5
一限目から移動教室だったため、皆が教室を出て行く中、彼だけがその場から動かず、彼女をずっと見つめている。
普通ならそれを不振に思うだろうが、彼に見られているのを感じている彼女は、不振に思うというより、恥ずかしさでいっぱいだった。
変な汗が体内から溢れでる。
体が熱い。
早くこの場から立ち去りたくて、机から必要な教科書とノートを急いで取り出し立ち上がると、彼がふいに彼女の白い手をばっと掴んだ。
―――な…なに!?
びっくりした彼女は、今まで一度しか見ていなかった彼の顔を、反動でもう一度見ると、目が合い一瞬だけ時が止まる。
こんな綺麗な顔の人…見たことない。
掴まれた手をぐっと引っ張り、自分の方へと引き寄せた彼は、彼女の顎をクイっと持ってそっと呟いた。
「綺麗になったね…すごく綺麗だ」
耳がざわざわして落ち着かない。何を言っているのか理解できない彼女を余所に彼は更に続ける。
「やっと逢えたね」
言葉と行動についていけない彼女。それもそのはず。異性に慣れていない彼女は、幼稚園以来こんな近くで男の子の顔をまじまじ見たことも見られたこともない。
ましてや、こんな美男子と関わることなんて初めてで、それだけでもパニックなのに、こんな唇が触れるか触れないかのギリギリの距離で喋るなんて気絶しそうだ。
いや、喋っているのは彼一人だけど。
大体“綺麗になった”とか“やっと逢えた”とか…初めて会うはずなのに、どうして前から知っている定で話しているんだろう…
彼女が疑問を巡らせているのがわかったのか、彼が顎から手をゆっくり放すと、今度はしゃがんで彼女の顔を覗き込んだ。
「覚えてないのか?」




