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作戦会議6

 そしてアメリカ州、EP-3Eアリエスの家。

 ドアをノックして出てきたのは変わりのないアリエスだった。

「あーら、ミス大和に、ミスター元帥ざますね。それとそちらの戦闘機は誰ざますか?」

 アリエスはおさげの女の子が誰かは知らないが、さすが電子偵察機だけあって彼女が戦闘機であることはわかるようだ。

「ハーイ、ミスアリエス。戦闘機の彼女はMiG-29の魂よ」

 大和がそう言うと、それを聞いたアリエスは不機嫌そうな表情に豹変し、「そうざますかっ」と吐き捨てた。

「アリエス、彼女はソ連が開発した戦闘機だけど、ドイツに配備されていた機体よ」

 大和の話を聞いたアリエスは機嫌を直した。

「あら、そうざますか。同盟国の戦闘機なら私たちの同胞ざますわね。さ、中に上がるざます。炭素繊維のパイを作ったので待つざます」

 そう言ってアリエスは奥に消え、面々が家に上がる。しばらくして戻ってくると、まんま真っ黒な炭素繊維が入ったパイを出してきた。人間風に言えば、グラタン皿に入ったアップルパイだ。

 アリエスが「さあ召し上がれ」と言うと面々は「いただきます」と食べ始めるが、元帥はアリエスの顔を見ながら自分の顔を指す。

「あー、ミスター元帥は人間でしたざますね。ついでにアップルパイを作ったので、それを食べるざます」

 アリエスはそう言って机の上にあった皿の蓋を取ると、中にはアップルパイがあった。

 元帥は喜び勇んで「いただっきまーす」と言って食べ始める。

「食べながら作戦を進めるざます。んで連絡は受けているざます。一名をリアル世界に蘇生させてほしいざますのよね」

「そうなの。彼女を蘇生させてほしいの」

 指名されたのはMiG-29だった。が、当のMiG-29は目を丸くしており、どうやら作戦は伝えられていないようだ。

「ドイツ県庁からある程度の話は聞いていますが、ただ大和さんに従えというだけで、詳しい話は聞いていませんから……」

 MiG-29は困惑しながらそう言った。

「そう言えば私も詳しい話を聞いていないざます。支障が無ければ教えてほしいざます」

「アリエスさん、わかったわ。詳細を話すわ。時系列順に話すわね。簡単に言うとMiG-29に蘇生してほしいのは言うまでもない」

「それは知っているざます」

 そこに元帥が口を出す。

「あれ、MiG-29って旧ソ連、すなわちロシアの戦闘機だよね。なんでドイツにあるの?」

「ドイツのMiG-29はもともと、東西ドイツ統一前の東ドイツに配備されていた機体なの。そしてドイツ統一後、ドイツの物になった。だから旧ソ連開発の戦闘機でありながら西側の機体でもあるという稀有な存在なの」

「そうなんだ……」

「でね。旧ソ連が兵器を友好国や衛星国に輸出するとき、意図的にスペックダウン(性能を落とした)したモンキーモデルを売っていたことは周知の事実だけど、実は裏で兵器にバックドアも仕掛けていたの」

「それはよくある噂ざますね」

「大和さん。バックドアって何なの?」

「元帥君、それはね。軍事におけるバックドアとは、輸出した兵器で自国を攻められないように、裏から内部にアクセスできる仕組みなの。バックドアからシステムに侵入して兵器が稼働しなくさせたりできる。リアル世界では否定されているけど、極秘に存在するようなの」

「へえ」

「そ、なんでかって言うとさっきのMiG-29がドイツに渡った件もあるし、そもそもは大昔アメリカがイランと友好的だった時に、イランに兵器を輸出したんだけど、その後アメリカとイランは断交した……」

「んで、ややこしいことになったんだよね」

「そ、イランに戦闘機を輸出したせいで機密がソ連にわたり、最後にはアメリカで同型機が退役したのち、部品として盗まれないように破棄する羽目になった」

「それを見ていたロシアは輸出する戦闘機にバックドアを仕組んだ、と」

「そう。ちなみにドイツのMiG-29の大半はポーランドに売却されたの」

「となるとポーランドの機体は現役でまだ生きている?」

「そう。だからもしここにいるMiG-29が蘇生すると、ドイツに残留して博物館に展示してある機体に魂が憑依すると思うの。しかし、ドイツのMiG-29売却の話には裏がある」

「まさか……バックドアが?」

「そう、確かに諸々あってドイツはMiG-29を手放した。でも実際にはドイツはロシアからバックドアでMiG-29を自爆させると恫喝されたの」

「本当なの?」

「おそらくね。ドイツからしてみれば、変なところで自爆されたら困る。ロシアからすれば、バックドアが仕組まれた自国の戦闘機が、統一後のドイツにあり続けることを放っておけない」

