8:一発面談
トモエは守から受け取った物を作る、とパソコンに向かうとカタカタカタと作業に取り掛かっていた。時刻は既に午後の七時だというのに、今から働くとは末恐ろしい中学生である。
そんなトモエを見ながら、トコロテンは握りこぶしを作ってみては解いてみるという行動を何度か繰り返すと、良しとばかりに胸中で語る。
(上級に位置する魔力を放っても一瞬で霧散しちゃうわね。と、なると禁術しかダメなのね)
この世界に訪れて、いきなりイチャコラしてやがる女をみて、ついノリで大地が抉れるほどの禁術、嫉妬の極みを使ったにも関わらず、効果は人ヒトリを押し倒す程度に留まっていた。
もちろん、トコロテンが異世界移動を行った後だからというのもあるだろうが、あまりに希薄な魔力の世界に新鮮味を感じているようである。
「さて、それじゃ全力でぶっぱなしちゃいますか」
誰に言うでもなく、いつのまにか城の天辺に立つトコロテンはジャージのジッパーをおろすと、どこに隠し持っていたのか指示棒をビュッ、と伸ばすとソレを天に掲げながら詠唱する。
「第一希望、私よりも少しだけ馬鹿、一途で優男、私と付き合って! 魅了!」
トコロテンは意味を成さない呪文の羅列に、自らの欲望を乗せ膨大な魔力を解き放つ。瞬間、空がピンク色に染まったかのような輝きをみせ、ソレは霧散する。
続けて、トコロテンは詠唱する。
「第二希望、活発、英知の知略、私の王子様! 魅了!」
再び、同じように空がピンク色に染まる。
「後一回はいけるかな……第三希望、見守る《サンドラー》、仕事、私の騎士! 魅了!」
ふぅ、やりきったとばかりにシュッコッと指示棒を元のサイズに戻すと、再びいつのまにか丸テーブルのある部屋へと戻っていた。
たくさん頑張ったし、晩御飯はどうやら出る気配もないのでマモルのベットで寝ようと移動したトコロテンだが、足がもつれベタンと顔面から倒れこんでしまう。
「うぅ、魔力無さすぎじゃない、この世界……」
魔力切れを久方ぶりに起こした彼女は、誰に助けてもらうこともできず翌朝を迎えるのであった。
「おはよう」
「おはよう、ございます」
「まさか徹夜か?」
「う、うん……」
「悪いな、仕事押し付けちまって。コーヒーでも飲むか?」
「あっ、コーヒー牛乳が良い、うんと冷たいやつ!」
「わかった、座って待っててくれ」
「うん、待ってる……けど、寝ぼけて見間違いしてるんじゃないかな、と思ったんだけど」
「ん?」
「守が踏んでる人、テンさんじゃない?」
「……(グリグリ)」
「テン……さん……」
「いや、こんな得体のしれない奴とトモエを一晩二人っきりにさせたと思うとな。退治出来る時にしておこうと」
「むきぃ、いい加減足おろしなさいよっ! 人がどれだけ頑張ったと思ってんのよ! もう、あっ、そっとやめようとしないで、こんなの初めてでぇぁああアイェエエエエエエ」
踵でグリグリと圧を増してフィニッシュを決めた守は、ああ、すまん気が付かなかったとだけ言うとコーヒーをいれにキッチンへと移動していった。
「ううう、マモルって結構キツイ性格してるわよね? 大丈夫トモエちゃん、あんな奴が旦那さんだなんて?」
言われて、顔を赤くしながらコクコクと頷いて見せるトモエにハァ、リア充砕けろと念じながらトコロテンは這うように移動してリクライニングチェアに腰かけた。朝起きて、マモルが一つトコロテンの為に用意したので椅子不足は解消されている。
「それにしても、何から何までソックリね、この世界は」
「……? そりゃ、外国の製品もありますからね。でも、外から人が来るなんて久々です。やっぱり大変なんですか、外も?」
好奇心で尋ねるトモエだが、トコロテンは大きく頷いてソレに応えた。
「ええ、とても大変よ(いい男がみつからなくて)」
「やはりそう、なんですね(財政難なのね)」
「トモエちゃんも大変よね(あんなのが旦那になって)」
「そう、でもないかもしれません。頼れるかな、とか(守のこととが)」
「へぇ……(そんなに頼れるのかしら、あの子)」
と、何故か話が繋がる二人の会話はすぐに終わりを迎える。
「コーヒー入ったぞ。あと、何か玄関に不信な三人組の男が要るんだが……トコロ、お前何か心当たりないか?」
「ピンポイントで名指ししてくるわね、まぁあたしが呼んだんだけど」
「一体何したんだよ……」
「そりゃ、私含めてもたった三人で国が動くわけ無いじゃないの。だから、呼んだのよ」
「呼んだ……?」
「そう、汚れ仕事が出来る人、国を動かすのに必要な宰相、そして騎士の三人を選りすぐったわ」
ドヤ顔でトコロテンは言う。
「そう、これから約束された雇用をしようと思うの」




