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守は良し、と一人で納得するとトモエがタオルを手渡してくれる。
「ああ、ありがとう」
「ううん。お疲れ様、守。大変だったでしょう?」
いや、平気だと笑顔で返しておくとついでの如くその視線は部屋の奥で震えている女性へと向かった。
「なぁ、いつまでそこでサボるつもりなんだ? ちったぁ働け暴食魔! トコロテン出す奴で出し殺すぞ!」
「なっ、何を言っているのかしら? そして、その台詞は私の世界に居る」
「はいはい、テンさん口を動かす前に脱ぎましょうねー」
「や、やめろぉぉぉ」
よっこいせ、と掛け声をかけながら両脇をがっつりホールドしたトモエがトコロテンの体を持ち上げていた。ブラン、と浮き上がった体をジタバタさせるも形勢は果てしなく不利である。
「わ、私は見たんだ! な、何なんだあの凶悪な針の山は!? まさか貴様ら、人体実験にこの偉大なる私を」
「はいはーい、テンさん? ちょっと煩いから黙ろうねー?」
「きゅぅ」
トモエが十四歳らしからぬ膂力を見せトコロテンを絞め落とすと、確認の声をあげていた。
「それで、守もその、テンさんの健康診断に付き添うの? 子供っぽくても自称大人の女性のに付き合うのは、私としてはちょっと気が引けるというか」
「まぁ、普通ならな。だが何度も説明した通り、コイツは樹の中から出てきたありえない存在だ。仮に暗殺者だったとしたら、目も当てられない」
「暗殺者とか、流石に飛躍しすぎじゃない?」
「例えだよ、例え。ええと、ほら、あれだあれ。エイリアンとか、そういう類で俺たちが病気にかかって全滅するとか、そんな笑えない可能性さえ秘めているってだけだ」
「本当は女の子の体が見たいだけとか」
「断じてないっ! こう見えて俺は一途だからな」
「一途が何の関係あるのさ。まぁ良いけど」
関係は大有りである。強制的とはいえ妻であり、裸を……。
ブンブンッ、と頭を振りあの時目に焼き付けた光景を思い出すまいとする。
「本来ならコレ着て検査なんだけどな、せめて本当に人間かどうかくらいは知りたいだろ?」
「……はぁ、人間以外の何に見えるのかしら、まったく」
そんな諦めの言葉と共にトコロテンを実験台にした健康診断が始まる。
「はっ、朝!? あれ、私の服は……ああ、寝る時はいっつも裸だっけぇ、てへ。なんて言わないからね? 何これ、何で裸の私は棒に縛られてるんでしょうねぇ? 良い感じに紐で大事なトコロが隠れてるなんて、光も仕事しないわよっ!?」
半泣きに泣きながらも、意味不明な事を叫ぶトコロテンを観察しながら守は言う。
「ふむ、身長が155cmで体重が46kgか。ナイスバディだな、胸は平だが」
「!??!?!?!?」
「次は聴力だな、ほらヘッドフォンだ。音が鳴ったらボタンを押すだけ、簡単だろう?」
守は言いながらヘッドフォンをトコロテンの頭へ装着させる。
「や、やめろぉぉ。お、おい何かしゃべっているのか!? 何も聞こえな……な、何かなっているぞ!?」
「ほれ、その握らせたソレを押せ押せ」
ジェスチャー交じりで説明すると、パニックになりつつも正確にボタンを押して見せるトコロテン。
「ふむ、聞こえてる音の範囲は常人レベルで同じか。いよいよ人間っぽい感じになってきたな、よし次は採決だ」
トモエから注射器を預かると、トコロテンの瞳孔が開く。
「まっ、待って! それは何かの武器なんだろう? 先に毒を塗り殺害する暗殺具か何かなのだろう? わ、私には効かないからな! 毒耐性もちなんだから、全然きかないんだからな!」
「ごめんな、研修一日しかなかったから上手く刺せないかもだけど勘弁してくれな。トコロさんの屍を超えてゆくよ俺」
「お、落ち着いて、ね? マ・モ・ルゥアィエエエアアアアア」
「おっと、血も赤色か。お前、さては人間か?」
視力も1.2と人並み、レントゲンに至っては内臓も同じ。たが。
「女にしては絶望的に薄いよな」
「こら、守! いくらテンさん相手でもそんな体系批判は良くないと思うの」
「あ、ああ。そうだな。しかし下の毛もないし、お前年齢誤魔化してないか本当に?」
「……私の貞操は鬼畜な二人に奪われてしまったわ。お嫁にいけないグスン」
何か途中からは自暴自棄になったのか、裸のままこの機械は何をするものなんだ? とはしゃぐトコロテン三十四歳。そんな姿に、守もトモエも一つだけ結論を下してた。
「「子供だわ」」
流石にどうかと思ったが、尿検査のさいはまさか目の前でされるとは思っていなかったが、頬を赤らめながら何かに目覚めてしまった三十四歳。
トコロテンはまさに今、こじらせた貞操観念が打破され新たなる世界を知りつつある。
「ふふ、ふふふふ……健康診断ってたっのしー!」
こうして雇用登録第一号、トコロテンが正式に衛巴の仲間に加わったのだった。