「んで、ドイツはMiG-29をポーランドに売却したの?」

「そう。と言うことは、MiG-29の魂が蘇生しドイツで展示されている機体に憑依して、再起動したことがロシアに露見すると、バックドアを発動させて来る可能性がある」

「でも、僕たちにとってそれに何の意味が?」

「元帥君。バックドアは遠隔操作できるからには、MiG-29はバックドアを管理しているシステムにつながっている可能性が高い。そこでMiG-29の魂は、バックドア管理システムを逆ハッキングしてほしいの」

「そしてどうするの?」

「ここからが味噌なの。近いうちに新興国の数か国が共同で、新型戦闘機調達計画が立ち上がっている。そして新興国は各国が売り込んできた戦闘機で、模擬空中戦を含むトライアル(試験)を実施する」

「まさかそれに……」

「ロシア製戦闘機も参加する。当然その戦闘機にもバックドアが仕組まれているはず。そこでMiG-29からバックドア管理システムを介して、そのロシア製戦闘機のバックドアを発動させるの。おそらくその戦闘機は墜落するか稼働できなくなるはず」

「そうなると……」

「すると、ロシアのバックドアが公になる。しかも私たちのちゃちな作戦でバックドアが作動すれば、それは他国にもマネできるということになるの。そうなると戦争ができなくなる。UAKは新規の戦闘機注文を受注できないどころか、すでに販売した既存の戦闘機すら使い物にならなくなる」

「そうするとUAKの信用は完全に失墜する。そして決算は赤字になって経営破綻し兵器見本市は頓挫する、というわけなのかな?」

「そういうこと」

「なんか複雑な作戦だなぁ」

「でもこれで兵器見本市が開催できなくなれば、タイフーンの目論見はほぼ頓挫するわ」

「分かったざますわ。ならさっそく準備をするざます」

 アリエスがそう言って席を立とうとすると、MiG-29が挙手する。

「たしかにMiG-29の機体にはバックドアが仕組まれているかもしれませんが、わたしにはバックドア管理システムへハッキングする方法は分かりませんよ」

「それは大丈夫よ、電子戦機EC-1からハッキングデータを預かったから、読んでおいて」

 大和はそう言うとタブレットパソコンをMiG-29に渡す。するとMiG-29は真剣になって読み始めた。

「それとMiG-29の再起動とバックドア管理システムへのハッキングのタイミングは、すでにリアル世界に潜入しているF-15Aから指示するわ」

「それともうひとつ。この異世界に戻ってくるのにはどうしたらいいのですか?」

「MiG-29。簡単には自己破壊ね」

「それしかないんですか……」

 MiG-29は暗い表情になってそう言った。兵器でも自殺は好まれないようだ。

「ただ、一つ言っておくわ、ドイツのMiG-29は一機しかない。それを破壊したらリアル世界に戻る方法は無いわ。それを考えておいて頂戴。ちなみに私たちに報告はいらないから、異世界に転生してくることは必要ないわ。向こうに残りたかったら残ってて」

「しかしこの作戦は長丁場になりそうだよね」

「元帥君、まぁ簡単にいく作戦ではないわね。でも時間稼ぎができれば、私たちはまた新たな対策を立てることが可能なの。タイフーンの思惑は一つであるはずだから、こちらが対策を立てて封じれば、双頭の鷲計画は頓挫するわ」

「うまくいくといいなあ」

「それに私たちの目論見通りにいけば、ロシアはバックドアを除去することを公表したうえで、別の兵器見本市を開催するしかないはず。でも一度信用を失った以上そう簡単にいくとは思えないから、開催できるかどうか」

「なるほど。でも今回の任務は結構対ミンクがシビアだよね。MiG-29が蘇生すると同時にバックドアが発動して逆ハッキングしないといけないけど、しかもそれをトライアルでロシア製戦闘機が空中戦をやっている最中に合わせないといけないよ」

「ま、やってみるしかないわね。CP(指揮所)はここにするわ。タイミングはF-15Aが自己破壊で転生してくる時。そのタイミングがいつか分からせないから、それまで泊まり込みよ」

 元帥は「まあ、旅行気分で楽しいけど」と言って納得した。

「ところでMIG-29が蘇生するんだよね。蘇生に必要なEC-1がいないけど……」

「ミスター元帥。それざますけど、ミス大和のアイデアで蘇生はかなり自動化されているのでざますよ」

「そうなんだ」

 元帥がそう言い終えると、大和が急に真顔になった。

「ところでアリエスさん、例の件の首尾は如何に?」

「ミス大和、無事に進んでいるざますよ」

「大和さん。例の件って何?」

「元帥君、それはまだ秘密よ」

「大和さんも秘密が多いなあ」

「まあいずれ話す、とも言えないかもしれないけど」

「それどういう事……まあいいよ、大和さんの事を信用しているから」

 大和が最後に短く「ごめんね」とだけ言って話は終わった。

 それから数日間、大和と元帥、MiG-29はアリエス宅に泊まり込み、態勢を維持した。

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