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約束の時間に、それぞれは集っていた。
「実と蒋、匠は左側な。後は……」
野村の隣には女の子が。蒋の隣にも女の子が。匠は一人だった。
「私、招来 千愛といいます、この度はこんな兄を雇っていただいてありがとうございます」
「あ、ああ……」
「わ、私は実熊と言います……」
ふむ、事前に聞いてたが野村の娘と将来の妹か。まぁ健康診断を受ける必要は無いのだが、ついでという理由だけでトモエに任せるとした守は口を開く。
「それじゃあ、二人は右側へ。聞いているとは思うが、ごく普通の健康診断だから」
「「はい」」
健康診断用の布着に着替えてもらっていたのだが、隣からぶつぶつと小言が聞こえてくる。
「えっ、何? 郷に入れば郷に従えって意味知ってるマモル? 私、ここの健康診断が裸でやるものなんだと思ってあんな羞恥にも耐えて頑張ったのに、何!? えっ、ええっ!?」
トコロテンが騒いでいると、実熊がそっと近づき頭を撫で始める。
「私も低学年の頃は下着だけだったし、来年からはきっとこの服が着れるよ!」
どこかズレたフォローをする実熊だが、トコロテンは少し黙ると、うんとだけ言って返事を返していた。
「ん、珍しいな? どうした、あの服来年着れるのがそんなに嬉しいか?」
「バカッ。違うわよ、子ども扱いされたのはちょっとアレだけど、それでも本当に子供から慰められちゃあ、騒いでられないでしょう」
「案外大人な対応だなオイ」
「伊達に三十四年生きてるわよ」
「ええっ!? トコロテンさんって僕より年上なんですか!」
「お前がなんで会話に加わってきてるんだよ」
「いや、そりゃ娘が……」
「ちぃぃ」
トコロテンは舌打ちをすると、実熊の手を引きそのまま千愛の手も引いてカーテンの向こう側へと姿を隠してしまった。
「ああ、実熊はもうトコロテンさんと仲良くなったんだね。僕は嬉しいよ」
「おい眼鏡、お前もさっさと健康診断を受けろ」
「あっ、そうだね」
そういうと、一人で測定出来るものは各々で測定してもらった。
「ん、174cmか……もうちっとで175に届くな」
「蒋君は大きくて羨ましいよ、僕なんか」
「おい野村、お前の僕っ子キャラはわざとか? 良い歳してそれは」
「いやいやいや、娘も居るのに家の中と違う人称で呼ぶって変じゃないですか? ねぇ匠さん」
「俺に振るな」
「うわぁ、189cmてデカイですね! やっぱりソルジャーは体つきが違うなぁ」
喋りながら、実も入れ替わるように身長を測ると163cmという数値だった。
「で、でも娘たちにならっ……」
小声で娘よりも身長が高いはずだ、そんな願望を抱きながら小耳をたてる。
「実熊さんは162cmですね、そして千愛さんが165cmっと……」
「ぐおぉぉぉぉ」
一人、頭を抱え唸っている野村を放って健康診断は続いていく。
「なっ、視力がまたさがってるじゃねぇか……」
愕然と項垂れる蒋と、まぁまぁかと2.5を叩き出す匠。
「凄いね! それじゃ僕も……おっと、眼鏡つけたままだった」
「ん、今の最高視力を測定するだけで良いんだから、外してやる意味ないだろう?」
「うん? だから外すんだけど」
「……おい、その眼鏡貸せっ」
机に置かれた眼鏡を手に、レンズを覗いてみると世界がワイドに湾曲して広がる。クラリと立ち眩みを覚えすぐさま外すと、蒋は実に尋ねていた。
「おい、これは何の真似なんだ? 視野が無駄に広がるだけで度なんか入ってねぇ、何の意味が?」
「無駄に目が良いと、色々見えすぎてね……遠くが見えないようにコーティングしてあるんだ、ソレ」
「さぁて、やりますか」
カチッ、カチッ、カチッ。カチカチカチカチカチカチカチ……カチッ。
「マジかよ……」
野村が叩き出した数値は匠と同じく2.5という数値が出ている。だが、測定限界にひっかかっただけのようで、無念そうにする実である。
「おい、これが見えるか?」
「ん、何だい匠君」
バババババッ、と手に持っていたナイフを高速で回転させて鞘におさめた。
「ナイフに描かれた文字が読めたか?」
「えっ? そりゃ、読めるけど? でも何で英文字のTなんて一文字だけ刻まれているの?」
「……ふむ」
興味をなくしたように次の検査に移動する匠を横に蒋は驚いていた。
「今のが見えた、のか? 実はソルジャーだったとか、そんなオチはねぇだろうなおい」
「まさかー。このブヨブヨの腕を見てよ。室内仕事だったからね、こうなるよねハァ」
「……ふむ」
同じように興味をなくしたように次の測定にうつる蒋。そして、遠目にもその光景をみていた守はなるほど、とやっと少しだけ実への興味を抱くことができた。
「アイエェエエエエエエ」
突然の叫び声。そして当然のように黙らせようと首根っこを掴んで見せる守。
「おい、今度はどうしたトコロさん。そろそろ戦力外通告をするぞ?」
「「わっ」」
何の躊躇もなくカーテンの向こう側、実熊と千愛の居る側へと移動する守である。布着姿だから何も問題はないのだが、手に持つカップを机に置こうと移動中の二人は顔を赤くしながらササッとソレを置いた。
「ねぇマモル、私は凄く、凄く重大な事実を知ってしまったの。思わず叫んでしまう程によ!」
「察しはついた」
「ねぇ! 何か雑じゃない私の対応!? それより、検尿がトイレでやるものだって何で言ってくれなかったの!? ねぇ、私のアレは一体何だったの? あるぇ? あるぇー!?」
「あの……?」
何かを察したのか、千愛が声を上げようとするがトモエがここでフォローに入る。
「はい、守もいつまでも女の子側に居ないの。ごめんね二人とも、守はデリカシーないから。でも悪い人じゃないから、これでも王様だし?」
「おいトモエ、何故最後は疑問形にした!?」
「何よ、いきなり入ってきて! ここまで黙ってあげてたんだし大人しく戻りなさいよ!」
「んなっ」
「何よっ!」
守とトモエが顔が接触するほどにらみ合うと、サッと守の方から身を引いていた。
「いや、確かに悪かった。健康診断が終わったら各自ココの案内をするからデータの入力が終わったら着替えて戻ってきてくれ」
それだけ伝えると、守は男子側へ戻ると少しだけ慣れた手つきで採決を始めたのだった。
「すまん、騒がしいところを見せちまった」
守が謝ると、三人は意外そうな顔をしていた。
「いや、王様なんだから何も文句は言わねぇけど、あのトーンは女の子には少し圧が強すぎないか?」
「うん、僕もちょっとビックリしちゃったよ」
「……」
三人がそれぞれ突っ込みをいれるので、観念したように守はボヤク。
「あーそのちょっとな、頭悪かったから荒れてた時期の後遺症みたいなもんだ」
元ヤンかよっ!? との突っ込みはそれぞれ胸の中だけに仕舞い込んでいた。




