7:トコロテン3
リクライニングシートに腰かけた二人と、地面に正座しているトコロテンは丸テーブルの横で三角を描くように向き合いそれぞれが座っていた。腰に手を当て説明を求めるトモエと、どこから話したものかと悩んで見せる守。そんな二人をニヤニヤとしながらトコロテンはお互いを観察していた。
ちなみにジャージに着替えようとしていたトコロテンは結局トモエに連れていかれ普段着用の白色ワンピースを手渡す。下着に関してはブラは不要、というかサイズがあわなかったので諦めてもらい、色気を一切感じさせない白パンツから可愛いレースのついた紫色のパンティを履いてもらっている。
「それじゃ、話しましょう」
舞台は整ったとばかりに、椅子を少しだけ守寄りにしてからトモエが言う。
「まず、貴方は誰? なんでこんな『子供』がここに居るのかしら?」
まだ中学生なトモエから見ても、トコロテンと呼ばれた女性の見た目は年下だろうと判断するのが妥当な容姿であった。
「私、色々喋ってもいいかしら? マモル」
守の事を呼び捨てするソレに対してトモエはムッとわかりやすく表情をかえるが、守はそんなトモエの変化に気づかないフリをして話を進める。
「ああ、わかりやすく頼むぞトコロさん?」
「ふふ、てっきり私はこんな場面はしょっちゃって次の語りに入るかと思ってたわ」
「何しょっぱなから部外者視点で話そうとしてやがんですか。良いから『わかりやすく』頼みます」
ええ、と笑みを浮かべながらトコロテンは話し出す。
「どうも、私はトコロテンと言いま」
「はいっ! はいはいっ! まずソレ! 本名なの? 何度聞いても偽名にしか聞こえないんですけど?」
「本名ですよ? あと、念のためいっときますが私、貴女より年上だからね?」
ニタニタと童顔で見つめるトコロテンへの視線が更にキツクなるトモエである。
「そんな容姿で言われても子供の虚言にしか思えないんですけど? お、男の人の前がいるところで着替えようとしたりぃ? あんな下着つけてたりぃ? それに胸も全く」
「あら? 私もしかしなくても喧嘩売られてるわよね? 良いわ、ちょっと表で勝負をつけましょう!」
「おいこらトコロ、大人しくしろ。トモエも、少しだけこいつの話に付き合ってやってくれ」
「何よ守! こんな子供の言う事聞くこと無いじゃない!? 私だけを見てよ!」
「ちょ、突然何イイマスカ? トモエサン?」
「あっ、ちょっと今のなし、でお願いいします」
「ねぇ? 私を放置プレイするのは良いのだけどれも、説明止めちゃっても良いかしら?」
コホン、とトモエがわざとらしく咳払いすると仕切り直しの説明を求めた。
「もう一度言うわね。私はトコロテンという名前が本名で、貴方たちよりも年上、三十四歳ってのも本当の事」
トモエもまさか三十代とは思わず、しかし何度も嘘をつくには無駄過ぎると大人しく続きを聞くことにする。
「それで、私はつい一時間前くらいかな? この世界にやって来たの。自称になっちゃうから恥ずかしいけど、こうみえても超一流の魔法使いよ!」
今度はどこから突っ込めば良いのかわからず、トモエは人差し指をこめかみに充てて言葉を選ぶ。
「えーっと、その私はテンさんのさっき話した単語が色々わからなかったのだけど、確か魔法使いって名乗る人は『童貞をこじらせた』だっけかな、その人だけがなれる職業みたいなものよね? 世界にやってきた、という表現からしてどこか外国からやってきたって意味かしら? 言い回し的に、中二病って奴だと思うの私。生憎そういう友達はいなかったから、テンさんの話がいまいち頭に入ってこなかったわ。ごめんなさい」
何故か憐みの目でみられるトコロテンである。
「流石に色々と突っ込みたくなる私だけど、大人の余裕ということで……オッホン、トモエちゃんには後で色々教えてあげるとして、私はここで働かせてもらうことになったの」
「えっ?」
