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彼からの突然の誘いに唖然とする彼女は、少しの間固まる。
今日初対面の人の家にいきなり行く程コミュニケーション能力は高くない。ましてや男の子の家に行くなんて16年間生きていて一度だってないんだから。
「俺は用事があって遅くなるけど、先にリクと家で待ってて」
「いや、あたしは…」
行けない――と言おうとした瞬間、チャイムが鳴り一斉に皆が動き出す。
ざわざわし始め、自分の声がかき消されるのを感じた彼女がその口を閉じる。
彼も動き始め、先に歩き出してしまった。
さもあたしの意見なんて聞く気がないかのように、断れる隙を与えてくれない空気に困惑する。
「待って!!」
その状況に苛立った彼女は自分でも思いもよらない行動に出る――彼の手を掴んで引き止めたのだ。
男の手を握ったことのない彼女が、それどころか触れたこともない彼女が、彼の手を掴んで呼び止める。
今まで内気で流されてきた彼女にとって、新しい土地で心機一転変われるチャンスかもしれない。
「ん?どした?」
あれ――なんだろうこれ…
「…いや…」
彼の鋭い漆黒の瞳を見ているとなんだか――ふわふわして、
「名前…まだ聞いてなかったから」
何も考えられなくなる…
「ハルキ。莇ハルキ」
こんなことが言いたかったわけじゃないのに――どうして…
「じゃあ今夜。」
そう言った彼が彼女に掴まれた右手を左手で持ち替えたと思ったら、そのまま甲に唇を落とした。
その瞬間、見ていた周りの女の子達が絶叫し、耳の鼓膜が裂けるかと本気で思った。
固まる彼女を見て、彼の顔がほころぶ。
なに…これ…ついてけない…




