17:幕間3--匠
影身匠は南西にある墓の前立っていた。誰も来ないのか、その墓は砂ぼこりで少し荒れていた。まだ十日前にたてられたにも関わらず、誰もがこの墓には無関心だった。
「そりゃないよな、武」
一人ごちると、匠はウィスキーの小瓶の封をきると墓へとボドボドと垂れ流してやった。
「ははっ、お前さんは酒が苦手だったからな? とびっきりキツイの用意しといたぜ」
地べたに座り、ビーストマスターだった武の墓へと向かい合っていた。
「この国に偵察にきてみれば、この国に唯一居た女ソルジャーは逃げ出し(婚期を逃さなかった)、予想通り滅亡の危機なんだから、我らの王の読みは本当に恐ろしいよ」
匠は天を仰ぐ。友人である武とこの国に来て一月、物流など色々調べたが貿易もほとんど無く、仕える王が予想した通り、この衛巴を配下に置くための情報を得て来いと、偵察に出されたのが自分と武だった。
武の従える魔物は中型の獣で、二人同時に乗っても余裕があるほどの大きさを誇っていた。武に懐いているとわかる程にベタベタだったな、と懐かしくあの頃を思う。そんな武とそろそろ情報を持ち帰ろうとした矢先の出来事だった。突然、魔物の毛並みが逆立ち、地面を掘りだしたのだ。
何度も、何度も地面を掘り続ける魔物を制御しようと、武が声をかけたが瞬間だった。
匠はソルジャーとしての直感で、その場からダッと距離をとっていた。
「なっ……」
そこには幾重にも重なる光の円が大地と空を結び、その中に武と魔物は取り込まれたのだ。正直目を疑った、こんな兵器が? 光が? 理解不能の何かが突然一人と一匹を襲い、次の瞬間弾けて消えてしまった。
円が収束し、光が消えた先には武も魔物も消失していたのだ。国中探しに探したが、とうとう見つけることが出来ず、武は魔物に襲われ死んだというていにして噂を巻いておいた。
ビーストマスターと魔物を一瞬で消し去る力を持っているなんて情報になかったし、そもそもそんなバカげた事が出来る兵器がまだこの時代に残っているのか、と疑問はそこへと向かっていく。
それから更に数日後、国王が変わりいよいよ国の滅亡へのカウントダウンが始まったと匠は考えた。帰ろうと思えばいつでも自国へ帰れたのだが、親友を失った悲しみに加えあの謎の光である。
スパイである自分もあの光に焼かれて死んでしまうのか? と自問自答しつつ、自分の汚れた役目をどうしたものかと悩んだ。
自国の忠誠心なんてものはとうの昔に失っていた匠だが、それでも仲間たちが笑っていられる場所を守れるならば、それで良いと考えていた。なのに、気が付けば一人になっていた。
自国のやり方はやや強引なのだ、人を駒にしか考えていないそのやり方に憤りを覚えつつも、そのやり方で繁栄を築いていたのだから間違ってはいないのだろう。
しかし、匠にはもう守ものも目指す場所も失っていた。歳というのは怖いものである、何もする気力がわかないのだ。絶望から、立ち上がる力がどこからも沸いてこないのだ。
「日が昇ったら、俺も行くとするよ」
そう呟いた時だった。墓が淡い光に照らされる、そして見上げた空がピンク色の輝きで満たされていた。
ああ、まだ俺に何かしろっていうのか? そんな事を胸中でぼやきながら、色さえ違えど、あの時みた光と同じソレがあがった場所へと足を運んでいた。
するとどうだろう、気が付けばこの国の健気な少年少女に心動かされ失っていた力がどこからともなく沸きでていた。
「そういう訳だ武、俺はここでしばらくお前と同じ墓に入る事にしたよ」
再びウィスキーの小瓶を備えると、匠は宣言していた。
「俺たちの国よりえげつない事を選ばなければイケナイだろうが、それでももうひと踏ん張りだけ、頑張ってくる」
『何でお前はいつも、逆境を選んでいくかね? でも、まぁ笑顔が久しぶりに見れてよかった』
空耳だろうが、そんな返答が気応え気がした。
そんな会話をする匠の姿を、気配に気づかれること無く盗み聞きするトコロテンは思う。
『ああ、間違いなく私の世界移動式で入れ替わりになった人よね、武って子』
そんな事を思いながら、匠が去った後にそっと墓に魔法をかけてやっていた。ほんの少しだけ、埃っぽかった墓が綺麗になっていた。




