都合のいいように事が運んだわよね。私たちの行動はあらかじめ予想されていて、MiG-29が蘇生するかどうか監視されていたのかも」

「なんか高度な戦いを挑んでくるなあ。ってか大和さん、タイフーンに勝てる目算ってあるの?」

「勝たないと、この異世界もリアル世界もタイフーンに屈することになるわ。そ、リアル世界では核を前に、この異世界ではロシア製最新鋭兵器の圧倒的な軍事力を前に、ね」

「そろそろ僕たちもなんか秘密計画みたいな、決定的な手を打った方がいいんじゃないかなぁ……」

「決定的な手はある程度考えているわ。ただこのタイフーンの双頭の鷲計画、この異世界に魂があるタイフーンがどうやって両世界を統べるのか、転生できないはずの最新鋭兵器がどうやってこの異世界に転生するのかなど、謎な点だらけで全容が不明な以上、打てる手は限られているの」

「確かにそうだけど……」

「アメリカのセンチュリーシリーズを転生させる手も不首尾に終わったし、今回の兵器見本市妨害は失敗どころか裏目に出た」

 元帥は頭を抱えて「うーん」と唸る。

「だからこれ以上、下手に動いて裏目に出るのは避けないといけないのよ」

「もっと手っ取り早く、タイフーンをとっちめたりとか……」

「タイフーンは、核ミサイル20発を擁するこの異世界では最強の兵器の魂なの。極端なことを言えば、彼女がその気になれば核攻撃でアメリカ州も日本街も一瞬で消滅する」

「う……」

「もちろん私たちは魂だから、ヒットポイントがゼロになったらダウンするだけだけど。でも家はなくなるから、明日から石器時代の生活をする羽目になるわよ」

「んじゃ、寝込みを襲うとか……」

「確かに、この異世界では兵器の性能がすべてだし、ヒットポイントも自然に戻るから、どの国もまともな警備体制は敷いていないわ。寝込みをかけないこともない」

「ならっ」

「でもロシア県はどうかしら。双頭の鷲計画を企んでいるのに、警備体制を他国のようにザルにしているとは考えにくいわよね」

「そうだけど……」

「これは前にも言ったけど、たとえ相手が警備態勢を敷いていないとして、先制攻撃したとしても兵器の性能がすべてだから勝てるかわからない」

「えー」

「それにこの世界は退役した旧式の兵器の魂が多いけど、ロシア県の場合はソ連時代に開発された強大な兵器の魂が多い。一方日本は自国製兵器が少なく、日本街も性能の低い兵器が多いの」

「そうなの?」

「そう。仮に先制攻撃でヒットポイントをゼロにしても、復活されたら強大な兵器に返り討ちに合う」

「うーん……」

「だからこの異世界で、タイフーンたちをどうこうできないわね」

「んじゃタイフーンが仮にロシア製最新鋭兵器を転生させることができても、他国の兵器の魂に決定的ダメージを与えられないのなら、あまり意味がないんじゃ……」

「まあたしかにそうよね。でもロシア製最新鋭兵器となると向こうは圧勝できる。それはこの異世界において極めて大きい意味を持つの。何しろ激痛を味わってダウンさせられ続けるんだから」

「そうなんだ。僕はてっきり、兵器の魂って僕と違って頑丈だと思っていたんだけど……」

「まあそうよね。って説教してしまったわね。ごめんなさいね、元帥君は元帥君なりに心配してくれていたのよね」

 大和はそう言うと元帥を強く抱きしめる。

「……うん、そうだよ。僕だってみんなの事が……」

「んじゃ決めたわ。次の作戦は元帥君の事を調べてみようかしらね」

「僕の事?」

「そ、君の事」

 そして季節はさらに進もうとしていた。

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