作戦会議5
その日は朝からてんやわんやだった。元帥が粗相をしてしまったのだが、それを聞きつけた面々がここぞとばかりに元帥にゴマを擦る。元帥からパンツを奪ったり、下半身を拭こうとしたり、風呂へ連行しようとしたり、一緒にトイレをしようとしたり。
そして休む間もなく、元帥は大和に御殿から車で連れ出される。
「一体大和さんまで僕を連れ出そうとしたりして何をする気なの?」
「次の作戦よ」
「さすが軍師大和、ぬかりが無いよね。しかし僕は少し疲れたよ」
「まあ元帥君は見ているだけでいいから。とにかく概要を説明するわ。タイフーンの目的がロシアの兵器見本市を核攻撃、ロシア製最新鋭兵器を破壊して、その魂を何らかの方法で、この異世界に転生させることなのはご案内の通り」
「そんなこと改めて言われるまでもないよ。で?」
「タイフーンの目論見を簡単に阻止するには最も手っ取り早い方法があるの」
「すわっ、タイフーンの殺害ですかっ?」
「元帥君。あなたって結構残酷なのね。それに兵器の魂を殺害することはできないのは知っているはずよ。たとえ核攻撃してもヒットポイントがゼロになるだけで、時間が経つと復活するから」
それを聞いた元帥はモジモジしながら「いや、大和さんならやるかなぁって……」と恐縮している。
「簡単に言うと兵器見本市を妨害すれば、ロシア製最新鋭兵器が一堂に会することは無いの。するとタイフーンはそれらを破壊できるチャンスがなくなる」
「んじゃ、タイフーンはロシア製最新鋭兵器を各個核攻撃していくとか」
「タイフーンの核ミサイルは二十発。一発の核ミサイルで複数目標を攻撃できるよう、一発当たりに複数の核弾頭が搭載されているとしても、手数が多いとは言えない。世界を相手に恫喝するのには無駄撃ちはできないの」
「ふーん、それで?」
「ようするに兵器見本市を開催されなければいいの」
「そんなの簡単だよね。嘘の自爆テロの脅迫メールを送りつければ……」
「まあそのへんは元帥君の浅慮よね」
大和がそう言うと、元帥は「ブー」と言って膨れている。
「そんなの一回限りだし、警備を強化されて無視される可能性もある。それに再来年に兵器見本市が開催されたら私たちは詰んでしまうの。まあ私としては時間稼ぎでも十分いいけど、可能な限り兵器見本市を当面開催できる可能性を摘んでおきたい」
「と言うことは、大和さんにはなんかまた高等テクニックがあると?」
「そこまで高等ではないけど、少し手の込んだ作戦ね」
「まあいいよ。で、詳細は?」
「この異世界の日本街で新参なのは最近退役したF-4EJよね。だから彼女が日本街でリアル世界の最新情報を握っている。彼女によると、リアル世界のロシアの経済状態は芳しくないの。そんな中、ロシア政府は石油と兵器の輸出で打開を目論んでいるの。兵器見本市はそのためでもある」
元帥は分かっていないようで少しボーとした顔で「へえ。そうなんだ」とつぶやく。
「元帥君の顔を見ていると少し難し過ぎる話のようね。でも逆に言えば兵器見本市自体も金がなくなれば開催できないわ。そのためには」
「まさかロシア経済を破綻させるとか、そんな大それた話じゃないよね」
「いえ、そうするとさすがに多数のロシア国民が困窮するから、私たちの本望ではないわね」
「となると……兵器見本市を主宰する人のお金が無くなれば……」
「そういう事。今回の兵器見本市を主宰するのはUAK。ソ連時代に戦闘機開発を担ったミグなど設計局はソ連崩壊後に民間企業になり、それらを統合した企業がUAKなの。簡単に言うとUAKが破綻すれば、兵器見本市が開催できなくなるわけ」
「でも大和さんは、時間稼ぎが真意だけど、できれば今後も開催できないようにしたい、ということなんだよね。そこまでUAKを破綻させることが可能なのかな?」
「それには色々と細工が必要なの。まあ手は打ってあるわ」
「僕の予想だと、F-15Aさんに蘇生してもらって、ハッキングとかでUAKの情報を消したりするとかかなあ」
「まあ、いいわよ。元帥君は色々考えて作戦を予想しておいて」
大和はそう言うと、元帥の頭を優しく撫でる。
「んじゃロシアの落日作戦の開始よっ」
そして例の飛行場に着いて、輸送機で離陸する。
「大和さん。輸送機に乗るっていう事は、またアメリカ州に行くの?」
「いえ、今回はドイツ県を経由してアメリカ州に向かうわ」
「あ、そう言えば、この世界の世界地図ってあるの?」
「あるけど、リアル世界の世界地図とは何の関係もないわ。この異世界は人間の支配するリアル世界ではなく、兵器の魂の世界だから。この異世界で重要なのは地図より空間座標なの。だから地図がぞんざいな扱いを受けるの」
「まあ兵器だとそうだろうなあ、んで、なんでドイツ県を経由していくの?」
「ドイツ県には今回の作戦には欠かせないキーマンがいるの。誰だと思う」
「僕は兵器オタクでもないから全く想像できないよ」
「まあ楽しみにしておいて」
しばらくすると輸送機はドイツ県に着陸して、すぐさまある女の子が搭乗してくる。赤毛のおさげの女の子でソバカスがあるが落ち着いた感じの女の子だ。なんか触れると壊れてしまいそうで元帥は近寄りがたく、大和と挨拶したら最後尾の席に座って黙ってしまった。そして輸送機はすぐさま離陸してアメリカ州に向かう。