「マモルに聞いた限り、どうも衛巴はピンチらしいじゃない? 貴方達二人でこのピンチを脱するのは誰がどうみても不可能じゃないかしら? そ・こ・で、私が力を貸してあげようってわけ」
「おいこらトコロ、盛るんじゃねぇっ!? お前が元の世界に戻れず、自分の替えの服すらなく泣く泣くお金の持ち合わせもない得体のしれないお前を拾ってやったんだろうがっ!」
「そんな、私泣いてお願いなんてしてないわよ? 裸見せるから住まわして、御飯頂戴なんて一言も言ってないからね!?」
下手なウソ泣きをしてみせるトコロテンだが、トモエは何をどう解釈したのかウンウンと頷く。
「そうなのね。行く場所もお金も、何も無いのね……それで優しい守に助けてもらったのね」
「うーん、まぁそういう感じにしとこうかしら。それで、少しだけ資料見させてもらったけどどうするの貴方達? 重症通り越して瀕死状態じゃないかしら?」
トコロテンは軽く資料に目を通しただけで、この国の情勢をある程度読み取っていたらしく正座をといて胡坐をかいてみせる。
「少なくとも、私が少し力を貸したくらいじゃどうしようもないわよ?」
まるで多少は力になれる、とでも言うようなセリフを吐くトコロテンだが、トモエはそんな言葉遊びに気が付かず続けていた。
「テンさんもそう思う、わよね。私の見通しだと良くて一か月。最悪二週間で一気に悪化が始まるわ。時間も、資源も、それを動かす人も本当に足りない……」
「あー、その事だがトモエは知っていると思うが俺はあんまり細かい数値がわからなかったんだ……ザックリ見積もって三週間以内に何とか対策を打ち切らなきゃマズイ、程度にしか」
ザックリだとしても、大体の的を得ていた守にトモエはほぅ、と少しだけ関心を戻す。
「何よ、守もわかってるんじゃないの。その認識で間違いないわ、リミットは三週間」
「その最初の一手がコイツ、自称魔法使いのトコロさんって訳だ」
「宜しくね」
「で、動き出すにも俺も少しは頭動かす必要あると思うんだ」
「当然よ」
「うっ、そこでお願いがあるんだトモエ」
「何かしら、守? その、た、助けてもらったりその色々してもらった訳だし? 守のお願いだし何でも聞いてあげるわよ」
顔を明らかに赤くしながらトモエは守の提案を聞いた。
「少し苦労かけちまうけど、俺にもわかりやすいインターフェイスの用意をして欲しいんだ。ああ、勿論大元となる概要仕様書だけは作っといた。文字と図形ベースで、詳細の設計はないけど、そこんとこをうまくやってほしいんだ」
いつのまにか守が作成していた資料を受け取ると、トモエもむつかしい顔をしていた。
「これ、私にアプリを作れって事よね? ふむふむ……」
トモエは侮っていた。頭が悪いとばかり思っていた守だが、そこに書かれた内容は色々と興味深くトモエですらまだ習っていない例として用いられている数式やコードが多々あるのだ。
「ふふ……ふふふふ、良いわよ。やってやろうじゃないの!」
トモエに配慮した説明付きの仕様書を片手に、守の打ち出した最初の一手を引き受けることにした。
「手間かける、その間に俺とトコロは人材探し、なんだが」
「ふふ、もう瞼がほとんど落ちてるわね」
「ハハ……すまん、少し休ませてくれ」
そういうと、守はスヤァと寝息を立てて眠りについていた。
「よっぽど頑張ってたんでしょうね、マモルは。自分の学以上の事をたった二晩で成し遂げて、更に次へ進むための一手を考えている。そこに私みたいな異常に対してもしっかり貴女に危害がないように配慮しながら行動するんだもの、すごいわね彼」
トモエはトコロテンと二人となり先ほどまでの去勢が失われていた。
「それは、うん……」
「でもまぁ、私もしばらくここに世話になるんだし、出来ることはやってあげるわ。残念ながらそのプログラム? とやらは私の世界にはなかったから手伝えないけど、マモルの打った人探しくらいならお任せあれよ」
どこまでが本当なのか、トモエには判断がつかなかったが守が信じた人なのだから、私も信じてみるしかないか、と諦め気味に頷くトモエであった。




